≪短信:“運転員らに有害”な硫化水素「無処理放出」!≫ ※追記あり!

仙台原子力グループに新しい投稿があります ※10.8付け追記あります

≪①短信:“運転員らに有害”な硫化水素「無処理放出」!≫

≪②10.8追記:東海2との比較≫

※以下本文ですが、図表は上記pdfをご覧下さい

≪①短信:“運転員らに有害”な硫化水素「無処理放出」!≫
 前々号『鳴り砂』短信等で言及してきた硫化水素の拡散・運転員らへの影響について、東北電力は“寝た子を起こす・ヤブヘビ”を恐れてか?具体的な拡散計算・安全証明を放棄していますので、再度“素人なりの簡易拡散計算”を行なってみます。

 ここで、1号機廃棄物処理建屋「沈降分離槽」(固定源)で発生した硫化水素は、換気空調系を通じて1号機排気筒から“無処理放出=垂れ流し”され、目測で約300m離れた「2号機制御建屋」や「緊急時対策建屋」の「外気取入口」に拡散到達するものとします【図は前々号の再掲:2022.3.23資料1・別紙11-15頁に一部加筆。右下挿入図は審査書4頁図の一部】。
 また、“素人計算”が可能なように、広く利用されている『ガウス・プルームモデル』【図は外川織彦ら「原子力防災における大気拡散モデルの利用に関する考察」JAEA-Review 2021-021、pp.11-12。ちなみに同モデルは東北電力も採用<前掲資料1・別添-13頁等>】に基づく『基本拡散式』【引用は宮城県資料】を用い、拡散パラメータ「σy、σz」は表1.2.1-3の計算値を用います。
 そして、1号機排気筒から上記両建屋までの距離xは「300m」、水平方向のy座標は「0m」(風下)とし、さらに、東北電力に倣って「保守的な評価条件を設定」<前掲資料1・別紙8-1-2頁>することとし(計算を簡単にする筆者の方便?)、有効煙突高He(設置許可申請書:排気上昇・下降は無視)とz座標は同じ「125m」(=風が排気筒頂部から各建物換気口に向かって吹く)とし、<*同表を参照した後記試算を踏まえ>大気安定度(A~G)は「G(強安定)」で、風速uは「1m/s」(小さいほど拡散しにくい)とします。
 さらに、前々号「簡易計算」に準じて、タンク気相部の曝気前の硫化水素分圧Ps₀は“保守的”に「1atm(100%=1000000ppm)…ア」を仮定し、30分曝気による空気注入総量と硫化水素気化量(20℃・1atm)の合計=総排気量「①251.988 、②1519.429 、③13255.33」(㎥)の3通りを考慮し、曝気開始直後の排出速度Qp(㎥N/s:30分平均)は「①0.1400、②:0.8441、③7.3641」(㎥N/s)とします。

 上記の様々な“保守的”条件で計算すると、右下計算表のとおり、「x=300m」地点での拡散希釈後の硫化水素濃度Cは、「①=0.0009(㎥/㎥)=900ppm、②=0.0054(同)=5400ppm、③=0.0467(同)=46700ppm」となります。<*試算では、条件③で、A・風速1⇒0.000335、B・風速1⇒0.000728、C・風速2⇒0.000847、D・風速1⇒0.004549、E・風速2⇒0.004270、F・風速2⇒0.009727。∴G・風速1⇒0.046686が最悪。>
 また、①~③のいずれのケースでも、希釈割合「Qp/C」の値より、硫化水素は「約160倍に希釈」されることが分かります(xが増加するとCは低下し、遠方になるほど拡散希釈されるという、当然の結果となります)。
実際には、空気注入に伴い硫化水素分圧(⇒Qp)は低下するため、上記値は曝気直後の最大値です。そして、30分曝気後の硫化水素分圧「①53%、②16%、③2%」を考慮すれば(上記Qpに最終分圧を掛けて再計算すれば)、最小値Cは「①470ppm、②860ppm、③930ppm」となります。
 以上より、曝気作業中(現在も週に一度とか定期的に実施?スラッジが50㎥以下になっても必要)の排気筒からの無処理放出・拡散後の濃度Cは「①900~470ppm、②5400~860ppm、③46700~930ppm」と推定され、それらの値より、同タンクの曝気中、排気筒から無処理放出された硫化水素は、300m拡散希釈後にも「許容濃度10ppm」【国立環境研究所研究報告第188号(R-188-2005)井上雄三編、3頁】を超え、さらに「即死」レベルにさえ達する可能性もあることが示されます。
 したがって、当該無処理排気がそのまま各建物内に取り込まれ運転員らがそのまま吸入すると考えれば、「運転員らに有害」であることは明らかです。『毒ガスガイド』が「…運転員については、対象発生源の有無に関わらず、有毒ガスに対する防護を求める」<ガイド5頁>として「予期せぬ有毒ガス対策」を求め、東北電力は自給式呼吸器(酸素マスク)装着などの対策を講じるとしていますが、(建物内の全運転員が)給気中の硫化水素を十分に吸引し、異常に気付いてから(即死に至らず)自給式呼吸器を装着したり換気設備を隔離(外気取入中止)しても、既に手遅れで、だからこそ「検出・警報装置の設置」(設置許可基準規則26条3項1号)が必要なことは明らかです(曝気中に重大事故が絶対起こらないという保証はありません)。

 上記結果に対し、東北電力は、そもそも風が排気筒頂部から各建物換気口に向かって吹く(He=z)ような最悪の気象条件となる確率は極めて小さく、また、同タンク換気空調系からの高濃度硫化水素含有排気は、他の箇所からの(低~ゼロ濃度)排気で希釈され、その後に排気筒から放出されるから“問題ない”などと主張・反論すると思われますが(単に無視?)、データを一切示さず、希釈イメージだけで安全性を一方的に主張(常套手段!)しても、説得力はありません。得られた「①900~470ppm、②5400~860ppm、③46700~930ppm」に鑑みれば、各建物給気が許容濃度以下になるには、排気筒放出前に他の換気空調系との混合により「4670~47倍」に希釈される必要がありますが、同タンクの換気空調系と同程度の排気設備が1号機に「最低47系統」もあるとは考えられません。また、‘排気し切れないほどの硫化水素が突然大量放出される’という 『東北電力・電中研理論』に基づけば、③46700ppmを遙かに上回る「予期せぬ」大量放出が起こり得るはず(『理論』は事故原因説明のための単なる詭弁なので、今後実際に生じるはずはないとでも主張する?)ですから、排気筒放出前の希釈実態の解明・放出後の拡散評価を、適宜実施する必要があると思います。
 一方、‘細部を検討できない規制委・波風を立てたくない規制庁役人’も、本件事故を軽視・無視し、『共用問題』に目をつぶり、他原発へ波及しないよう『毒ガスガイド』の不備を黙殺し、「固定源=対象発生源なし」との東北電力の弁明【前掲資料1・別添-20頁】を容認し、硫化水素の「予期される」危険性を見逃した責任は、極めて重大です。加えて、「運転員らに有害(=事故時の対処能力を著しく低下させる)」な硫化水素無処理放出が、今後も同タンク曝気時に繰り返されることが「予期される」(前号指摘の「当該タンク内に硫化水素が継続して発生・蓄積している状況」<2022.5.16女川原発4月分定期報告別紙>)にも関わらず、2号機中央制御室や緊急時対策所に「検出装置・警報装置」を設置させないまま再稼働を容認することは、前号の繰り返しになりますが、法的にも大きな問題だと思います。<なお、9.22に東北電力は単なる表現修正・記載適正化等を補正し(規制庁役人の最大関心事!)、それに満足した規制委は9.28、同タンクを無視し‘発生源がないから警報等の設置も不要’とした、中身のない6.30付工事計画変更申請を認可【審査結果2頁】。実際には影響評価も運転員防護設計確認もなされておらず、毒ガス防護の不備・違法状態は放置されたままです。>
 福島第一原発事故の最大の原因は、事業者側も規制側も(=原子力ムラ全体が)、万が一の最悪の事態を想定せず、最初から事故の可能性を排除し詳細な検討も行なわず安全と決めつけていたことにあったことを、決して忘れてはならないと思います。

 なお、東北電力が、同タンク換気空調設備の排気能力や事故時の実際の曝気量(空気注入速度)・排気量、事故時やそれ以前の気相部・液相部の硫化水素濃度などの「基本的データ」を公表すれば(まさか事故後に意図的に廃棄?企業秘密?)、そして何より“プロ”である東北電力・電中研が厳密な拡散評価を実施すれば、本稿のような“素人計算・ケチつけ?”は直ちに撤回します。
 【本稿の拡散計算・条件設定・数値解釈等に“初歩的誤り”があればご指摘ください。特に、東北電力・電中研からの具体的ご指摘・反論は大歓迎!】
<宮城県資料 https://www.pref.miyagi.jp/documents/13314/125846.pdf >
 <2022.10.1完 仙台原子力問題研究グループI>

≪②10.8追記:東海2との比較≫
 たまたま目にした東海2毒ガス防護申請の「9.29資料1:概要」(先行の島根2や女川2を参照)を見たら、なんと、敷地外に「硫化水素」貯蔵施設⑰(詳細不明の固定源)があり、「女川と同じ考え方」として、許容濃度(防護判断基準値)が「5ppm」と明記されていました<20頁:従って、前記≪短信≫の女川2拡散後濃度は、正しくは許容値の「9340~94倍」ということになります>。ちなみに、施設⑰の硫化水素影響は(5ppmとの比で)「1.1×10-2」とされています<23-24、52-55、60-63頁:最終的には「影響なし」ですが>。
 そこで、遡って詳しい資料を探したら、東海2の申請は今年4月27日付で、その後5.31、7.8、8.24、8.30、9.14、9.15付の資料を見つけました(見落としがあるかもしれませんが)。
 それらのうち詳しい説明のある「8.24資料2-1」<37枚目に許容濃度5ppmの説明もあり>を見ると、「ガウスプルームモデル」を採用し<42枚目>、施設⑰の距離は5500mで貯蔵量は6.4㎥(筆者は1気圧体積と仮定)<27、28枚目>、その全量が1時間(3600秒)で放出される<47枚目>として放出率Qpは「1.8×10-3」<48、51枚目>、気象条件はF・風速2m/sで<49、52枚目>、煙突高=z座標は0m<地上放出を仮定:26、27枚目>、という計算条件が判明し、その結果、濃度は「5.4×10-2ppm」(比は「1.1×10-2」)<57、60枚目>とのこと(着色は同資料での改定部分を示す)。

 そこで、≪短信≫の拡散計算検証のため、上記諸条件(Qp=0.00178㎥/s、F・風速2など)を用いて計算してみたら、なんと、濃度は「5.3×10-2ppm」となりました(筆者自身が驚きました!)。これは、筆者の素人計算・考察が“大きくは間違っていない”ことを示しているものと思われます。
 このことから、≪短信≫記載のとおり、女川原発の同タンク由来硫化水素の無処理放出(拡散後濃度が許容値の「9340~94倍」。F・風速2なら約5分の1の値になります)は、‘運転員らに対する危険性・有害性’が無視できないことは明らかで、それを東北電力・規制委が無視・放置して(検証すらせず)女川2を再稼働させることは、許されないと思います。                      (了)