会報「鳴り砂」2021年1月20日号が発行されました

会報「鳴り砂」2-110号(通巻289号)2021.1.20.
会報「鳴り粋」2-110号(通巻289号)2021.1.20.別冊

1面論文です

女川原発2号機の再稼働を止める県民運動を!
‘パンドラの箱’を開けた村井知事

昨年、多くの県民の意思を無視して、村井宮城県知事が女川原発2号機再稼働の「同意表明」を行ったことは、まさに県政に残る汚点となった。これで再稼働が決まったと感じている向きもあるかもしれないが、決してそうではない。本2021年は、村井知事の「同意プロセス」の不当性・無効を全県に訴えるなかで、再稼働の問題を焙り出していこう。「原発のない女川・東北」への道筋をつける一年にしていこう。

◎村井知事の何が問題だったのか?

 昨12月12日に行われた「風の会・公開学習会」で、講師の阪上武さんは、東海第2原発の再稼働プロセスに関して、茨城県の例をとりあげ、「東海村に加えUPZの中の水戸市など5市に事実上の同意権を持たせている」「県としては、①安全性の検証、実効性ある避難計画の策定→②県民の皆様に再稼働について考えていただく情報を提供→③県民、避難計画を策定する市町村、県議会の意見を伺う→④知事が再稼働の是非について判断」するとした方針を紹介した。現在はそのどの段階かといえば、①の段階で、しかも「実効性ある避難計画」のために、避難先の確保はもとより、複合災害およびコロナ対策をふまえた「第2避難先の確保および対策」を進めている段階だという。そして、「実効性」についてはあくまで県民が決めるのだという(聞き方は未定)。
 これを踏まえ阪上さんは「宮城県はずいぶん違うな、問題あるなと感じている」と思わず言葉にしている。「村井知事は、内閣府が承認したんだから緊急時避難計画の実効性は検証されたと言っているが、それはウソだと思います。シミュレーションも含めて、最終的には住民が納得できてはじめて判断が下される」「そういう意味でも宮城県知事の対応は非常に問題がある」と言い切っている。
 阪上さんは、12月1日の参議院で行われた政府交渉も取り仕切るなど、全国の状況に詳しいが、その阪上さんをして「非常に問題がある」と名指しされたのが我が村井知事なのだ。

 実際、避難計画の問題は、先の市町村長会議でも、多くの首長が不安を口にしている。「本町の4カ所の避難所に石巻市の約1,700人の避難住民を受けることとしております。当時の混乱を思い起こすと、万が一、女川原子力発電所で事故が起きた場合、円滑に避難者を受けいれられることができるかは不安を感じるところであります」(村上蔵王町長)、「石巻市さんから、町内2箇所においておおよそ500人の避難者を受け入れることになっております。…避難所確保を含めて、原子力災害時のコロナ対策について、どのように考えているのか…それから…受け入れ避難所は、通常の自然災害の使用する場所でもございまして、どうしても受け入れ側の負担が生じるほか、地域の避難住民、また観光客を受け入れる地元住民は不安を感じる…」(櫻井松島町長)、「安全性が実際に向上したのか、どの程度なのか、十分理解されてないのが現状だと思います。県におかれましても、先ほど説明会を地元でやっているとお話がありましたが、原子力の安全性について、県民に対し事業者から説明をするなどの機会を多くですね。持っていただいて、県民の安全に対する理解が深まるよう取り組みをしっかりと進めていただければ…」(大沼村田町長)、「石巻市さん、東松島市さんから受け入れる立場にあります。この受け入れ側の意見としては、やはりいくつも気になるところがございます」(郡仙台市長)。
 報道では、相澤美里町長、猪股加美町長、早坂色麻町長が明確に反対したことがクローズアップされているが、実は他の首長、特にUPZから避難者を受け入れる自治体も「本当に大丈夫か?」と感じていることが図らずも明らかになった。当事者がどう避難者を受け入れたらいいのか分からないという、避難計画の実効性のなさがここに端的に示されている。村井知事が「重視している」とした「市町村長の理解」さえも、実は得られていないのである。まして県民の理解などは言うまでもない。

◎今後の規制委審査の行方

 原子力規制委員会の適合性審査のうち、「原子炉設置変更」については昨年の2月26日に許可(合格)がおりたが、残り「工事計画」と「保安規定変更」についてはこれからとなる。
 「工事計画」認可申請について東北電力は、21年2月と3月に2回の補正書を規制委に提出し、予定していた全ての書類の提出を終える、としている。その上で、新型コロナウィルス感染拡大の影響で解析が遅れ、補正書の提出がずれ込んでいることから、補正書の内容については21年6月から変更し、9月までに説明を完了する考えだ。「2022年度を見込む安全対策工事の完了時期に影響はない。工程の調整で対応できると考えている」としている。(12月9日「河北」「日経」)。
 これまでの補正全体では膨大な資料が提出され、今後さらにこれに積み重なると思われるが、問題はその中身の限界である。
 何より、女川2号機は福島原発と同様BWR(沸騰水型)の古い型であるマークⅠ改良型であることからは、どんなに最良の工事をしても逃れられない。「マークⅠが欠陥を抱えているとの米国での指摘は当時から知られていました。格納容器全体の容積が小さいため、炉心部を冷却できなくなって、圧力容器内の蒸気が格納容器に抜けると格納容器がすぐに蒸気でパンパンになってしまう。最悪の場合は格納容器が破裂してしまう心配がありました」(田中三彦さん 2011.3.28週刊朝日)。
 また、最新の田中さんの分析では、福島第一原発1号機の放射能の漏れは、圧力容器(原子炉)のふたであるフランジのボルトが緩み、ガスが噴出したことによるのではないかの指摘がされている。「もしこのような現象が起きれば、原子炉圧力容器を包含している格納容器が、それもとくに原子炉圧力容器主フランジ部の近傍にある「格納容器トップフランジ」と呼ばれる部位が一気に加熱損傷を起こし、大量の放射性物質が外部(原子炉建屋最上階)に放出される可能性がある」(「科学」2020年12月号)。これは福島1-1と同様マークⅠである女川2号機にもまさに当てはまる重要な指摘だが、知る限り東北電力はこのことを検討していない。
 さらに、昨年12月4日の大飯原発設置許可取り消し判決で全国的に問題になっている「基準地震動」の「ばらつき」についても、改めて検討すべきではないか。ただ、女川での審査は必ずしも大飯原発の審査方法とは同じとはいえないので慎重な検討が必要だが、特に女川原発は何度も基準地震動を超えた地震に見舞われており、はたして現在の「1000ガル」という基準が妥当なのか、また東日本大震災はじめ、これまでの大地震でダメージを受けた「被災原発」が、今の耐震補強工事で本当に大丈夫なのかという不安は、決して拭い去ることはできない。
 また、大飯原発の判決が示したものは、「規制委員会の審査」そのものへの疑問である。原告が丹念に「審査ガイド」と現実の審査を比べて、その矛盾を指摘したことがこの判決をもたらした最大の理由だが、裏をかえせば、ある意味審査に「合格」することが前提で、「活断層がある」などの明確な理由がない限り「不合格」にはならないのが現実だ。したがって、「審査に合格」=「事故を起さない安全な原発」というわけでは決してない。審査を通ってもリスクは必ずあるのだ。

◎パブコメ回答に見る「工事計画」許可での課題

 昨年2月の「原子炉設置変更許可」に先立ち、パブコメが募集され回答が公表されたが、多くは「工事計画」へ先延ばしするものだった。以下、その一部を抜粋する。

・「ひび割れなどの検査は施設すべて行ったのか?」との問いに対しては、「ひび割れの発生量が多い原子炉建屋を代表として、ひび割れの調査結果を確認しています。原子炉建屋以外の既設建屋については、工事計画の審査において確認します」としている。
・「設置変更許可の審査においては、防潮堤下部を地盤改良することで敷地から海への地下水の流下がせきとめられるため、地下水位が地表付近まで上昇する可能性があることから、耐震性を含め適切に信頼性を確保した地下水位低下設備により一定の範囲に保持した地下水位に基づいて、地震時の敷地の液状化及び沈下を評価する方針とすることを確認しています」「改良地盤の物性値については、申請者が所定の物性値が確保されていることを施工時に確認する方針であることを確認しています。詳細については、工事計画の審査において確認します」としている。
・「設置許可基準規則では、原子炉格納容器の破損を防止するために、希ガスを含む放射性物質の放出を伴わない代替循環冷却系の設置を求めており、代替循環冷却系は格納容器圧力逃がし装置に優先して使用することとしています。このため、格納容器ベントを行う可能性は極めて低いと考えますが、仮に行った場合の評価として、放射性物質の異常な水準の放出を防止するという観点から、原子力発電所の近隣の住民が長期避難を余儀なくされる可能性がある放射性物質の放出を制限するため、… Cs137 の放出量を基に評価し、100TBq を下回っていることを確認することとしています」としている。
 他にもあるが、以上の課題や、昨年宮城県に申入れた内容などが今後「工事計画」認可で焦点になると思われるので、その不十分性をついていきたい。

◎再稼働を止める県民運動を!

 村井知事の「同意」表明後、「女川原発再稼働ストップ!みやぎ女性議員有志の会」の他、FFFS(Fridays For Future Sendai)の若者や、「脱原発をめざす首長会議」などが知事あてに同意の撤回を求める行動を行っている。また東京やドイツのマスコミが、「東日本大震災の震源の近くで原発を動かすのか?」と驚きを込めて取材を進めているとの話も聞く。まさに村井知事の行動は、原発とともに生きるのか否か、東日本大震災後の地域(女川・宮城・東北)をどう創り上げていくのか、という課題を突き付ける‘パンドラの箱’を開けるものになった。
 「グリーンリカバリー」という言葉も生まれているように、コロナの克服も含め、私たちは20世紀型の経済成長に基づく大量生産・大量消費社会からの転換の時代の真っ只中にいる。そういった視点をもちながら、女川原発2号機の再稼働を止める運動を、さらに多くの県民・仲間とともに創り上げていこう。今年は宮城県知事選を始め、重要な選挙が目白押しだ。それらの機会をとらまえて原発NOを訴えていこう。 (事務局 舘脇)