会報「鳴り砂」2019年9月号が発行されました

会報「鳴り砂」2019年9月号(2-102号)
会報「鳴り砂」2019年9月号(2-102)別冊
(1面です)
再稼働阻止に向けて、まだまだやるべきことがある
~規制委員会による女川2号機の審査が最終段階に、でも問題は山積~

9月2日の『電気新聞』(電力会社の業界紙)の記事によれば、原子力規制委員会は8月30日に開いた審査会合(女川2号機に関しては173回目)で、女川原発2号機の適合性審査について、地震・津波側の議論を終え、総仕上げの審査会合をあと1回開くが、石渡明委員は「今後議論すべき論点はなくなった」と総括したと報じた。
 さらに、9月19日、東北電力は原子炉設置変更許可申請の補正書を規制委員会へ提出し、適合性審査は「最終段階に入った」(『朝日』9.20)としている。
 東北電力はこれまで審査での説明の終了を6回にわたって延期しており、規制庁が審査書案を作成するに当たって確認事項が生じれば、さらにまた延期の可能性もあるが(※注)、近いうちの審査終了があると思われる。
※注 http://www.tohoku-epco.co.jp/electr/genshi/safety/topics/o_examsitu_date.html

 仮に「合格」が出されたとしても、それで即再稼働というわけではない。実際、これまで「合格」が出された柏崎刈羽や、40年超の運転が認められた東海第2なども、再稼働のメドはたっていない。私たちは臆することなく、再稼働の阻止、そして女川1号機に続く2号機の廃炉を目指して歩みを進めていきたい。

○今後の流れ 地元同意が大きな焦点に
 
規制委員会が「適合性審査報告書案」(「合格証」)を公表したのち、パブリックコメントを1か月間求め、それに対する回答を付して最終の「報告書」が作成され、資源・エネルギー長官に提出される。それを受けて長官が事業者に許可を出すとともに、知事を訪問し地元同意手続きを求める、というのがこれまで行われてきた流れである。
 問題はこのあとだ。いわゆる「地元同意」をどう取りつけるかである。地元同意のステップとしては、・規制委員会による住民説明会 ・現在行われている宮城県安全性検討会のまとめ? ・県と立地自治体(女川町・石巻市)の首長(および議会)の意向表明 が最低限必要である。
 さらに、・UPZ自治体の首長(さらに議会)の意向も重要になってくるが、問題は住民の声が十分反映される仕組みがないことだ。だからこそ先の「県民投票」を求める署名が11万筆も集まったのだ。

○いまこそ「被災の実態解明」を!
 
これまで何度もいってきたように、女川原発は「被災原発」であり、大きなダメージを受けている。とくに目立つのはタービンの破損、および建屋の剛性の低下だ。2号機と3号機のタービンの動翼および中間軸受台などに顕著な損傷が発生した。タービンは原子炉がある建屋ではないので、安全審査としては重要性が低いようだが、破断すれば、放射能を含む高温高圧の水蒸気がタービン建屋に充満することになる。東北電力のレポートによれば、「(タービンの)復旧に当たっては、建設工事に匹敵する大規模な工事検討および工事期間を要した」(平成26年4月)とのことだが、その耐震性について審査で十分検討されたとはいえない。また、女川2号機は震災後、建屋の耐震壁に多数のひびが見つかり、地震への剛性(変形しにくさ)が最大70%低下している。東北電力はこれまで過去の地震や乾燥収縮しやすいコンクリートを使ったため、ひび割れが進んだが、建物の耐力は鉄筋で保たれているとしている。しかし、次の地震でひび割れが更に進み放射能を閉じ込める機能が想定を下回ることも予想されるのではないか。この他にも被害があるはずだが、東北電力は「軽微」として情報を十分に公開していない。震災直後の写真も不十分だし、各機器、計器、配管等が何カ所で交換されたのかも分からない。改めて被災の全容の開示を求めよう。

○「審査合格」でも安心はできない
 
また、「世界一厳しい」(政府が勝手にいっているだけだが)新たな「規制基準」自体に甘いところがある。その際たるものは、審査に「避難計画の妥当性」が入っていないところだ。なぜ入っていないのか? それは、もしこれも審査にいれたら、日本の原発はどれも稼働できないからだ。女川原発でいえば、30km圏内の21万人を安全に避難させるのが本来の避難だが、そもそも「まずは5km圏内の避難優先で、5km以上離れたところは、避難せず屋内で待ってて下さい」「牡鹿半島の女川原発より先のほうも、屋内退避して下さい」というもので、これではいくらフィルターベントを使っても被ばく必至ではないだろうか? さらに、石巻市や東松島市から避難者を受け入れる予定の仙台市は、「地震・津波と原発事故の多重災害は想定していない」というのだ。仮に避難ができたとしても、その後の生活再建・地域の再生にとって、放射能被害が大きな阻害要因になることは、福島事故を見れば明らかだ。
 また、フィルター付ベントを始め、これまでになかった様々な安全対策が3000億円以上かけて講じられているが、果たしてそれらを現場で十分に使いこなせるのかが大きな疑問である。福島原発事故も、津波の被害以降の「手順書の選択」が問題とされるなど、現場の混乱(および本社の対応)が被害を拡大させた。安全対策はハード面だけでなく、ソフト面も重要であるが、規制基準ではそこまでは判断できない。
 その他にも規制基準では、耐震設計について一部だけをSクラスとし、その他はCクラス以下とするなど、「電力会社ががんばれば、なんとか合格できる」範囲にとどまっていて、「放射能被害が起こらない」ということを担保するものではない(だからこそ、繰り返し「安全だとは申し上げていない」と表明している)。審査に「合格」しても、決して安心はできない。

○安全性検討会での「委員」の疑問は晴れたのか?

 一方、この間の遅れをとり戻すかのように精力的に取組まれている「宮城県安全性検討会」だが、東北電力の膨大な資料の説明に、委員はなんとか理解し批評を加えようとしているが、十分かみ合っているとは言えない。しかし、その中で時たま委員が「これはどうなのか」と疑問を呈するが、東北電力は通り一遍の説明をしてお茶を濁す、ということが続いている。たとえば、委員が「もし防潮堤が壊れた場合はどうするのか」と聞いたところ、「壊れることは想定していない」との答えだった。しかし、一方で「津波が防潮堤をこえてきた場合」は一応想定しているので、壊れる場合も想定してもよさそうなものである。「放水砲で効果はあるのか?」との疑問についても有効な答えがなかった。「確率で判断すべきではない」との意見も実質無視された形だ。こうして、委員が時折疑問を呈しても、東北電力は答える範囲でしか答えず、検討会自体はスケジュールを消化する、というのが現実である。これに対する根本的な対策は、まずは東北電力抜きで会議を行うこと、そして検討会の委員と市民の懇談・意見交換の場を設けることである。いまからでも遅くないのでぜひ実現してほしい。

○再び県議会で「県民投票」条例の質疑・採択を!

 この10月には宮城県議会議員選挙が行われる。先に述べたように、住民・県民の意志を十分に反映される仕組みがないなか、「県民投票」は有効な手段だ。にもかかわらず、その機会を奪った議員を交替させるチャンスだ。
 私たちとしては、まずは女川原発の再稼働に反対する議員を、そして反対しないにしても、県民投票に賛成する議員が議会の過半数になることを望む。宮城県民の思いで女川原発再稼働を止めるために、みなさんと共にがんばっていきたい。
(風の会事務局 舘脇)