会報「鳴り砂」2025年3月20日号
会報「鳴り砂」2025年3月20日号別冊
(1面論文です)
14年目の3.11 原発回帰の動きに抗し、一日もはやい原発ゼロを!
―女川原発2号機の乾式貯蔵計画を阻止し、原発稼働を止めよう-
この3月11日で、福島原発事故から14年がたった。にもかかわらず、いまだ原子力緊急事態宣言は解除されておらず、事故を起こした福島第1原発の廃炉も全く進んでいない。一旦原発が過酷事故を起こしてしまえば、それまでの自然と共生可能だった生活は二度とは戻ってこないことを福島の現実は示している。
その一方で、政府の原発回帰の動きが加速している。2月18日、「第7次エネルギー基本計画」が閣議決定され、これまでの「可能な限り原発依存度を低減する」から、「最大限活用していくことが極めて重要」へと大転換となった。こうした動きに抗し、まずは足元の女川原発の稼働を止めるべく、たゆまず運動を進めていこう。そのための当面の課題が「乾式貯蔵計画」との闘いだ。
●再エネ急増は世界の流れ・原発依存の「洗脳」を解き放て
3月9日、仙台市戦災復興記念館において「2025みやぎ脱原発・風の会 会員のつどい」が開催され、会場・オンライン合わせて約60人が参加した。今年の記念講演は明日香壽川さん(東北大学教授)だ。明日香さんは1月16日に行われた「新エネルギー基本計画(以下エネ基)」への緊急政府交渉に専門家の一人として参加し発言するなど、一貫して原発に反対し続けてきた。(当日の動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=iesF4h2D220 資料は風の会のHP参照)
この日は、①日本の現状 ②世界の潮流 ③「データセンターによる電力需要増問題」の問題 ④再エネ・省エネ拡大の経済合理性(グリーントランジション2035)⑤まとめ という流れでお話し頂いた。
①日本の現状 「政治家と国民の両方の原発・エネルギー・温暖化問題への無知・無理解・誤解」がある。まさに「洗脳レベル」といって過言ではない。それを如実に示しているのが、1990年と2023年を比べた各国の再生可能エネルギーの電力割合のグラフだ。1990年では日本は12%、ドイツは4%、デンマークは3%に対し、2023年ではデンマークは86%、ドイツは58%、日本は24%と、この30年でいかに日本が再エネを増やすことを怠ってきたかが一目瞭然で、石炭火力に至っては日本だけが増やしている。
②世界の潮流 2024年のアメリカの新規電源でも、その8割が太陽光と蓄電池だという。一方、昨年12月13日の日経新聞の「ボーグル原発3号機が稼働したために、電気代が急騰している」との記事が物議を醸した。なにせこの原発の建設費は350億ドルもしたということだが、「重要なのは、原発稼働する前から電気代にちょっとずつ建設費用を上積みして取っていたため、電気会社は実は最高益を上げていたのです。日本政府はこれから新しく原発を作る時には、まさにそういう制度を入れようとしているんです」。つまりこれがRABモデルといわれるものだ。新エネ基にも、このRABモデルを入れるのではないかと明日香さんたちが政府と交渉したが、曖昧な回答だったという。
一方でこの新エネ基では、日本政府自身もついに太陽光が原発より安いということを認めざるを得なくなった。さらに雇用について、「今日一番重要な資料かもしれない」として持ち出したのが、最新IEA(国際エネルギー機関)文献による「温室効果ガス排出削減コスト」のグラフだ。これによれば、同じように温暖効果ガス排出削減の効果があるとしながら、雇用増加数については、太陽光が原発運転延長の6倍もあることが示されている。つまり、原発の運転延長に投資することは、温暖化対策を邪魔することになる。コストの面でも雇用の面でも太陽光には全く太刀打ちできないことをIAEも明らかにしている。
③データセンターで原発が必要? まず世界ではいまだに8億人が電気を使っていないので、その人たちが使うようになれば当然需要は増えていく。その中でデータセンターの割合はそれほど多くないことはIEAも示しており、電力中央研究所でも年率0.6%の増加予測に過ぎない。少なくとも「激増」などという言葉は間違っていると指摘。
④再エネ・省エネ拡大の経済合理性「グリーントランジション2035https://green-recovery-japan.org/pdf/greentransition2035.pdf を昨年出したので、ぜひ見てほしいが、重要なのは、化石燃料輸入額が、我々のシナリオだと省エネ・再エネが多く入るので10.4兆円ですけれど、政府の想定では14.5兆円となります。差額の4. 1兆円が国内でとどまります」「雇用についても、原発とか鉄鋼とかセメントとかエネルギー転換で影響を受けるCO2排出産業等の雇用を、エネルギー転換による新規雇用で補うことができるので全体では増えます」
具体的には例えば2040年に日本の屋根の3割(現状は8%)に太陽光を設置すると6000万kWとなり、発電量(kWh)では原発10基分になり、蓄電池も組み合わせれば需要が平準化され無駄な発電施設は不要になる。また3分の1のビニールハウスにソーラーシェアリングとして太陽光パネルを載せると、原発1基分の発電量になる。
⑤まとめ 「コストとスピードを考えることが脱炭素、エネルギー支出削減、国富流出回避、雇用増加、エネルギー安全保障強化のすべてに大事」、そして「政府予算以外にも、容量市場、長期脱炭素電源オークション、RABモデル(総括原価方式)など原発や化石燃料発電への実質的な補助金はてんこ盛り」、「結局は、現時点での権益や雇用が絡むエネルギーシステム改革次第であり、それは政策決定システム改革次第、そのためにも、最新で正確な情報の発信や理解が大事」と結んだ。
質疑応答では、Q.「ソーラーパネルのゴミ問題は?」A.「太陽光パネルは30年ぐらい保証があって、30年過ぎても効率は落ちますが使えるんです。また99%回収できるという技術をもつ会社はすでにあります。だからパネルがわっと捨てられるというのはありえない」 Q. 「削った森林のCO2の吸収量を考えると、メガソーラーやメガ風力のCO2削減は意味がないんじゃないかという意見に対しては?」A.「直感的には森林で吸収されるCO2より、太陽光パネルなり風力で化石燃料を代替した方がCO2の削減量が大きくなるのかなとは思います。しかしメガソーラーは景観や事故、自然破壊の面から僕もよくないと思っています」Q.「次世代の太陽光発電のペロブスカイトに対する期待度は?」A.「ちょっとブームになっているのは確かですけれど、まだ高いっていうのもありますし耐久性が弱いので、実用化されるのはあと10年ぐらいかかるのかなという感じです。既にある技術で壁に貼るタイプとかはあります」Q.「街づくりの観点からソーラーパネルはいかがなものか?」A.「街作りとか地域作りを最初から考えて、住民の方も入れて作るべきだと思います。地元にお金が行くとか地元の企業が入らなきゃいけないとか、そういう工夫が必要です」Q.「ウラン供給危機への考えは?」A.「ウランは結構高くなって、だからこそ原発のコストが高くなるっていうのと、エネルギー安全保障的にどうなのかっていう議論は言えると思います」「小型原発については今動いているのは中国とロシアだけです。小型原発は逆に高いですし、ウランの濃度が高いことも問題で核拡散の可能性もあります。そういうのに日本企業がアメリカとともにアフリカでやろうとしているのは問題です」
このように、専門家ならではの豊富な資料を駆使しながら事実に基づいた講演に、参加者も改めて確信を深めることができた。
●乾式貯蔵計画を止め、女川原発ストップへ
2月2日には女川まちなか交流館において「女川を『核のごみ捨て場』にするな 乾式貯蔵問題学習講演会」が開催され、68人が参加(他22ヶ所でオンライン視聴)した。主催は「原発問題住民運動宮城県連絡センター」と「原発の危険から住民の生命と財産を守る会」。日本科学者会議の岩井孝さんが「使用済燃料はリサイクルしない、させない-プルサーマルは、やってはいけない愚かな政策-」と題して、また青森県労連議長の奥村榮さんが「中間貯蔵施設と『核のゴミ問題』を考える」と題して講演。(当日の動画はこちら
https://youtu.be/oPWsy4RPSVE
また資料は、こちらのブログに
https://blog.canpan.info/miyagigenpatsu/archive/88 )
集会の最初に、「町民アンケート」の結果の報告があった。187通の回答のうち、64%が「乾式貯蔵施設に反対」、68%が「東北電力は説明会を開くべき」と答えている。これをもとに、町議2人が須田町長に1月17日に申入れを行った。
また講演では、岩井さんが各地の乾式貯蔵計画の現状を報告した上で、プルサーマルの問題点を指摘。そして「今回の乾式貯蔵計画の本音は、原発の運転継続のために使用済燃料の保管容量を増やすこと」だとし、「行き場のない使用済燃料をこれ以上増やすべきではない」と結んだ。
奥村さんは「女川原発周辺の安全確保に関する協定書」に基づき、県や地元自治体と東北電力が協議するべきではないかと指摘。さらに核燃サイクル政策の破綻の現実を指し示した上で、「反原発運動と反核燃運動との統一を」と力強く訴えた。
●宮城県・石巻市・女川町に「地元同意するな」と申入れ
この学習会を受け、2月6日には宮城県・石巻市・女川町に「使用済燃料の乾式貯蔵施設設置に関する東北電力の事前了解の申し入れに、同意しないことを求めます」との申し入れを行った。5団体で呼びかけた団体署名は、県内194団体、県外41団体から寄せられ、計240団体の賛同で宮城県に申入れた。
そのなかで、女川町と石巻市は、「東北電力の搬出計画にもとづいて、敷地外に使用済燃料を搬出させる考え」だと述べたが、東北電力は保管期間を明示していない。また、「早急に搬出してもらうために使用済燃料に核燃料税を課税する考えだ」との回答もあったが、「電気料金算定において、核燃料税は原価に算入できる仕組みになっているので、搬出を促す効果はない」と指摘。
東北電力が2024年2月28日原子力規制委員会に申請して既に1年以上がたち、直近では3月4日にも審査会合が行われたが、「合格」が出るにはもう少し時間がかかるかもしれない。しかし、今年前半にも「合格」が出されれば、まさに地元同意するかどうかが迫られる。村井知事が県議会に諮るのか、あるいは独断で同意するのかは不透明だが、石巻市・女川町の判断ともども、この数ヶ月が大きなヤマ場だ。
すでに署名運動も提起され、ネット署名も呼びかけられている。ぜひこの署名運動にご協力頂き、ともに乾式貯蔵計画を止めよう。
「使用済み核燃料の処分方法を示さない反対派は無責任だ」という推進派もいるが、そもそも「トイレなきマンション」として核のゴミに手を付けられなくなっているからこそ、私たちの先達は原発に反対してきたのだ。いずれにしても、まずは一刻もはやく原発の稼働をとめ、使用済み核燃料の総量を確定した上での国民的議論が必要だ。やっかいなゴミを生み出し、過酷事故の潜在的危険があり、そして経済性も失った原発は、本当にもうやめよう。決して世論が推進一辺倒ではないことは、最新の世論調査でも明らかだ(2025.3全国世論調査「あなたは原発を今後どのようにすべきか」に対し、「今すぐゼロ」と「将来的にゼロ」を合わせると62%)。政府の原発回帰に抗し、私たちは改めて自信をもって反対を訴えていこう。
(舘脇)