2025年1月25日に石巻市で開催された「女川原発再稼働差止訴訟 控訴審判決報告&講演会」動画です
2025年1月25日「女川原発再稼働差止訴訟 控訴審判決報告&講演会」動画
以下、海渡弁護士のFacebookから転送です
今日は、石巻で女川原発の運転差し止め訴訟の控訴審判決の報告会でした。小野寺信一弁護士の判決報告の後、私は一時間ほど、全国の原発訴訟の実情と、私は女川原発の運転差し止め訴訟の控訴審判決の積極的な意義とその問題点の双方をお話ししました。
今日のお話の中の女川の差し止め訴訟の意義と限界に関する部分を共有しておきます。
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2024/11/27仙台高裁女川原発差止控訴審判決の積極的な意義とその限界
判決は原発について、重大な危害をもたらしうる特異な施設と認め、避難計画の不備は、人格権侵害の具体的危険性があると事実上推定されるとしています。
原子力発電所は、ひとたび重大事故を起こせば、放射性物質等の放出、拡散によって、広範な地域の住民等の生命・身体に重大な危害を及ぼし、他の分野の事故にはみられない深刻な影響をもたらす危険性を有する極めて特異な施設である。
このような危険性(リスク)の顕在化を防ぐために、関連法令において規制等を設けている。
避難計画に定める防護措置が、適切に講じられていないときは、原子炉施設の有する危険が顕在化する蓋然性が高く、人の生命・身体に係る人格権が違法に侵害される具体的危険があると事実上推定されると考えられる。
第五層について、司法が判断すべきと判断した高裁判決は画期的である
第五層=避難計画について司法判断を回避する判決が続いている中で、これを明確に認めたことは画期的である。
「本件避難計画に定める防護措置が、適切に講じられていないときは、原子炉施設の有する危険が顕在化する蓋然性が高く、人の生命・身体に係る人格権が違法に侵害される具体的危険があると事実上推定される」とまで判断している。
東海第二控訴審の裁判所が、島根の仮処分決定に沿った判決をしてはならないという歯止めとなったといえる。
この判決を活かし、東海第二の控訴審で、必ず勝訴し、女川の原告の皆さんにご恩返しをしたいと思います。
女川原発控訴審判決の限界 その1
それぞれの防護レベルが相互に補完し、総合力で安全を守る!?
本件避難計画は第5の防護レベルの対策であり、ほかの防護レベルの対策とは独立して防護の効果を上げられるものでなければならないが、本件避難計画において予定されている避難退域時検査場所(検査所)は、実際には開設できないか、開設しても継続できないし、自家用車と並ぶ避難手段であるバスの確保や配備もできないから、自家用車で、検査所に向かった住民や一時集合場所で、バスを待つ住民は避難することができず、UPZ内に閉じ込められ、多量の放射性物質等を浴びることになり、避難計画として実効性がないこと等をいうものである。
しかし、深層防護とは、人と環境に影響を与える諸現象やそれへの対策の効果には不確さが存在し、一つの対策だけで、は影響を防ぐことができないことを考慮して、それぞれ別の目標を持った複数の防護レベルの対策を用意し、それぞれの防護レベルで、最善が尽くされることにより、全体としての効果が期待されるというものである。
各防護レベルの防護策がほかの防護レベルの防護策とは独立して防護の効果をあげられる必要があるという場合においても、それは、あるレベルが機能しないことが他のレベルに影響を与えないことを意味するのであり、各防護レベルが相互に無関係に考えられるべきであるということを意味するのではない。
かえって、深層防護の考え方においては、各防護レベルの防護策がバランスよく講じられ、相互に補完し、その総合力で安全を守るシステムを考えることが重要であるとされている。
深層防護の各障壁は独立していなければならない
・深層防護とは何か
(新規制基準の考え方:67頁以下)
・ 「安全に対する脅威から人を守ることを目的として,ある目標をもったいくつかの障壁(防護レベル)を用意して,各々の障壁が独立して有効に機能することを求める」考え方
・これは、国際原子力機関(IAEA)によって福島第一原発事故以前より確立さ れている国際的な基準である。
五層の防護レベルとは
複数の防護レベルを用意しなければならない
第1の防護レベル: 異常の発生の防止
第2の防護レベル: 異常発生時におけるその拡大の防止
第3の防護レベル: 異常拡大時におけるその影響の緩和ひいてはシビアアクシデントへの発展の防止
第4の防護レベル: シビアアクシデントに至った場合におけるその影響の緩和
第5の防護レベル: 放射性物質が大量に放出された場合における放射線影響の緩和
各々の障壁が独立して有効に機能すること
<前段否定の論理>
ある防護レベルの安全確保対策にあたって,前段階の防護レベルにおける安全 確保対策の有効性を前提としてはならないこと
<後段否定の論理>
ある防護レベルの安全確保対策にあたって,後段の防護レベルが控えていること を前提としてはならないこと
高裁判決はなぜ深層防護が必要か理解できていない
原子力利用においてIAEAが深層防護を要求している理由
(新規制基準の考え方:67頁以下)
「原子力発電所は,炉心に大量の放射性物質を内蔵しており,人と環境に対して大きなリスク源が存在し,かつ,どのようなリスクが顕在化するかの不確かさも大きいという点で,不確実さに対処しつつリスクの顕在化を着実に防ぐため」
→原発事故被害の危険の特異性とそれを回避するための科学の限界を踏まえつつ、 それでも原発の稼働による人格権侵害の具体的危険を可能な限り排除するために採用された考え方
女川控訴審判決の限界 その2
本件避難計画が放射性物質等の大規模な放出による放射線影響の緩和という第5レベルの防護措置に求められる防護の効果をあげられないというためには、その判断をする前提として想定される放射性物質等の異常な放出の具体的な機序や態様を特定した上で、その特定した機序及び態様による放射性物質等の放出の危険が発生した後、本件避難計画が定める避難等の必要性の判断、指示及びその伝達、並びに避難計画に従った段階的避難又は屋内退避等の過程における具体的な場面のいずれかにおいて、当該放射性物質等の放出の機序及び態様の下で、防護の効果をあげることができない具体的な蓋然性があることを明らかにする必要がある。
このように原因となる事象の具体的態様を特定しないと、いかなる態様の事故にも完全に対応できる地域防災策の策定を求めることになるが、原子力安全においては相対的安全の考え方が採られていると考えられ、また、防災基本計画も、災害時の被害を最小化し、被害の迅速な回復を図る「減災」の考え方を防災の基本理念としており、深層防護も第5レベルについても同様の考え方に基づくものであると考えられること等を踏まえると、第5レベルの防護を含む地域防災の在り方として、いかなる態様の事故にも完全に対応できる防護策ないし地域防災の策定は求められていないと考えられる。また、発生する蓋然性が明らかでない事故態様を前提として問題点を観念してみても、その場合に発生する生命・身体に係る人格権が侵害される危険は抽象的なものにとどまり、人格権に基づく妨害予防請求の根拠となり得るような生命・身体に係る人格権が侵害される具体的危険に当たるとは考え難い。
どんな事象が起きるか、具体的な蓋然性を原告が主張立証せよと命ずる高裁判決
しかし、控訴人らの主張は本件避難計画の定める避難の原子力規制委員会による必要性の判断、原子力災害対策本部による避難等の指示及びその伝達並びに避難計画に従った段階的避難又は屋内退避等の過程(殊に、避難指示が輸送手段、経路、避難所の確保等の要素を考慮してされること)を踏まえたものではない。
控訴人らが、UPZ内の住民につき段階的避難の実施がおよそ不可能であり、一斉避難を余儀なくされる事象や、本件避難計画の定める避難経路が利用不可能な事象等があり、その場合には本件避難計画の定める措置が防護の効果をあげられない旨を主張するならばこれを主張する控訴人らにおいて、上記のような本件避難計画では対処できない事象が発生する具体的な蓋然性を主張立証すべきであるが、本件において、そのような主張立証もされていない。
そして、その前提となる事象が生じる蓋然性が具体的に主張立証されていない以上、控訴人らが主張する点をもってしても、本件避難計画が想定された放射性物質等の放出に対し防護の効果を上げることができないとはいえない。
高裁判決の事実認定は誤り。
しかし、高裁判決の活かせる部分は全国の訴訟で活用していく。「上告しない」は「名誉ある撤退」(原伸雄)
事故は予測不可能なものであり、原告に予測不可能な立証を求めている点で高裁判決には重大な誤りがある。
避難場所の開設についても、判決は臨機応変にやればできると楽観的な見通しを述べて、原告の主張を退けている。
バス輸送の確保ができないことについては、これを認めるに足りる証拠はないと判断した。
しかし、弁護団の説明にあるとおり、原告は十分に主張し、立証してきた。
また、市職員のバス添乗がバス協会と協定が締結されているが、添乗員の確保は非常に困難であることは十分に立証されていた。
しかし、最高裁・上告審は高裁の事実認定を覆すことはできない。この間違いを糺すには上告ではなく、別訴を提起することが可能である。
女川原告団による上告断念は、同じ争点で闘っている東海第二や、伊方などの訴訟への「連帯の意思表示」として、重く受け止め、これからの闘いにこの貴重な決定の活かせる部分を活かしていきたい。
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プレゼンの結論
原発を巡る司法判断の危機に立ち向かい、何ものかに竦んでしまっている裁判官を説得し、勇気づけ、裁判を通じた脱原発を実現しよう !
どのようにして、裁判官を説得するのか ?
原発事故が地域コミュニティを破壊してしまう深層を明らかにする。
原子力技術の制御の困難さを裁判所にわかりやすく説く。
いつどのような自然災害が起きるかわからない、そして、ごくまれな災害にも原発は対応しなければならないことをとく。
人口が集中している地域や避難困難な地理条件のサイトについては避難計画の未確立を引き続き重大な争点としていく。
東北日本太平洋沖、熊本地震、能登半島地震の連続により、日本全土が1000年に一度の大地殻変動期に突入し、想定をはるかに超える地震、火山爆発の危機が高まっている。このことは、原告が立証しなければならない事項ではないが、深刻な自然災害に起因する原発事故の危険性がかつてなく高まっていること正面から立証し、原発の稼働を認めることが未来の日本国民に対する深刻な犯罪であることを論証していく。
原発の発電法としての優位性は完全に崩れており、再稼働をしなくても、エネルギーの需給には何ら支障がないことを論証し、裁判官への心理的なハードルを取り除く。
子ども甲状腺がんの当事者を含め、福島原発公害被害者を救済しなければならない。
このような被害を二度と繰り返してはならない。
今日お話ししたかったことのまとめ
福島原発事故の被害を忘れるな
福島原発事故が東電と国の過失によって起きたことを忘れるな
原子力ムラが事故時に決定的な事実を隠ぺいしたことを忘れるな
原発GX法とエネルギー基本計画は福島原発事故を忘却した愚かな政策であり、これに賛成するものは次の原発事故を招き寄せた責任を負う
事故の最も深刻な被害者であるこども甲状腺ガンにり患した若者たちと共に闘おう
原発汚染処理水を海に放出するな