会報「鳴り砂」2019年7月号が発行されました

会報「鳴り砂」2-101号(通巻280号)2019.7.20
会報「鳴り砂」2-101号(通巻280号)別冊2019.7.20
◎一面論文です

風の会公開学習会Vol.14 「どうする 女川原発・核のゴミ?」
“どうしようもない”核のゴミ

 7月6日仙台市市民活動サポートセンターで開催された「風の会公開学習会Vol.14 どうする 女川原発・核のゴミ?」には約50名が参加。久々の県外ゲスト・澤井正子さん(元原子力資料情報室スタッフ:県内での講演予定が地震・新幹線不通で中止となった経歴もあり、待望の仙台講演?)による1時間半のお話と30分の質疑応答がなされた。
 約1ヶ月前に札幌でも講演をされたという澤井さんは、札幌のタイトルにも「どうする」という言葉があったことに触れ、私たち市民の側がどうしようと悩む以前に、国や電力会社などの『核のゴミの発生者責任』こそ大いに問題にすべきと指摘した上で、特に自身が見聞きしてきた海外の実例を多数紹介しながらの、約1時間半の『澤井節』でした。以下、筆者が特に気になった点を列挙します(詳しい内容は、風の会ホームページの当日の配布資料や講演動画をご覧ください)。

 まず、同僚の上澤千尋さんが作成したばかりの「原発の運転年数」などを整理した表(抜粋)を示し、実質的に再稼働が不可能な柏崎刈羽1~5号機や福島第二1~4号機も考慮すれば、現時点ですでに国内の半数以上の原発が廃炉・廃炉見込みで、再稼働する原発もいずれ老朽化し廃炉となるため、廃棄物対策がより重要になっているとのこと。
 昨年廃炉(廃止措置)が決まった「女川1」の例では、使用済み核燃料や再処理ガラス固化体等の「高レベル放射性廃棄物」を除き、30数万トンの解体廃棄物発生が見込まれるが、僅か2%・0.6万トンの「低レベル放射性廃棄物(L1~L3に分類)」だけが地下埋設等の処分対象になるに過ぎず、大半の94%・29万トンは「放射性物質ではない一般産業廃棄物」(以前は「放射性物質ではない放射性廃棄物」と言っていたとのこと)として無制限に廃棄・再利用が認められ、残る4%・1.3万トンの「ほとんど汚染のない資材」などの「クリアランス(規制除外)対象物」も、「日本が目指す循環型社会の形成に貢献する」との名目で「有効に再利用」されるとのこと。すなわち、廃炉廃棄物の大半を占める廃鉄材・廃コンクリートなどは、調理器具・ジュース缶・自動車・建物・道路などに姿を変え、知らないうちに私たちの身近なところにリサイクル(押し付け)。放射性廃棄物専用のドラム缶に再利用するのはいいアイデアでも、推進側の説明図では、子供たちも利用するベッドや冷蔵庫などにも再利用できると安全性アピール。子供たちが缶ジュースを飲んでいる図(スチール缶が減っている現状では、原発由来廃鉄材と“口づけ”する機会は実際にはないと思いますが)を見て“嫌な気持ち”になったのは、筆者だけだったでしょうか。結局、福島原発事故で生じた汚染稲わら・牧草などを一般ごみと混合(希釈)して燃やしたり、土壌にすき込んだり(希釈)、堆肥化後に農地に散布(希釈)するなどの“見かけだけの処理(放射能の総量は不変)”と同様に、また福島県内の除染土壌等の再使用と同様に、「クリアランスレベル」の年0.01mSv(ミリシーベルト)以下の被曝線量となるよう「放射能濃度」を薄めてしまえば(=汚染のないものと混合・希釈すれば)、原発由来という“忌まわしい過去”を消し去ることができるのです。鉄やコンクリートなどの資源量が少ないから再利用するのではなく、それらの捨て場所・処分場確保に困るから社会の隅々にまで広範にばらまく(総量は不変)しかないのです。

 次に、海外での廃棄物処分の話で印象に残ったのは、東西ドイツの旧国境線付近に両国が処分場を建設したため、皮肉にも統一後には国の「中心部」にそれらが集中立地する状況になったことです。一時は首都機能の移転先にも考えられた福島県(阿武隈山地)が、時が流れ、福島原発事故で深刻な汚染を受けたことにも通じるように思えました。
 また、ドイツ・アッセの地下700メートル以深に投棄された低レベル廃棄物が地下水浸入により全量回収予定(具体的回収方法は未定)となったことや、フィンランド・オルキルオトにある使用済燃料・高レベル放射性廃棄物処分のための地下特性調査施設「オンカロ」(小泉純一郎元首相が見学して「脱原発派?」になったことで有名。澤井さんもその後に訪問とのこと)でも19億年前の花崗岩・片麻岩層に浸水が見られることからも、NUMO(原子力発電環境整備機構)の作り出した「科学的有望地(高レベル廃棄物処分場候補)」なるものが、単なる“浅知恵”に過ぎないことを示唆しています。
 このほか、フィンランドの原発推進の国家的事情・歴史的背景や、ノーベルの莫大なダイナマイト利益の理由、オンカロ運営会社の広報官への有名人起用などなど、聴衆を引き付ける小話も随所で披露。さすがでした。

 最後に、物議を醸した質疑について一言。質問者が聞いた?「炉心に入れた金箔が水銀に変わった」例を挙げ、放射能の消滅処理(半減期の長い核種を短い核種に変換する)の可能性(科学技術で放射能を安全にできる?)に言及。研究炉の炉心でそのような実験がなされ、金原子(原子番号79、質量数197:存在比100%)が中性子照射により水銀原子(原子番号80)に変わった可能性は十分にありますが(現代の魔法・錬金術:でも、理論的に推定可能で、わざわざ炉心で実験・実証する意味はないと思います)、問題は、長寿命の放射性核種Aを“意図的に”短寿命核種Bに変換できるかどうかです。

 核分裂で生じる放射性物質・核種は多種多様(化学的性質=原子番号も、物理的性質=質量数や半減期も)で【上図】、その中から廃棄物処分で問題となる長寿命核種を(化学的・物理的に)純粋に分離すること自体が極めて困難です(設備も人手も費用もエネルギーもかかります)。仮に、化学的にAという元素を単離したとしても、質量数(中性子数)が異なる核種(同位体)がいろいろ含まれていたら、それらに中性子照射しても、生じる核種も様々で、さらに長寿命になることも当然考えられます。また、照射時間が長くなれば、中性子を吸収し過ぎて、狙った短寿命核種Bではなく、想定外の長寿命核種Cが生じてしまう可能性もあります<*後述>。しかも、Aを単離できず、不純物Dが混じれば、やはりD由来の想定外の核種Eが生じてしまいます。そして、質量数100前後の核種なら1グラム中に約6×1021(1000兆のさらに100万倍)個もの原子が含まれており、それらの99.9999%を短寿命にできたとしても、なお100万分の1の6×1015(1000兆)個がそのまま残るか、他の核種に変わっていることになります(それが照射前より無害・短寿命となっている保証はありません)。実際の研究は、例えば複雑な組成の高レベル廃棄物(あるいは長寿命核種を大まかに分離したもの)の塊に中性子照射し、「全体として」長寿命核種が減るような照射強度・時間の“最小値(消費エネルギーが少なく経済的に成り立つように)”を求めるものと推察されますが、長寿命核種が少しでも残存する限り、問題の根本解決にはなりません。
 結局、原子1個で成り立つ夢物語(核変換)は、種々雑多な超多数個の原子・核種からなる実際の放射性廃棄物(核分裂生成物)では実現不可能です<*核兵器用に“純粋な”ウランU238に中性子を照射してプルトニウムPu239を製造しようとしても、照射時間が長くなるとPu240・241等の同位体(不純物)が生じることに鑑みても、“多種多様な”核分裂生成物から都合よく長寿命核種を短寿命にすることなど不可能です>。
 溺れる原発に“つかめる藁”などなく、やっかいな放射性廃棄物を生み出す「核分裂(原発再稼働)」を止めれば済むだけの話です(魔法も錬金術も要りません)。
<19.7.15記> 
(仙台原子力問題研究グループI)