-『福島原発事故分析検討会』の「非常用復水器に関する分析」について その4-☆規制庁の「IC機能の軽視」=国の免責目的の“方便”?☆&≪5.9追記:規制庁へ質問・意見送付。また「承ります」か?≫

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-『福島原発事故分析検討会』の「非常用復水器に関する分析」について その4-
≪5.9追記:規制庁へ質問・意見送付。また「承ります」か?≫

<以下はテキストのみ 図表は上記pdをご覧下さい>

-『福島原発事故分析検討会』の「非常用復水器に関する分析」について その4-
☆規制庁の「IC機能の軽視」=国の免責目的の“方便”?☆

前号『鳴り砂 その3』“ICによる事故回避可能性”の定量的検証では、地震後に設計どおり自動スクラムした後、前年の保安規定変更どおりに自動起動したICを(手動停止せずに)保安規定77条3項に従って継続作動させていれば、その途中で津波により全電源が喪失しICが機能停止しても、津波前の減圧・除熱により炉心露出・損傷開始が大幅に先送りされ、その時間的余裕によって事故の拡大防止・収束が十分に可能だったこと、そして、それが実現できなかった原因は、東電の保安教育の先送りと、それを国が検査等で見逃してきたためであること、を明らかにしました。

さて、その後の3月28日第50回検討会(IC検討4回目)では、<50回資料6-2>で、規制庁の「調査の目的」として「事故時における、1号機の非常用復水器(IC)の挙動」、「1号機の非常用復水器(IC)の設計上の留意点」、「1号機の非常用復水器(IC)の運用上の留意点」の3つの確認が挙げられ、『設計上の留意点』では、ICは「常用設備として設置されており、運転時の異常な過渡変化及び設計基準事故の解析において、その機能は、期待されていない」<下線筆者>と説明されていました。
その説明に違和感を覚え、初期の申請書・添付書類10を調べてみると【S41.7申請:S43.11変更でも同文】、「1.3.5電源喪失事故」で、「スクラム後の原子炉は非常用復水器によって冷却される」と、過渡変化・設計基準事故の収束にICの冷却機能が“期待されて”いました。
また、同じく「1.4.2主要弁類の故障 ⑴主蒸気管隔離弁の閉鎖」でも、変更前後で「隔離弁の閉止時間」が変わったため(「3~7秒」から「3~5秒」へ)、想定される過渡変化シナリオに多少違いがありますが、主蒸気管隔離弁の閉鎖に続いていずれも「スクラム後のSRV(主蒸気逃がし弁)による圧力上昇抑制」がなされた後、【S41.7申請:右】では「ⅲ)非常用復水器は、設定始動圧力74.5kg/cm2gが約15秒続けば…原子炉の蓄積熱および崩壊熱を除去する」とされ、【S43.11変更:次頁】でも「c)非常用復水器は…原子炉の蓄積熱および崩壊熱を除するようになるので、過渡時の蒸気放出による水位低下はわずか…」とされ、やはりICの冷却機能(原子炉の蓄積熱・崩壊熱の除去)や水位低下抑制の機能が(当然ながら)“期待されて”いました。
さらに、同じ「1.4.2主要弁類の故障」の「⑶蒸気加減弁、主蒸気止め弁と同時にバイパス弁も閉鎖した場合」でも、<S41申請>ではスクラム後のSRVによる圧力上昇抑制に続いて、「…非常用復水器が始動し、炉心からの熱除去を行なう」とされ、やはりICの熱除去機能が“期待されて”いました<S43変更後には記載なし>。
そして、‘もしや’と思い、事故直近の内容と思われる【H14.4現在「申請書完本」。内容は大幅に変更】を見てみると、上記「1.3.5電源喪失事故」におそらく相応する「2.6.1常用所内電源の喪失」では、「スクラム後の原子炉は高圧注水系によって冷却される」と変わっており、同様に「2.4.1発電機負荷遮断(主蒸気加減弁急速閉鎖+バイパス弁不動作も仮定)」や「2.4.3主蒸気隔離弁の閉鎖」でも、スクラム後の圧力上昇に対し、SRV動作(最大10秒程度)により「原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は維持される」となっており、「非常用復水器」による減圧・熱除去の記載がなくなっていました。これは、『鳴り砂№313』で述べた「IC」から「SRV+HPCI」へのS43頃の方式変更(中央制御室を共用する2号機「SRV+RCIC」方式との統一性考慮?)に伴い、ICは‘設置されているが実際には作動しない’休眠設備(=常設設備)に“格下げされた”ことによるものと思われます。
ところが、前年(2010.6)の保安規定変更で、IC作動圧が7.13MPaにされ、SRV作動圧7.27MPaよりも低くなったため【47回資料2-1】、スクラム・MSIV閉後の緩やかな圧力上昇・過渡変化(=3.11地震後に生じた事象)に対しては、当初設計どおりICが減圧・除熱するよう“先祖返り・格上げされた”のです。
にもかかわらず、その変更を決めた「本店の原子力発電保安委員会」や「社長」<保安規定第6条>らは、長らく「常設(休眠)設備」と化していたICを“目覚めさせる”重大性・及ぼす影響を全く認識せず(机上で単なる‘数値いじり’をしただけ!)、作動可能性の高まったICの機能・特性・操作法などを(変更直後の第26回定検時などに)改めて教育・訓練する指示を怠ったのです(おそらく、3年に一度の教育・訓練で保安規定上は十分と、漫然と先送り)。その結果、3.11時点では、運転員をはじめ東電社員の多くがICの作動可能性・機能等を正しく認識しておらず、地震・スクラム後に“保安規定変更どおり”にICが自動起動して圧力が急低下した“だけ”だったのに、運転員らにとっては“予期せぬ温度低下”に動揺し、しかも、以前の長きにわたる保安教育の不備(旧炉規法第37条4項、5項に違背)のため誰も保安規定第77条3項(温度降下率遵守は適用外)に思い至らず、スクラム後の最優先事項である原子炉冷却を唯一担っていたICを手動停止させ、早期の炉心溶融を招いたのです。
以上を踏まえれば、規制庁の前出‘ICは異常時に機能は期待されない常設設備’との説明は、設計当初はもちろん、(前年の保安規定変更により)3.11時点でも、ICによる減圧・除熱を期待する設定になっていた事実に反するもので、東電「社長」や「原子力発電保安委員会」による従前の保安教育の先送り・不備がもたらした「IC手動停止」の責任逃れのための“方便”である「(保安規定変更前までの)IC軽視」の受け売りでしかなく、それは、東電同様に前年の保安規定変更の持つ重要性を認識できず、形式的に認可し、保安教育先送り・不備をも見逃してきた、規制当局(保安院)の重大な責任を不問に付すための“方便”でしかないことは明らかです。

付言すれば、検討会が最初(47回)に打ち出した「目的:非常用復水器(IC)に関する事実関係を明らかにし当該設備に対する疑問を解消するとともに、ICを通して事故時対応の教訓を見出す」こととは、(冷静に読めば?)筆者が期待した「事故時対応の問題点・責任を明らかにする」ことではなく、48回検討会で東電が提出した(筆者が“的外れ”と評価した)「1F1のICの設計・運転から得られた教訓の革新軽水炉への反映について」<48回資料3-2:下線部>こそが真の目的のようで、実際、<50回資料6-2>の『運用上の留意点』や『まとめ』のニュアンスからは、事故時のIC操作の徹底検証(過去)というよりも、次世代軽水炉用のICと同原理の炉心冷却設備の開発(今後)のためという“胡散臭さ”が感じられます(規制庁と東電が主体なので当然?)。それを許さないよう、今後も注視し続けたいと思います。

なお、<50回資料6-2>での注目情報は、【6-3系統構成図:本稿には掲載せず】として「IC系蒸気配管の高所」に設けられている「ベントライン」(炉水の放射線分解によって生じる非凝縮性ガス(水素、酸素)を主蒸気系(MSIVの下流)へ流し去るための配管)が追記され、また【6-4補足図:同上】に「ベントライン」の高低差や敷設実態<*故意か知識不足かは不明ですが、「ドレン配管」部分は不正確!>が示されていることです。
これは、おそらく『国会事故調』の‘ベントラインからの水素排出によりIC系が復活する可能性’の指摘<本文pp.238-239>に対する“反論”も兼ねてと思われますが、規制庁は「配管径の相違及び配管勾配を踏まえ、空気作動弁を開操作した場合であっても、発生した非凝縮性ガスの送気は、難しい」<同資料6-2・18頁>と結論付けています。この点については(新たな論点も含め)今後検討したいと思います。
 <2025.4.26了 仙台原子力問題研究グループI>

≪5.9追記:規制庁へ質問・意見送付。また「承ります」か?≫
IC問題・規制庁検討会の検証が一段落した感があり、「素人的定量解析」の限界も感じていたところ、規制庁の「…検討会における調査・分析の具体的内容・手法について、科学的・技術的観点から御意見がありましたら、…検討会の議論、検討の参考とさせていただきます」との文書が目にとまりました。
2022.4.27の「女川2有毒ガス防護」の審査終了を受け5.1付で規制委に質問・意見した際は、5.13回答で「御意見につきましては承ります」<鳴り砂№297 気になる動き96-5>とのお役人特有の‘単に聞き置くだけ’の対応がなされ、また、「2024.9.20申入書」に対しても半年以上が経過した現時点で未だ“なしのつぶて”で虚しさを覚えています(トラウマ)ですが、それでも“何もしなければ何も始まらない”と思い直し、外部専門家もいる検討会なら“完全無視”はないのではと期待して(東電の聞き飽きた詭弁回答が予想されますが)、次の文書を送付しました(*またもや「承ります」だけかも知れませんが…)。回答があれば随時ご報告します。

件名:『福島第一原発事故の分析検討会』の「非常用復水器(IC)に関する分析」について
内容:以下の点について質問・意見します。検討会でご議論の上、随時ご回答願います。
1 東電の「運転上の制限(温度降下率)遵守」のため地震後に自動起動したICを手動停止した<47回検討会資料2-2・5頁等>との主張は、自動スクラムという異常発生時には「原子炉がスクラムした場合の運転操作基準」に従った必要な措置の実施を求め(保安規定77条2項)、その際「運転上の制限は適用されない」(同77条3項)と注記する『保安規定』や旧炉規法37条4項の保安規定遵守義務に反するのではないでしょうか。
2 3度のA系IC手動操作時の温度降下率(温度制限値不遵守の実態)をお教え下さい。
3 設計上・運用上の問題点検証<50回検討会資料6-2>のため、ICのユニット操作手順書を入手・公表し、手動操作時や自動起動時の手順(敦賀1とも比較)をお教え下さい。
4 スクラム・MSIV閉後は、炉心冷却維持・冷温停止に向け、『保安規定』77条2項・3項に則り、自動起動したICを継続作動させるのが最適だったのではないですか。
5 自動起動したIC2系統を継続作動させた場合の「津波襲来時」までの変化(崩壊熱発生量・炉圧・炉水温)およびICの状況(タンク水温・残水量・大気への放熱量)と、それに続く「津波襲来・IC不作動後」による炉圧・炉水温再上昇後のSRV作動による過渡変化(上記因子+水位)および炉心露出・損傷開始時刻を、解析してお教え下さい。
6 1号機運転員ら・幹部らに対する①~③の保安教育・周知の事故前の実施時期と内容、およびそれらが事故時点で未実施(先送り)ならその理由・法的根拠をお教え下さい。
①『保安規定』第4節を含む「異常時対応(中央制御室内対応および指揮、状況判断)」
②前年(2010.6認可)のIC作動圧変更を含む保安規定変更<47回資料2-1・4頁>
③前年(20110.2.11施行)の1号機「第22章 自然災害事故」手順書の新規作成
7 保安規定や手順書などの重要事項変更・新設後の保安教育・周知の実施時期・方法について、既存規定(3年間に一度等)が不十分だから先送りされたのではないですか。
8 事故時の適用手順書にかかる東電資料や各種事故調資料で、地震を導入条件とする6③の自然災害事故手順書(22-1大規模地震発生)に言及したものがあればお教え下さい。  以上