会報「鳴り砂」2021年11月20日号が発行されました


会報「鳴り砂」2-115号(通巻294号)2021.11.20発行
会報「鳴り砂」2-115号(通巻294号)別冊2021.11.20発行
女川原発運転差止請求事件第一回口頭弁論 報告書(女川原発再稼働差止訴訟原告団・弁護団より)

(一面論文です)

 最近の気になる動き 93-6 
≪最終速報≫硫化水素労災事故は“一件落着”?

 東北電力は、11.5「お知らせ」(最終報告)で、7.12硫化水素労災事故について、10.7労基署「指導票」<*>も踏まえた「原因と再発防止対策」を公表。労基署への「改善報告書」も同日提出とのことです。<*風の会・須田さんが労基署へ開示請求⇒個人情報スミ塗りの「部分開示」ではなく、「犯罪の予防に支障を及ぼすおそれのあるものが記載されて」いるとの理由で「不開示決定」!まさか労基署も労災防止の枠を超えて『毒ガス経路=テロ対策』の不備を指摘・指導した?)>

 主な報告内容は、予想通り、労基署の改善指導に“沿う”形で、洗濯廃液貯留タンクから2号機制御建屋へ通じる配管の「空気攪拌時のみの一時的隔離」や、空気攪拌時の「換気空調系の排気量増加」などの作業手順見直し、「タンク内廃スラッジ(底部沈殿物)の定期的排出」などの「労災再発防止」対策を講じるというもので、定量的な解析等は一切示されず、これで今回の事故を“一件落着”させようとするものでした。

 また、今回の最終報告では新たに、「スラッジ固化により硫化水素が蓄積しており、スラッジ内の新たな空気経路形成により硫化水素が多量に発生し、換気空調系で排気しきれず、逆流した」旨述べていますが、それ以上の具体的なメカニズム説明・原因究明はなく、さらに、対策の一つに挙げられた「排水桝の封水確認頻度の見直し」<別紙4:本文で言及なし>についても、対策を講じることになった理由(原因)の説明がなく<後述>、予想通りの“期待はずれ”でした。

 さらに、「労災再発防止」上も重要と思われる、1号機制御建屋に硫化水素が逆流しなかった理由・メカニズムについても、一切言及されていません。

 加えて、1・2号機ランドリドレン処理系の「共用」(別紙1脚注で初めてこの用語を使用!)が『根本原因』であることには、本文では一切触れていません(触れれば、「共用」解消のための2号機単独での処理施設の新設が不可避であることが明らかとなり、物理的なスペース確保(極めて困難!だからこそ2号機増設時に「共用」に!)や設置変更許可申請等の法的諸手続きが新たに必要となり、費用的にも時間的にも“自らの首を絞める”ことになるため)。

 その結果、2号機制御建屋への硫化水素逆流の危険性を『根本的に解消』することはできず(次は「配管の一時隔離忘れ・手順ミス」で労災事故再発?⇒対策として「隔離確認・手順見直し」のイタチごっこ!)、同時に『号機間テロの危険性』も放置・容認されたままになっています。

 その一方で、「廃スラッジの定期的排出」が必要とされたことは、規制委『毒ガスガイド』の「固定源」想定にも関わり、全国の原発にも“水平展開”が必要です<後述>。
なお、筆者注目の「同タンク以外の硫化水素発生源調査」の報告はありませんでした<後述>。

 その後、東北電力が安全協定に基づき宮城県(や女川・石巻)へ提出した報告(協定文書)を見ると、11.5報告にはない(マスコミや市民に知られたくない?)記載がいくつかありました。
まず、当該貯留タンクは3号機には設置されていないとのことなので、全国の原発毎に同タンクの有無(硫化水素発生・毒ガステロの危険性)が微妙に異なるのかもしれません。

 次に、従前の空気注入時には換気空調系で問題なく硫化水素を排出(常時作動/間欠作動?設定流量は?いずれにしてもおそらく“無処理(希釈)でたれ流し”では?…要事実確認!)していたものの、事故1週間前7.5・6と当日7.12には空気注入圧力(流量は?)を倍増させた(通常0.7⇒1.4kg/㎠。7.6には10倍の7.0kg/㎠で自動注入するも3秒後に水位高で手動停止)にも関わらず、換気空調系の排出量(流量)は増加させず、加えて接続配管の「封水不足」もあり(この事実は初公表・明言!)、硫化水素が逆流したとのこと(添付-1では、11.5報告・別紙1脚注に記載した「共用」の文言を使用せず!…このようなチグハグな公表は、真相究明・情報公開とは相反するものです)。
 そして、11.5報告と協定文書に共通する最大の謎は、固結スラッジ(活性炭)に硫化水素が「蓄積」し、事故前の7.5・6や7.12の高圧注入で「新たな空気通路」ができ、「硫化水素が多量に発生」して「排気しきれず」、という説明です。スラッジ内「蓄積」が原因で排気中の硫化水素が「高濃度(致死レベル)」になったのは理解できますが、「スラッジ層がほぐれ、蓄積していた硫化水素が多量に発生」=『排気しきれないほどの膨大な体積(量)の硫化水素がガス化』というのは、誤った説明・誤解でしかないと思います。単に、タンク底部水圧(水深3~4メートル?)・スラッジ固結(?)によるやや高い圧力下(1.3~1.4気圧程度?)で「気液平衡+活性炭との吸着平衡」(「スラッジ・活性炭内に密封・高圧蓄積」はされません!)にあった硫化水素が、新規形成された空気通路を上昇する注入気泡中に拡散移行または直接ガス化して上昇し、タンク上部の気相部で1気圧(?)に減圧されたことで、約1.3~1.4倍に「体積膨張」したことは十分に考えられますが【ボイルの法則】、空気注入量1.4kg/㎠に影響する(排気しきれない)ほどの「ガス化・多量発生」はあり得ないと思います<間違いなら、電力担当者でもどなたでも、筆者にご教授下さい>。要するに原因は、空気注入量倍増に見合う排気量設定をしなかった“単純ミス・作業ミス”でしかないのは明らかです。

 なお、「硫化水素発生源調査」について、協定文書では(筆者が第一報で指摘した)海水冷却系(水抜き後の付着生物腐敗に起因)を挙げていましたが、<11.5報告に記載なしなのはなぜ?>。本当にそれ以外に見落しはないのでしょうか。

 12.11公開学習会では、11.5最終報告・協定文書批判も含め、今回の事故が明らかにした様々な問題点について明らかにする予定です。そのための基礎知識として、1・2号機ランドリドレン処理系「共用」の経緯や「毒ガスガイド」の概要、さらに「洗濯廃液」から「微生物(硫酸塩還元菌)」が「毒ガス(硫化水素)」を生成する仕組みや、「硫酸塩還元菌(原発の敵=悪意なきテロリスト?)」についても分かりやすく(?)かつ詳しく(!)解説しますので、是非ご参加ください。
 <2021.11.18記>  (仙台原子力問題研究グループI)