会報「鳴り砂」2020年11月20日号が発行されました

会報「鳴り砂」2-109号(通巻288号)2020.11.20発行
会報「鳴り砂」2-109号(通巻288号)別冊2020.11.20発行
宮城県民大集会 集会決議(9月26日)
女川原発の再稼働をしないように求める請願書(9月23日)
常任委員会での請願審査を迎えるにあたっての「見解」(10月9日)
女川原発の再稼働をしないように求める請願書の趣旨
女川原発2号機再稼働への「地元同意」判断に係る要望書(10月23日)
村井知事の再稼働同意表明に抗議し撤回を求める声明(11月11日)

(1面論文です)
ー村井知事の「シナリオ」ありきの独断政治を許さないー
女川2号機再稼働の「同意」に県民から抗議の嵐 県民は同意していない!

11月18日、県庁で村井知事は樋口康二郎東北電社長に事前了解の回答文書を手渡し、さらに同日夕方、経済産業省で梶山弘志経産相に面会し、再稼働への同意を伝達した。これで再稼働に必要な地元同意の手続きが完了したことになる。私たちは、県民の意見を無視した同意表明に、断固として抗議する。
村井知事は一貫して「賛成・反対について私はいうべきではない」としてきたが、その言葉とは全く裏腹に、規制委員会の審議が大詰めを迎えていた昨年の時点から、必ず今年中に「同意」をだすとの「シナリオ」をつくり、議会や市町村長を巻き込んで進めてきた。そこには、再稼働に不安や疑問をもつ県民世論は、実際には全く眼中になかったのである。そのような知事の姿勢に対し、これまでになく県民の怒りが高まっている。
東北電力は2号機の安全対策工事が2022年までかかるとしている。私たちは知事への怒りを決して忘れることなく、この2年の間に県民運動を盛り立て、今度こそ知事や東北電力の「シナリオ」を潰すような闘いを作り上げていこうではないか。

○「請願者の意見表明」も認めない県議会ってなに?

9月7日の女川町議会に続き、9月24日石巻市議会でも「再稼働を求める請願」が賛成多数で採択され、切迫感高まる中で開催された9月26日の「女川原発再稼働を止めよう! 宮城県民大集会」には800人が参加した(詳細は本号沼倉さん報告参照)。その集会決議で「私たちは、県議会が県民の思いを受けとめて徹底審議を尽くすことを求め、脱原発をめざす県議の会と固く連携して、この請願書の採択を求めていきます」とあったように、主戦場は宮城県議会、そして市町村長会議に移った。
9月23日、県内53団体が「再稼働中止を求める」請願書を9月県議会に提出したのに対し、締め切りギリギリの10月7日に女川町商工会の1団体が「推進」請願を提出。この議会で賛成・反対の意見がじっくり討議されるものと誰しもが思った。私たち反対請願者側としても、請願者の意見陳述内容や推薦する参考人の人選など、準備を進めていた。
しかし、実際には「コロナ対策」を理由に傍聴者を178席中なんと18席に制限した上、参考人はおろか、請願当事者すら陳述することも認めない、という横暴な議会運営に県議会与党は走ったのである。その結果10月13日に環境福祉委員会が10分弱の審議で再稼働推進の請願を6対3で採択(反対請願を3対6で不採択)し、続く22日の本会議で賛成請願が35対19で可決(反対請願が19対35で否決、棄権2)された。
そして、11月9日には県内市町村長会議が開かれ、「三者会談に一任」と無理矢理まとめた上で、間髪入れず2日後の11日に三者会談を行って、知事の「同意表明」へと至ったのである。

○「原発は国策」を貫き県民世論を無視した村井知事と県議会

 市民が情報公開請求を行って開示された情報によれば、宮城県は今年1月16日の段階で、今年3月31日までを委託期間として「女川町生涯学習センターほか6カ所」で住民説明会を行うためのイベント業者を指名競争入札で決定していたことが明らかになった。実際には新型コロナの影響のため開催は延期されたものの、8月、当初「予定通り」7カ所で強行した。
 また、「河北新報」によれば、「(容認は)やむを得ないだろう」と周囲にほのめかしていた村井知事を「忖度」し、県議会の自民会派は委員会人事で環境福祉委員会に議長経験者などを送り込むなどの体制を固め、「これで再稼働容認は固まった」とベテランが解説したという(「河北」10.24)。
 つまり、私たち再稼働に反対する市民や、反対までは言えないけれども、避難計画はどう見ても不十分で、このまま再稼働に進むことに不安を感じる市民の声は、実態は「はなっから無視」だったのである。これでは、一体何のために地方議会や地方自治があるのか?
 私たちは今一度、問い返さなくてはならない。今の村井県政のあり方は、表面上は「ソフト」に見えても(村井知事は「同意」するまで決して正面切って「推進」とは言わなかった)、その実態は「独断専行」であり、「議論を通じて政策の是非を判断していく」という民主主義の基本からかけ離れているものであり、「普通の県政ではない」ことを。
 他県の例を見てみよう。現在、新潟県では「原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」や「原子力災害時の避難方法に関する検証委員会」で時間をかけて議論している。
 茨城県では新たな事実が分かった。茨城県でも「県民投票条例」の直接請求運動が行われ今年6月議会で否決されたのだが、その際の茨城県知事の意見書によれば、「安全性の検証と、実効性ある避難計画の策定、県民への情報提供をしたうえで、県民や、避難計画を策定する市町村、県議会の意見を伺いながら判断することとしている」としている。実際、避難計画では、コロナ対策も含め、まだ端緒についたばかりだという。新潟県の柏崎刈羽原発も茨城県の東海第2原発も、女川2よりずっと前に「合格」がでているが、いまだに「地元同意」のメドはたっていない。いろいろ問題はあろうが、議論を重ねたり、住民との合意形成を図ろうとする姿が垣間見れる。
 これに対して宮城県がなんと「異常」なことか。県内はもとより、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟原告団・弁護団が村井知事の同意表明に抗議声明を発表するなど、県外からも「あまりにひどい」との声が伝わってくる。

○県民を騙したに等しい記者会見での発言-原発事故と交通事故は同じなのか?!

 さらに市民の顰蹙を買ったのが、三者会談後の村井知事の発言だ。「私は再稼働は必要だと考えている。原発がある以上、事故が起こる可能性はある。事故があったからダメとなると、すべての乗り物を否定することになる。技術革新をして人類は発展してきた。福島の事故を教訓として、さらに高みを目指す。」(「朝日」11.12)
 もしこの発言を「同意」前に行っていたら、紛糾して、すんなり「同意」まで至らなかったかもしれない。それほどの問題発言だ。
 まず、住民説明会でも議会でも、何より原発の「安全性」を問題にしてきた。「世界一厳しい基準」だから大丈夫だ、と国や推進派の議員は繰り返してきた。賛成している人(住民・議員・市町村長問わず)でも、「国が安全といっているから、事故は起きないはずだ」として条件付きで賛成しているにすぎない。にもかかわらず、「原発がある以上、事故が起こる可能性はある」と、「同意」した途端に言い放ってしまうのは、まさに県民を騙していたに等しいものである。
 さらに問題なのは、「事故があったからダメとなると、すべての乗り物を否定することになる」という発言だ。その核心は「社会の技術革新には犠牲がつきものだ。その犠牲をのりこえて社会が発展する」というものだが、そこには科学技術に対する人権や倫理の視点が全く欠けている。広大な地域が放射能に汚染され、10万人以上が故郷(ふるさと)を追われ、10年経っても帰れない土地があり、「汚染水」を放出するかどうかが問われるような、あまりに甚大な犠牲をもたらす原子力発電が、他の科学技術(乗り物)と同等視できるのか。
今の時代は、核分裂の応用が核兵器(そして原発)を生み、また遺伝子技術がクローン人間を生み出すような現代科学技術(さらにAIなど)が、本当に人類を幸福にしているのかどうかが、生存権・人格権といった人権の観点や、環境倫理や生命倫理の観点から、改めて検討されているのである。
村井知事にとって「福島原発事故」は、「原発をやめるのではなく、より高度化した原発の開発へ進む契機」でしかないのだろうが、果たしてそれが社会的に受容される考えなのかどうか、まさにそのことを「同意」前にじっくりと議論すべきだったのだ。
 
○徹底して闘いぬいたレガシーを今後に生かそう!

 こうした軽薄な科学技術信仰に基づく「結論ありき」の村井県政に抗い、市民と議員は様々な形で村井知事の「シナリオ」を崩すべく闘ってきた。残念ながら「同意」表明はなされたものの、この間の取り組みは今後につながるものだ。
 まず、県議会への請願団体は、53団体にのぼった。これまでの要望行動に比べ倍以上の団体、しかも県内各地・各層からの参加が実現し、いかに多くの県民が再稼働に反対しているかを示すことができた。
 さらに、市町村長会議に向けて、連日県庁前でのスタンディングに10~20人の市民が参加、会議当日の11月9日には会場の「江陽グランドホテル」前でのスタンディングに50人が参加して、市町村長を激励した。11日の三者会談が行われた石巻の合同庁舎にも40人が集まり、「同意するな!」と訴えた。
 一方、市町村長会議に向けては、各住民団体などが地元の市町村長宛に、「村井知事は女川原発2号機再稼働への拙速な「地元同意」判断を行なうべきではないという意見を表明してほしい」との要望行動を行った。把握しているだけでも、石巻、東松島、美里、栗原、岩沼、多賀城、塩竃、富谷、仙台、大崎、利府などの住民団体がそれぞれの市町村長に要望書をだしたほか、あいコープみやぎなど様々な市民団体が要望書を提出した(「風の会」も要望書をFAX)。また、仙台市や石巻市などの住民団体により、「避難計画の不備」を、避難する側・受け入れる側双方の市に申し入れるという行動も行われた。
 市町村長会議では、美里町長や加美町長、色麻町長が明確に「反対」し、他の首長も避難計画の問題を指摘するなど、村井知事の「シナリオ」通りにことが進まず、「事務局が慌て(「朝日」11.13)」る局面を生み出した背景には、こうした住民・市民の声が少なからずあったのではないか。
 これらの他にも、私たち市民は、議会や県知事に対し、随時タイムリーに要望や記者会見を行って意見を表明し続けた。さらに10月22日の県議会本会議での反対請願否決の際も、直後に県議と市民の合同集会を議会内で行うなど、決して諦めずになおも議員と市民が一体となって再稼働を止める決意を共有した。
 さらにこの間の動きで特筆すべきは、女性の力だ。9月27日に発足した「女川原発再稼働ストップ!みやぎ女性議員有志の会」は、この間精力的に県内市町村長への申入れなどをはじめ、活発な取組みを行っている。「女性ネット」などの団体・個人も、連日、街頭での署名活動・スタンディングを行ってきた。何よりも、反対請願の筆頭3団体代表はすべて女性だ。
次は東北電力との攻防が中心になると思うが、この間培ってきた団結力を糧に、老若男女・都市郡部・県内外ともに、再稼働を止める闘いを粘り強く進めていこう。
 (事務局 舘脇)