仙台原子力問題研究グループに新しい投稿があります
≪速報:道路陥没事故が示す「硫化水素・硫酸」の危険性(25.1.31)≫
1.28埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故では、転落したトラック運転手の救助が1.31現在も未了です(ただし、状況は困難でも、最初の車体引上げ時のワイヤー切断(強度不足?)などは、いくら緊急時であってもあってはならないと思います)。
さて、既にニュース等で言及・解説されていますが、道路陥没の原因として‘下水道管の硫化水素・硫酸による腐食’が挙げられています。この現象は、36年前(1989年)の文献でも、「最近,嫌気性細菌のなかで硫酸塩還元菌にかんする関心が高まっている.…下水道の分野では,ふるくから下水道管の硫酸腐食の原因が下水の硫酸塩還元と関係している事が知られている.」、「下水管路は一般に通気性は良く,流速も比較的速いので嫌気性細菌が活動するには適さないように思われる.しかし,汚水の流速が遅くなる等の諸事情により下水管路内にたい積物が発生する.これが硫酸塩還元菌の棲みかとなり汚水中の有機物と硫酸塩(あるいはイオウ含有物)を用いて硫酸塩還元を行い,硫化水素が発生する.気層に放出された硫化水素は,管きょ内壁に生息するイオウ酸化細菌により硫酸に酸化される.この硫酸が管きょ腐食の直接的原因である.硫酸は管きょのコンクリート部分を侵食し,さらに進めばそれを支える鉄も腐食する.そのため管きょは崩壊し道路が陥没することがあるという.」、「管きょで最も侵食の進んでいるのは,水面があたる部分と管きょの天井付近である.水面付近は気層部分と水槽部分の境になるところであるから,最も硫化水素に富みかつ好気的な部分といえよう.天井は絶えず湿気がありまた気層中の硫化水素の流れから考えてイオウ細菌が生育するのに適する部分と思われる.」<松井三郎・立脇征弘『総説 硫酸塩還元菌』環境技術、Vol.18、No.4(1989)、pp.25-40>などと指摘されています。他にも、「汚水が勢いよく流れ落ちると空気に触れ、硫酸が生じる」<1.31岩手日報>とのことで、空気中酸素との化学反応(酸化)による硫化水素からの硫酸生成の可能性もあるようです。
今回の事故発生を知り、改めて筆者が懸念したのは、この間こだわってきた女川2の硫化水素防護についてで、これまでは女川1沈降分離槽(タンク)内の「硫酸塩還元細菌」による「硫化水素」の危険性だけに注目してきましたが、「イオウ酸化細菌」も自然界に広く存在し、なおかつタンク内は硫化水素も酸素(曝気空気)も併存する環境であることに鑑みれば、タンク内(気相部の天井や壁面)で微生物学的に(+曝気空気による酸化で)「硫酸」が生成されている可能性・危険性も考慮すべきことに気付きました。しかも、そこで生じる「硫酸」は、上記文献や新聞記事では指摘されていませんが、「不揮発性」という“非常に厄介な性質”を有しているため、換気しても希釈拡散されず(むしろ換気により水分が気化・除去されれば、硫酸自体は高濃度化)、「管きょ腐食・コンクリート侵食」などの酸化作用(化学反応)により中和・無害化されない限り、天井や壁面にいつまでも存在し続けるのです(天井や壁面で凝縮した水分により‘硫酸の雫’となって滴り落ちるなどして液相部に移動・洗い流されれば、天井や壁面の腐食は幾分軽減されます)。そして、最も認識すべきことは、微生物学的な硫化水素発生と同様、「イオウ酸化細菌」が沈降分離槽内・接続配管内に棲み続けている限り(不可逆的に)硫酸生成が続くため、空気中酸素による酸化も含めて、「硫酸腐食」の危険性は決して解消されないことです。
沈降分離槽で最初に硫化水素が確認されたのは「2018年6月」で<令和4年2月16日付「東北電力株式会社女川原子力発電所令和3年度(第3四半期)原子力規制検査報告書(原子力施設安全及び放射線安全に関するもの)」>、それから現在まで6年半が経過しています。2021.7.12事故後、「2022年3月末までに、タンク内の硫化水素濃度が0ppmとなりました」<東北電力2022年5月16日付女川原発2・3号機定期報告(2022年4月分)別紙>ということから、半年は硫化水素濃度が低減し、その後も再発防止対策により以前のレベルよりは低く維持されている可能性はありますが、未だに同タンクに多量のスラッジが保管され、硫化水素が発生し続けていることに鑑みれば(東北電力は一切の濃度データの公表を拒んでいるため確認不能)、もしも既に「イオウ酸化細菌」がタンク天井・壁面や接続配管などに棲みついていれば、硫化水素をエネルギー源として硫酸を生成し続けているはずで、女川原発でも硫酸腐食の危険性が存在することになります。ちなみに、東北電力は、7.12事故当日「14:30」の異臭連絡より早く、「14:20」に「ランドリ系沈降分離槽」および「ランドリドレンタンク」設置区画等で硫化水素が「50~5ppm」検出された原因について、「ダクトの接続部から当該タンク周辺に微少に漏洩したもの」と説明していますが<東北電力宛「申入書兼公開質問状」に対する2024.7.12回答>、もしかすると「硫酸による配管・ダクト部の腐食」によって漏洩が生じた可能性も浮上します。
そして、「硫酸腐食」のもたらす最悪の事態は‘タンク内硫化水素の全量放出’ですが、東北電力が女川2有毒ガス防護申請時に「毒ガスガイド」に従って安全評価(全量放出を仮定!)を実施していれば、その危険性の有無を判断・把握できていたはずですが、東北電力は詭弁を弄して安全評価を“完全にサボった”ため、安全性証明は全くなされていません。そうであるならば、少なくともタンク上部の内表面の硫酸濃度を測定し、現時点で腐食・タンク崩壊による硫化水素全量放出の可能性の有無を検証する必要があると思います。また、硫化水素排出経路となる排気塔までの換気系配管についても、内表面の硫酸濃度を測定し、硫化水素漏洩の危険性の有無を検証する必要もあります。
一方、規制委も、硫化水素からの硫酸生成という“新知見”に鑑み、硫化水素発生源となる設備を有する原発については(女川原発だけ?)、硫酸腐食に対する設備・配管の健全性確認や、万一の硫酸腐食による硫化水素漏洩・全量放出に対する安全確認を改めて事業者に求める必要があるのではないでしょうか。
<2025.1.31記 仙台原子力問題研究グループI>