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-『福島原発事故分析検討会』の「非常用復水器に関する分析」について その5-
☆1号機:経済性優先での配管接続の“無断変更”3件!☆
<以下はテキストのみ 図が豊富にあるので、上記pdfをご覧下さい>
本稿では、前号『鳴り砂』で後回しにした「50回資料6-2」の図の注目箇所と不正確箇所を示し【図1、2】、さらに、検討会「目的」の「非常用復水器(IC)に関する事実関係を明らかにし当該設備に対する疑問を解消する」ため、1号機の設備・配管を徹底検証します。<図や名称のゴチャゴチャをお許し下さい。末尾に略語整理>
◆IC蒸気配管の「ベントライン」
まず、【図1:6-3系統構成(待機時)】には、(おそらく事故後初公表!)圧力容器からのIC蒸気配管の「ベントライン(上部の赤点線)」<*>が、追記されています。<*炉水の放射線分解により生じる非凝縮性ガス(水素、酸素)を主蒸気系(MSIV下流)へ排気する配管。IC待機時は各系の2弁が「開」状態で常時排気。IC作動時には2つとも「閉」となりベント中止。>
また、おそらく国会事故調の‘ベントラインからの水素排出によりIC系が復活する可能性’の指摘<国会事故調本文pp.238-239>に反論するため、【図2:6-4補足図(赤囲みは筆者加筆)】に(これもまたおそらく初めて)「ベントライン」の「排出経路・高低差」を示し、地震後のIC自動起動時に「閉」となった2つの弁を、炉心損傷後に配管内に充満した非凝縮性ガス(水素)を排出してIC冷却を回復するため「開」操作したとしても、水素自体が軽く(低比重)、ベントライン配管も細いため、管の流路抵抗や勾配(高低差)のため主蒸気系への排出は困難=IC冷却回復は不能、と結論付けています。ただし、筆者は、原子炉側と主蒸気配管(タービン)側との「圧力差」により、充満したガスの排出自体は可能、と推測します(確かに、排出先の主蒸気配管内での水素爆発の危険性【右抜粋<同>】はあると思いますが)。
◆【図2:6-4補足図】の不正確さ
次に、前号で指摘した【図2】の不正確さですが、設置許可申請書・添付書類8の「第6.1-1図 原子炉配管系統図」【図3】および「第6.4-1図 非常用復水器系」【図4】<H14完本。S41申請でも同じ>では、図示された再循環回路に1系統のICドレン管が接続され、もう1系統は「他の再循環ラインへ」「他の再循環回路へ」(赤矢印先:筆者加筆)と明記されています(13年前の『鳴り砂№238、243』で言及)。
ところが、H23.5.23事故後初期の東電公表資料「参考-2 系統概略図」【図5】では、2系統のICドレン管が1つにされ、片方の再循環回路に接続されていました(赤矢印:同。【図1】でも左側A系ドレン管が回り込んでB系ドレン管に接続)。
いずれにしても、【図1、5】のとおり、ICドレン管は2系統別々に格納容器を貫通し、その後格納容器内で1つにされているため(隔離弁も貫通部の前後に1個ずつ設置)、格納容器の手前で1つされている【図2】の赤囲み部分は、完全に誤りです。
◆ICドレン管接続の無断変更(『鳴り砂№238、243』参照)
それはさておき、上記のとおり、実際の接続(片方の再循環回路に接続)が申請書類(別々に接続)と異なる事実について、国(原子力安全・保安院)も事故後に気付いたようで、東電に変更理由等の報告を指示し<2012.2.27指示>、東電は3.12付で報告しています<3.12報告=2012.6.20東電最終報告添付資料・添付8-6(2)>。
まず、「3.12報告」【図6:赤矢印やICタンク2系統の記号「○A、○B」や再循環ポンプ「A・B」および配管は東電加筆】のとおり、ICタンクは2基とも原子炉建屋西側(壁側)に隣り合って置かれています。ただし、同図でタンク(○A、○B)間にあるように見える区画壁は、実際には存在しません【図7:H25.11.7新潟県・課題別1資料№1、p.17】。従って、そのような隣接設置は「重要設備の位置的分散」基準に反するものですが、原因は、建屋東側を大きくカットして【図6の緑四角:筆者加筆】、建設費・材料費を節約した結果であることは明らかです(敦賀1ではタンク2基が圧力容器を挟んで対称的に配置【図8】<福井県資料>)。
さらに付言すれば、【図6、7】では、原子炉建屋壁側(西側)が○A、圧力容器に近い内側(東側)が○Bと記載されていますが、実際には、【図2、5】や「2012.6.20東電最終報告・添付資料「添付8-6(1)(1/4)」の図:掲載せず」のように、壁側(西側=ベント管出口(ブタの鼻)に近い側)がB系なので、東電の【図6、7】でのタンクの系統区分(国・新潟県への報告)はいい加減・間違いです。
なお、余談ですが、最初は【図8】同様の設計で対称配置のICタンクを、同じ「西側B系、東側A系」の再循環回路に‘それぞれ最短で接続する’予定だったのに、その後建屋の節約=タンク隣接配置に設計変更したため【図6】、再循環回路が各真下でなくなり、変更を余儀なくされたのかもしれません。
◆“経済性優先”によるICドレン管接続変更!
東電は「3.12報告」で変更理由・正当化を縷々述べていますが【右(1)、(2)】、【図6】の断面図からわかるように、1号機の格納容器「MARK-I型」は特に内部空間が狭く、フラスコ型下部の球形部分には再循環ポンプや配管・弁のほか、主蒸気管【図2】や逃がし弁その他の機器・配管も多数設置されており<*本稿末尾の国会事故調本文もご参照下さい>、そのような狭隘な空間で、A系ICドレン管をわざわざ圧力容器反対側のA系再循環回路に接続するより、ドレン管2本を1本にまとめ、近くのB系回路に接続する方が“材料費・工費・工期の節約が可能=経済的”なので、施工の段階で申請図面を無視して(=国に無断で・勝手に)変更したことは明らかです。
にもかかわらず、国・保安院は、「2.27指示(下線筆者)」で「当該変更は、設置許可申請書の添付書類の記載であり、許可事項には該当せず、法令に抵触するものではありません」と自ら申請図面・添付書類を軽視し、報告前から“違法でない”と免責し、3.11事故後においても東電擁護の姿勢(規制の虜)を崩さなかったのです。
◆「SHC配管」接続の無断変更も新たに判明!
さて、上記“IC無断変更”に関連して、前出【図3】を見ていたら、新たに気になる箇所が見つかりました。それは、同図右下の四角囲みされた「原子炉停止時冷却系(SHC)」です。
前出「3.12報告(2)」では、再循環(PLR)回路への接続について「PLR系Aポンプ吸い込み配管にSHC系配管を接続し、IC系については…PLR系Bポンプ吸い込み配管に接続」すると明記されています。また【図3】でも、SHC配管は右側のPLRポンプの吸い込み配管から分岐し、同じPLRポンプの吐出配管に合流しています。さらに、添付書類8「第6.3-1図」【図9】でも、SHC配管は同一のPLR系に接続されており、【図4】のIC配管と見比べると、「3.12報告」のとおりSHC配管はA系に、IC配管はB系に接続、と推定されます。
ところが、「東電・最終報告書」の系統概略図【図10】<添付資料・添付7-8(1)(2/2):中間報告も同じ>を改めて見たところ、圧力容器右下の再循環B系(○⇒の回路)の吸い込み配管(下側)にICドレン管(※3)が2系統とも接続され、同じ再循環B系の吐出配管(上側)にSHC戻し配管(※1)が、左下の再循環A系吸い込み配管(下側)にSHC取出配管(※2)が接続されることが明記されていました。
また、H23.2.23福島第一原子力発電所「福島第一原子力発電所1号機 高経年化対策について」(福島県への提出資料?)の「再循環系取替配管」<18頁>【図11:筆者加筆】では、図に名称の記載はありませんが、第22回定検で交換された部分(黄色)に「ノズル3ヶ所」(配管の出っ張り)が図示され、上記「※1~3」を踏まえると、再循環A系ポンプ吸い込み側が「SHC取出配管」、B系ポンプ吸い込み側が「ICドレン配管」、B系ポンプ吐出側が「SHC注入(戻し)配管」、と推測できます。
さらに、H11.2東電「経年化対策に関する報告書 別冊 1/4」88枚目の「図2.1-1」【図12:筆者加筆】では、再循環ポンプA系吸い込み配管には「SHC取出配管」が、B系吐出配管には「SHC戻し配管」が接続されていることが、キチンと言葉で説明されていました(B系吸い込み配管にはICドレン管)。
従って、(IC配管だけでなく)SHC配管も、申請図面(【図3、9】)に反する“無断変更”がなされていたことが、新たに判明しました。<*その経緯を明らかにさせるため、本稿末尾添付の質問を規制委宛に送付しました。>
◆「SHC配管」接続変更も“経済性優先”のため!
そして、添付書類8の第3.8-1図<p.8-3-169>【図13:原図(格納容器内を上から見た図)を左に90°回転。吹出しは筆者加筆】に示されるとおり、格納容器内の空間配置(図の右上・北東側のポンプがA系、左下・南西側のポンプがB系)に鑑みれば、「A系PLR吸い込み配管」から「SHC取出配管」を分岐させるなら、SHCポンプ・熱交換器からの「SHC戻し配管」も近くの「B系PLR吐出配管」に接続すれば、圧力容器やA系ポンプ本体を迂回して「A系PLR吐出配管」にまで配管を延ばす必要もなく、“材料費・工費等の節約が可能=経済的”なので、IC配管同様に、施工段階で申請図面を無視して無断変更したことは明らかです。
◆「CUW配管」接続の無断変更も判明!
さらに、前出【図3】では、右側PLRポンプには「SHC配管」が、左側PLRポンプの吸い込み配管には「原子炉冷却材浄化系(CUW)」(左下の四角囲み)の取出配管が接続され、「第6.2-1図」【図14】でもCUW取出配管はPLR吸い込み配管から分岐しています(CUW戻し配管は、PLR系でなく給水配管へ接続)。
一方、H23.2.23「福島第一原子力発電所1号機 高経年化対策について」の模式図<p.12>【図15】では、CUW取出配管は、ICドレン管が接続される吸い込み配管左側(B系)とは反対側の、右側(A系)の吸い込み配管に接続されています。
また、国会事故調・参考資料に示された「2(~5)号機 図1.1.6-2」<p.38>【図16:一部抜粋】では、ポンプ吸い込み側にCUW(上)および残留熱除去系RHR(下)の取出配管が描かれていることから(RHRは1号機のSHCに対応)、1号機でもポンプ吸い込み側に「CUW取出配管」が接続されていると推定されます。
すると、【図15、16】のとおり、A系吸い込み配管にCUW取出配管(とSHC取出配管)が接続されているのであれば、ICやSHCの無断変更同様に、ここでも前出【図3】記載の接続が無断変更されたことになります。
◆「CUW配管」は何故記載なし?
ちなみに、CUW配管で取り出される流量は「172,000kg/h」<添付書類8p.8-6-3>、ICの蒸気流量(=ドレン流量)は2系統で「201.2t/h」(1系統「100.6t/h」<p.8-6-5>)、SHC流量は「465.5㎥/h」<東電最終報告参考資料531枚目・参考1(2)>であり、一方、再循環流量は1系統「5,600t/h」<申請書本文p.18、添付書類8p.8-5-4>なので、CUWはその約3%、ICは約3.6%、SHCは(1㎥≒1tとして)約8.3%に当たることから、CUW取出配管はICドレン管と同程度のノズル部口径と推測されるのに(CUW配管を小口径として無視できないはず)、前出【図11、12】では、何故【図16】のように「CUW取出配管」が記載されていないのか、意図・理由を確認する必要があると思います。
また、最終的に、A系吸い込み配管からは再循環水がCUW取出配管とSHC取出配管に分岐・流出するだけなので、低温水がICドレン管から流入するB系吸い込み配管や、同じく低温水がSHC戻し配管から流入するB系吐出配管に比べ、「熱応力・熱疲労」の危険性はないと思われますが、再循環配管の「高経年化評価」や「耐震評価」において、無断変更後の各配管接続部がすべて適切に考慮されたのかは不明で、改めて確認したいと思います<*そのため規制委に設工認資料の開示を請求中>。
◆配管の無断変更=「基本設計」の軽視(「伊方最高裁判決」違背)
最後に、既に判明済みのIC配管に加え、新たに判明したSHC・CUW配管の接続問題に筆者が何故こだわるのかと言えば、東電が、申請書添付書類8の図面【図3、4、9、14】を含む「基本設計」を軽視し、経費節減や格納容器内の狭さ解消などの“経済性優先”で設工認・詳細設計段階で無断変更を行なっていたことが、とても重大な問題だと思うからです。また、国の「2.27指示」に対し、IC接続を報告するだけで、自発的に他の系統を調査・水平展開しなかった(あるいは無断変更を把握しながら隠ぺい・放置した?)という事実も、3.11事故の背景にある、東電の原発設置当初からの“安全性軽視の姿勢”を反映したものだと思うからです。
ここで、「伊方最高裁判決」(H4.10.29)では、その是非はさておき、国の安全審査対象は「基本設計」のみで(段階的規制)、「原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落」<5頁>もなく確認された内容は、「後続の各規制の当然の前提」<7頁>だとされています。そして、実際の安全審査では、申請書本文のみならず、参考図面や添付書類も、法令に基づき事業者に提出させていることから、「基本設計」を具体的に説明・裏付ける資料として、一体的に調査審議されているはずです。だからこそ、「2.27指示」での国の判断や、H18.4.3制定・保安院『原子炉設置(変更)許可申請に係る安全審査内規』の「申請書本文記載事項に関する変更については原則変更許可の対象とする」(逆に言えば「本文記載事項」以外は対象外)という基準は、安全審査の対象たる「基本設計」を申請書本文のみに限定し、それと一体で調査審議されたはずの参考図面・添付書類を不当に軽視するものであって、「後続の各規制の当然の前提」とすべき「基本設計」を後続の施工・設工認段階で勝手に(=安全審査を経ずに)変更することは、「伊方最高裁判決」に違背するもので、明らかに“違法”だと筆者は考えます(この辺は専門家のご意見を伺いたいところです)。
一方、国も、東電のIC無断変更を3.11以前には把握できず、「2.27指示」では最初から“法的に問題なし”と擁護・免罪し、その際に他の系統での無断変更の可能性に気付かず(見落とし)東電に調査・水平展開を指示しなかったのは、重大な抜け落ちです(今回私たちが気付かなければ、東電は今後の廃炉作業・デブリ取出し等に紛れて密かに配管・ポンプを解体し、SHCもCUWも“証拠隠滅”したのでは?)。
◆無断変更の根本原因はGE「ターンキー方式」?
なお、本稿作成中、田中三彦さん(科学ジャーナリスト・元国会事故調委員)・上澤千尋さん(原子力資料情報室)から、1号機は「着工から運転開始までGE社に全責任を負わせる「ターンキー方式」で東電が契約」<国会事故調報告本文pp.65-66>したもの、とのご指摘をいただきました(『鳴り砂№238』では「GE設計・東電施工」だと勘違いしていました)。そこで、改めて同報告を見直すと、日本の耐震設計基準が厳しいため「機器の支持構造物の補強が各所で必要になった。…もともと狭いMARKⅠ型格納容器の中に多くの補強材を入れたため、空間の余裕がなくな」った<同>との記載がありました。すると、各種配管の無断変更は、いずれもGEが勝手に(当時の日本の不十分な規制・安全審査等を軽視して?)“格納容器の狭さに応じて変更”したものと推察できます。そして、「3.12報告」での「原子炉設置許可申請書,工事計画認可申請書,その他関係する図書類の調査並びに関係者の聞き取りを実施したが,非常用復水器…のドレン管の接続方法の変更理由について,確認することはできなかった」<1頁>との東電の弁明も、‘関係者全員がGEの社員・下請け作業員で、東電社員は誰も現場にいなかったので、誰からも聞き取りも確認もできなかった’という意味だと分かります(東電退職者等への聞き取りも可能なはずなのに何故確認できないのかと、筆者はずっと疑問に思っていましたが、謎が氷解しました)。
1号機の配管接続の無断変更問題(再循環配管の安全性)は、GEの設計・施工(東電は単なる書類提出係)だったことにも注意して、さらに検証したいと思います。
<2025.6.19完 仙台原子力問題研究グループI>
≪略語 CUW:原子炉冷却材浄化系、IC:非常用復水器、PLR:再循環系、
SHC:原子炉停止時冷却系≫
<★5.27規制委宛「SHC配管」質問>
「原子力安全・保安院(当時)は、東京電力に対し、平成24(2012)年2月27日付「東京電力株式会社福島第一原子力発電所設置許可申請書添付書類の記載事項に関する指示について」という文書を発出し、「東京電力福島第一原子力発電所第1号機非常用復水器のドレン管の再循環回路への接続方法について、設置許可後から工事計画認可申請までの間に変更」された理由等について報告を求め、同年3月12日付で同指示に対する報告を東電より受理し、公表しています。
さて、最近の私たちの調査で、同原発第1号機の原子炉停止時冷却系(SHC)の取出し配管と戻し配管の再循環回路への接続方法について、添付書類8の図6.1-1や図6.3-1では同じ再循環系配管に接続されるよう図示されていますが、実際には、取出し配管は再循環A系ポンプ吸い込み側に、戻し配管はB系ポンプ吐出側に接続され、「設置許可後から工事計画認可申請までの間に変更」されたと思われることが判明しました。
そこで、上記SHC配管の接続方法が実際に変更されているのかどうか、また、当該変更が事実なら、変更した理由と、それをその後添付書類に反映してこなかった理由を、東電に確認するなどして、回答・公表して下さい。そして、当該変更が法令に抵触しないのか、改めて検討した上で、回答・公表して下さい。」
ただし、今回のSHC配管についても、IC配管(2.27指示)と同じく“何ら違法ではない”との回答が十分に予想されますが…。
また、その回答を踏まえ、CUW配管についても質問する予定。 <6.15了>