会報「鳴り砂」2-132号(2024.9.20)
会報「鳴り砂」2-132号別冊(2024.9.20)
(1面論文です)
13年も動いていない女川原発2号機を動かすのは無謀だ!
8.25シンポ-9.1集会を引き継ぎ、再稼働を全力で阻止しよう!
9月3日、東北電力は女川原発2号機の原子炉に核燃料を装塡する作業を開始し、9日終了したと発表した。装塡した燃料集合体は560体だという。
また、6日にはホームページ上で「女川原発2号機における再稼働スケジュール等に関する情報」が更新され、「再稼働工程の概要」の新版も掲載された。
https://www.tohoku-epco.co.jp/information/1242141_2521.html
https://www.tohoku-epco.co.jp/information/__icsFiles/afieldfile/2024/09/05/1242141_13.pdf
これによれば、今後臨界を経て、2ヶ月近くをかけて原子炉の昇温・昇圧をし、11月初めに原子炉起動というスケジュールとなっている。
しかし、女川原発の新川伸之環境・燃料部長が「13年ぶりの燃料装塡で経験者も少なくなってきた」と話し、また上記「再稼働工程の概要」でも、20ページにわたって「再稼働工程中に想定される事象の具体例」が公表され、「数多くの新規設備を導入したことで過去の原子炉起動時とはプラントの状態が異なること、長期停止期間を経て、原子炉の起動過程における温度・圧力や配管内の液体・気体の流れの変化や各設備の運転による振動などにより、プラントの状態が久しぶりに変化することから、様々な警報や不具合事象が発生する可能性があります」としているように、再稼働に向けておっかなびっくりであることは隠しようもない。つまり、7100億円もの巨額をつぎ込み、「安全対策に万全を期しています」と宣伝しながらも、実際には動かしてみなければ安全に動くかどうかは分からないということだ。
私たちは、安全かどうか、また必要かどうかを2の次とし、国の「原発回帰」の一環として、全国のBWR(沸騰水型)の再稼働の先陣を切らされようとしている女川原発再稼働を許すことはできない。この間の闘いの成果を引き継ぎ、11月といわれる再稼働の阻止に向け、さらに強く東北電力・国に迫っていこう。
●「原発複合災害」から逃れることが不可能であることを明らかにした8.25シンポジウム
8月25日、せんだいメディアテークにおいて「女川原発再稼働を問うシンポジウム」が開催された。主催は「さようなら原発みやぎ実行委員会」で、約200人が参加(Zoomは25人)。講師は北野進さん(「志賀原発を廃炉に!」訴訟原告団長 元石川県議会議員)、上岡直見さん(環境経済研究所代表)。
当日の動画はこちら。
北野さんは「能登半島地震と志賀原発で起きたこと」と題して、今年1月1日に発生した能登半島地震の特徴、志賀原発の被害、さらに「避難できないこれだけの理由」として避難計画の破綻について語られた。
●能登半島地震の「3つの幸運」
元祖「原発を止めた裁判官」である井戸謙一弁護士によれば、能登半島地震には「3つの幸運」があったという。それは①志賀原発は震度7を免れた ②隆起を免れた ③とんでもない短周期地震動に襲われなかった の3つである。この3つとも、能登半島地震では原発の近隣では観測されている。(ちなみに、福島原発事故でも「4号機の奇跡」といわれる幸運、また女川原発でも震災時に「外部電源が一つだけ残った」「津波が防潮堤より1メートル低かった」という幸運があった。原発事故がどれだけ過酷なものになるか否かはまさに紙一重だ。)
しかし、こうした「幸運」にもかかわらず、震度5強、399ガルの揺れ(想定地震動は600ガル)で、志賀原発は様々な被害を受けた。中でも2号機の変圧器は復旧までに2年以上かかるとされている。
●広域避難の前提条件…破綻
「北陸大震災といってもいいのでは」と北野さんが言うほど、内陸地殻内地震としては国内最大級の今回の地震では、想定外の150kmの活断層が動き、過去30年間日本が経験した地震被害がすべて出現した。そして今後も志賀沖などで巨大地震が予想されることから、過去の話ではなく、まさにこれから先に向けての深刻な課題だと強調する。
こうした地震そのものの問題に加え、今回、何よりも広域避難が不可能であることが証明された。それを北野さんは「広域避難の前提条件が破綻した」と結論づけている。その条件とは何か? 北野さんは6つあげている。①電力会社からの正確な事故情報の発信 ②放射能拡散状況の把握(モニタリング) ③自治体から住民へ避難情報の伝達 ④移動手段の確保 ⑤避難経路の確保 ⑥避難先施設の確保 だ。
①ERSSといわれる24時間緊急時対策支援システムがあるにもかかわらず、毎年のようにトラブルが続出して使いものにならない ②モニタリングポストが116ヶ所中18ヶ所欠測し、急遽用意した可搬型モニタリングポストやモニタリングカーも、道路が通行できないため設置・走行できない。また通信自体できない ③防災無線スピーカーがほぼ使えず、停電・停波(通信障害)でテレビ・携帯が使えない(最終的に携帯が応急復旧完了したのは3月22日) ④今回の地震時は幸いなことに大雪ではなかった。これで雪があればさらに避難は困難であり、自家用車避難や避難バス、福祉車両、さらに船を使っての避難は不可能だった ⑤能登島では2つの橋が通行止めになり、一時孤立した ⑥避難先である放射線防護施設も損傷し、陽圧化装置が機能しない、また屋内のトイレが使えず屋外に出なければいけない、という様々な課題が、今回の地震で一挙に明らかになった。
北野さんは、被害で戸が壊れたままの自宅も写し、「放射能も泥棒も入り放題で、屋内退避の意味がない」。また、地域が壊滅し自治体職員も被災している中で、もし原子力災害が重なったら、全国からの支援も途絶し、原子力防災業務を担える人がおらず、見捨てられ被ばくを強いられる恐怖を感じた。そして「全国の皆さん、また自治体の関係者の皆さんも、是非能登にも来ていただいて、実態を見ていただいて、もう原発再稼働はとんでもないんだと確認して頂ければと思います」と結んだ。
●原子力は「令和の玉砕」か
続いて上岡直見さんの講演だ。新潟県原子力災害時の避難方法に関する検証委員会の委員でもあった上岡さんは、現在仙台高裁で進められている女川原発再稼働差し止め裁判においても何度も原告側の意見書を書いて頂き、大きな力になっている。
上岡さんは、①「原子力は令和の玉砕か」 ②地震列島と核施設 ③原子力は「集団無責任体制」 ④被害予測 ⑤原子力防災体制の破綻 ⑥能登半島地震に即した原子力防災の検証 ⑦市民・自治体の取り組み と、現下の課題についてお話し頂いた。
①まず上岡さんは、「原子力は令和の玉砕か」と問いかける。つまり、「戦局が不利になるほど客観的な判断を失い、戦術的・戦略的にも無意味な自滅作戦を繰り返して崩壊した旧日本軍と酷似している」ということだ。「原発推進派は、このくらいの被害で済んだのは「福島の勝利」だっていうことを言ってるんです。原子力が必要かどうかっていう以前に、原子力を維持することの方が目的になっちゃってるんですね。まさにあの日本の敗戦の構図そのものに陥ってるんじゃないか。」
②一方、北野さんたちが珠洲原発を止めたように、東北でも多くの場所で原発計画が持ち込まれたが拒否した。例えば岩手県の田野畑村では1981年に原発の話があったが、反対運動が起こり、最終的には村長が拒否した。ここは東日本大震災で25mの津波に見舞われ、万が一原発があれば福島原発事故を超える被害もあったかもしれない。
③さらに原子力は「集団無責任体制」だと上岡さんは喝破する。「国とか省庁、規制委員会、発電事業者、それから道府県市町村、これらがみんなお互いに責任を押し付けあって空白ができ、住民が取り残されています。」 最近では田中元規制委員長の講演にも示されているように、「できるだけ避難させない」方針に転換しつつある。これは政府・自治体の指示により避難させると事業者に賠償責任が生じるためであり、「住民の被ばくを前提とした原子力防災と言わざるを得ない。」
④被害予測として、2023年4月28日の実際の気象条件を適用した女川原発重大事故時のシミュレーションを、動画で公開した。これによれば、4時間で30km圏内、そして8時間後には仙台も避難範囲となり、避難計画が全く破綻していることが明らかだ。
⑤規制委員長は、避難計画に関して「避難できなくなった人は被ばくしてくださいということなのか」という質問に対し、「防災基本計画っていうのは自治体の方の問題だ」ということで、「全く関与しない」と回答している。
⑥安定ヨウ素剤の服用について、規制庁は「緊急時に、プルーム通過時の防護措置が必要な範囲や実施すべきタイミングを正確に把握することはできません」と言っており、いつ服用すべきかの情報を提供する手順が、そもそも成立していない。
⑦井戸川元双葉町長が、かつて何もかも失って会津の方に避難したら、原発のない会津地域の自治体でも結局自分たちの町と同じような施設があった、何も原発マネーに頼る必要なかったじゃないか、というようなこと言っていた。また東京電力は、福島第一原発を作る時には地権者に対して20年で廃炉にして跡地は綺麗な公園にして返すって説明していたということだが、問題は、日本では何を達成すれば廃炉完了とするかっていう要件が決まっていないことだ。
以上が上岡さんの講演内容だが、この他にも多岐にわたる指摘があり、是非動画を見て頂きたい。
●避難計画は原発を止めるためには役に立つ
続いて、女川原発再稼働差止訴訟弁護団長の小野寺信弁護士も交えたパネルディスカッションにうつる。「時々避難計画って役に立つんですかって聞かれるんですが、私は命を守るには役に立ちませんが、原発を止めるためには役に立ちますと答えています。」(北野さん)
自治体はどこが突かれると痛いのか、という会場からの質問に対しては、「裁判では結局最後は誰もが通らなきゃいかん検査場所が開設できない、それから一時集合所でバスを待っている人たちがいるんですがバスが来ない、この2 点に絞りました。そこは本当にきっちりと立証したので、まずそこで負けることはないと思う」(小野寺さん)、「何が達成されたら避難計画の実効性があると言えるのかという議論を、実はどこでもしていない。仮に予定通りできたとしても、住民の被ばくをどのくらい抑えられるのかということについての議論が、まだどこでもされてない。それが1番その自治体にとっては聞かれて困るところでもあるんだろうなと思います。」(上岡さん)
最後に行動提起として、実行委員の篠原さんが「東北電力は11月再稼働って言ってるけども、これを既定路線として受け入れてはだめなんです。絶対諦めないで、再稼働をストップさせるように強く迫っていきたいと思います」と鼓舞し、締めくくった。
●350人が結集し「再稼働阻止」の思いを一つにした9.1集会
続く9月1日には、仙台市元鍛冶丁公園において「STOP!女川原発再稼働宮城県民集会」が開かれ、蒸し暑さが残る中350人が結集した。壇上には色とりどりの横断幕、そして会場には様々なのぼり旗がはためく中、主催者あいさつとして多々良さんが発言にたつ。
「東北電力の樋口社長は再稼働が9月だと発表した時に、これ以上のさらなる延期はないと見得を切っていたのです。この言葉のなんと軽いことでしょう。こんな会社に再稼働をやる資格はありません。私たちが女川原発を止めるということは、日本の原発政策を転換させる画期的な意味があります。」
続いてメインスピーカーの今野寿美雄さん(子ども脱被ばく裁判原告団長)だ。「震災当時3月15日まで避難できないということを経験しまして、それからさまよえる人となりました。避難のときにバスで迎えに行くなんて絶対無理です。これは13年前に身をもって分かったことだと思います。それなのに岸田政権は原発推進、とんでもありません。今、浪江町にイノベーションコースト構想といってロボット産業が大幅に入ってます。実はこれは核戦争後の始末をどうやってつけるかという研究にも使われています。戦争で1番狙われるのは原発です。原発はいらないんだ、動かしちゃいけないんだという声を、一緒にあげていきましょう。」
次に、女川原発再稼働を考える女川講演集会実行委員会委員長の高野博さん。「7月7日の行動は女川でも大きな確信を与えました。8月にテロ対策として大規模訓練を行ったら熱中症などで3人が病院に搬送され訓練は中止となりましたが、訓練といえどもテロ対策ですから中断することはあってはなりません。最近では3号機で原子炉のポンプなどを冷やすための配管のバルブが錆びついて動かなくトラブルがありました。あるマンションの管理者は私に30年から40年経つと配管のトラブルが劇的に増えると教えてくれました。原発は配管のお化けと言われるように配管だらけなんです。配管が老朽化してあちこちで破断したら過酷事故になってしまいます。このままでは半永久的に女川が核のゴミ置き場にされてしまいます。」
さらに、女川原発再稼働差止訴訟原告団の長沼利枝さんだ。「控訴審は7月17日に結審し、判決は11月27日と決まりました。珠洲原発の立地計画を阻止し勝利した、その粘り強い住民の皆さんの闘いに、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。裁判所も電力会社も規制委員会も、未来永劫にわたり国民や近隣諸国の人々をも被ばくの危険にさらす全国の原発を、廃炉に向けて誠実に向き合うことを求めます。勝利は私たちの側にあります。」
集会の最後に、「女川原発の再稼働は、まさに福島事故からの教訓を学び生かすのか、それとも再び原発依存を強めるのか、という日本全体のエネルギー政策の象徴的な課題です。原発による社会のゆがみを正し、まっとうな世界への一歩をともに踏み出しましょう。」とする集会宣言を採択し、デモに移る。まだ蒸し暑さが残る一番町を、長蛇の列が「原発いらない!」と訴えた。
●まだまだどうなるか分からない再稼働
冒頭にも述べたように、不安の残る再稼働プロセスに対し、市民側は8月30日に東北電力に、そして9月4日には宮城県と交渉し、現下の課題について追及した。
東北電力に対しては、おもに中断した大規模損壊訓練の顛末と、今後の状況について交渉し、東北電力は「今回は、発電所の対処要員のみでやるシナリオ、応援は使わないという内容で、今回はシナリオ通り中断した」「規制検査の対象なので、毎年訓練を行い必ず確認を受けて指摘があれば直す」と回答。
宮城県に対しては乾式貯蔵計画に関して質問し、「東北電力から当該施設への使用済燃料の保管は、使用済燃料プールでの保管と同様に、再処理施設へ搬出するまでの一時的なものと説明を受けています」「東北電力に対して、乾式貯蔵の意義や安全性等について、地元住民への丁寧な説明を行うよう求めているところです」と回答。
いずれも納得のいくものではなかったが、とくに宮城県は、自らが主体となって説明会や安全性検討会を設置しようともせず、主体性のなさが今回も際立つものとなった。
今後も様々なトラブルや課題が生じる蓋然性が残るなかで、それらに適時切り込むとともに、なによりこれ以上原発がいらないという声を全国の仲間とともに大きくしていく、その最前線の女川原発の再稼働阻止の闘いに自分たちがいるという自覚と覚悟をもって、闘い抜いていこう。
(舘脇)