紹介 風の会パンフレット『事故初期の運転操作・事故対応の検証』

仙台原子力問題研究グループの石川さんが力作パンフを出版いたします。以下、著者本人による紹介です。

<2018.2.25記>
最近では『鳴り砂№267、270』で、NHKスペシャルの福島第一原発事故の特集番組と、同取材班による「福島第一原発1号機冷却『失敗の本質』」(講談社現代新書)を紹介しましたが、これは筆者が福島原発事故の経過、特に1号機の非常用復水器IC(イソコン)の操作に、ずっと疑問を抱き続けてきたためです。
事故の全体像・詳細が見えなかった中で、東電の事故中間報告書(2011.12.2)が出されましたが、1号機の事故経過で運転員が自動起動したICを「温度降下率遵守のため」に停止したという説明や[23頁など]、その後の18時以降のゴチャゴチャしたIC操作の説明(言い訳)などに、女川原発裁判で女川原発を含む原発や核施設で発生した様々な事故・トラブルの運転操作・手順面での教訓などを主張してきた筆者としては、直観的に大きな違和感を覚えました。
そして、原子力資料情報室の上澤千尋さんにお送りいただいた「(福島第一の)原子炉設置許可申請書」(女川原発裁判で“見慣れて”いました)や「1号機保安規定」などの資料を読み込むにつけ、1号機運転員による地震直後からのIC操作自体に大きな問題があり、東電は虚偽の説明をしている、と確信するようになりました。
それらの“検討の成果?”は『-事故から1年、でも真相は未だ闇の中- 福島原発事故の操作・対応の問題点(中間整理)』という風の会パンフや、『「女川」から見た福島原発事故(2012.1.15+1.22)』<福島弁護士会学習会用資料>などの文書にまとめました。その後も、事故資料・解析結果が公開され、東電・国の様々な問題点が浮上するたびに、『鳴り砂』に解説を掲載してきましたが、主要情報が一通り揃った段階で、これまでの断片的考察を最終整理する必要性を感じました。そこで、2015年春頃から「1号機の運転操作問題」の論点整理を行なってきましたが、事故から7年が経とうとしているこの時期に、なんとか“完成”させることができました。

今回のパンフ(論考)の内容は、末尾添付の【目次】をご覧いただければ、おおよその推測がつくものと思われますが、多少“宣伝”をさせていただきます。
「第1 はじめに」では、ある程度“初心者”でも(実際には裁判官が)書面の内容が理解し易いように、その前提となる福島原発(BWR)の仕組みや冷却機器等の役割などの『基礎知識』をまとめています。
「第2 『手順書』の全体像」では、運転員が事故時などの操作に参照すべき「原発の運転マニュアル」である3種類の手順書(事象・徴候・シビアアクシデント)について、手順書間の役割分担や使用時の基本的考え方などを解説しています。手順書の詳細な記載については、次の「第3」で、各論点ごとに多数引用しています。
「第3」では、運転員の事故対応について、「1 地震発生直後から津波到達前まで」と「2 津波到達後から炉心冷却機能喪失に至るまで」の2つの時期に分けて、『鳴り砂』ではほとんど分析してこなかった2・3号機も含めて、1~3号機の運転員操作・事故対応の問題点を、手順書の記載(=事故対応の基本・原則)と対比させながら、洗い出しました。
特に、“筆者こだわり”の1号機IC操作については、「1(4)」の津波襲来前の検証で、前記「NHKスペシャル取材班の講談社現代新書」の「最新情報」も踏まえ、なぜ3.11地震後に初めてICが作動したのかを明らかにし<④>、東電が現在でも主張を撤回しない「温度降下率遵守によるIC手動停止」が単なる言い訳・虚偽説明でしかないことを筆者オリジナルの計算で明らかにした“つもり”です<⑦>。また、運転員が急激な温度低下を恐れた「本当の理由」は、田中三彦さんが「岩波新書(原発はなぜ危険か)」で指摘している『脆性破壊・老朽化』への懸念と思われることや、「温度降下率遵守規定」は本件事故時には適用外だったことを、上澤さん提供の「保安規定」に基づき解明した“つもり”です<⑧>。
また、津波襲来後・全電源喪失後の「2(4)」では、当直長・吉田所長など東電全体がICの重要性を認識していなかった実態や<②・③・⑤>、住民避難に直結する原災法10条・15条通報の“遅れ” <④>を明らかにした“つもり”です。そして、東電が設置許可申請書に記載していたICタンク水量(100%)を、事故前(運転開始以来日常的に?)には80%に維持管理していた問題(違法?)を指摘しました<⑥>。さらに、徴候手順書「水位不明」に準じた事故対応や、配管の漏えい確認のため?ICを手動停止した後、1系統を手動起動させてそのまま動かし続けていれば、炉心溶融に至った今回の1号機の事故を軽減できた可能性があることを示した“つもり”です<⑨・⑩>。
「そして、この検討の過程を通じて、東電にはそもそも原子炉を設置するために必要な技術的能力および原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力<炉等規制法第24条1項3号、実用炉規則第12条各号>が十分には備わっていなかったことや、福島原発事故発生直前の段階でも、大きく遡れば原子炉の設計・建設の段階から福島原発事故直前に至るまでの約40年~30数年の長きにわたり、保安のために必要な措置等<同法第35条1項、同規則第7条の4>を十分に講じていなかったこと、さらに、上記の各技術的能力や保安措置などを十分に発揮させることができないような経済性を優先させる観点からの手順・事故対応が定められ、それらに基づく運転員への教育訓練がなされていたこと、などを明らかにする。」<「第1 はじめに」の一部抜粋:二重下線は本原稿用>

なお、今回のパンフの主要論点である「運転員操作・手順書問題」については、田辺文也氏が岩波『世界』に4回の連載をしていますが(2015~2016)、田辺氏の考察対象が「全電源喪失後」の炉心溶融に至る前段階についてで、重複はしていませんので(手順書の概要説明部分は重なりますが)、田辺論文をご覧の方も、是非本パンフをご参照いただければと思います。
その上で、今回のパンフ(論考)が、田中さん・上澤さんも関わっている『もっかい事故調』が継続している福島原発事故の「真相解明」作業や、東電・国の福島原発事故の責任を問う裁判その他の活動の一助となれば(“スキマ”を埋めることが多少なりともできれば)幸いです。<*そのため、文章的には読みにくくなりましたが、引用文献の記載を徹底し、また引用文献数はなるべく抑えるようにしました。>

【目次】
第1 はじめに                               4
第2 「手順書」の全体像                        9
1 「手順書」の適用範囲                       9
2 手順書の体系・移行(本論考での検討対象手順書)          10
3 手順書所定の操作責任、手順書間の移行等の判断主体          11
4 手順書使用の基本的考え方                       12
第3 福島原発事故初期における運転員事故対応の適確性          14
1 地震発生後から津波到達前まで                    15
⑴ 地震発生直後の事象の推移                       15
⑵ 非常用DG起動後の手順書・手順の検討(主に3号機手順書に依拠) 15
① 適用手順書の検討                       15
② 地震対応手順                           17
③ 地震対応手順の存在に触れようとしない東電              17
④ 手順の妥当性の判断基準                       19
⑶ 非常用DG起動後の2・3号機運転員の事故対応          19
① 2・3号機のRCIC手動起動                  19
② 2・3号機のSRV操作と原子炉圧力              21
③ 2・3号機のSRV作動に伴うS/C冷却              23
⑷ 非常用DG起動後の1号機運転員の事故対応              25
① 1号機特有の非常用復水器(IC)                25
② ICの自動起動とその後の手動停止                  27
③ 経験のないIC作動とその理由                  29
④ ICはなぜ作動したのか                       32
⑤ IC2系統の手動停止                       36
⑥ 不慣れなIC手動操作の実態                  39
⑦ IC作動時の実際の「温度降下率」                40
ⅰ ICの自動起動後から手動停止時まで              41
ⅱ 津波前のIC1系統の手動操作時                  43
⑧ 運転員が急激な温度低下を恐れた本当の理由              44
ⅰ 温度降下率規定の根拠                       44
ⅱ 適用外だった温度降下率規定                  45
ⅲ 運転員が急激な冷却を恐れた理由               49
2 津波到達後から炉心冷却機能喪失に至るまで              52
⑴ 津波到達直後の概要                      52
⑵ 3号機での事故対応の失敗                      52
① RCICおよびHPCIによる冷却                  52
② HPCIの手動停止の準備不足・判断ミス              53
③ 当直と発電所対策本部等の連絡体制・意思疎通の不備         55
⑶ 2号機での事故対応の失敗                      56
① RCICによる冷却                      56
② RCICの水源切替から停止に至るまで              57
③ RCIC水源切替後の運転操作・発電所対策本部の対応     58
④ 東電の当直体制自体の問題                      59
⑷ 1号機での事故対応の失敗                      60
① 炉心冷却機能(ICおよびHPCI)の喪失              60
② 全電源喪失後のIC作動状況の誤認問題              63
③ 当直長のICに対する重要性認識の欠如              64
④ 東電の15条通報遅れ・事象手順書規定の認識不足         65
⑤ 東電の重要機器ICに対する認識の欠如              67
⑥ ICの復水器タンクの冷却水量問題:設置許可との齟齬     67
⑦ 全電源喪失後の操作から分かるIC操作技術力のなさ          71
⑧ 徴候手順書「水位不明」に思い至らなかった東電の技術的能力     74
⑨ 「水位不明」手順による事故軽減の可能性              76
⑩ ICの機能発揮による福島原発事故の未然防止の可能性     78
[引用文献]                               82

 <了>