会報「鳴り砂」2021年5月20日号が発行されました

会報「鳴り砂」2-112号(通巻291号)2021.5.20<
会報「鳴り砂」2-112号(通巻291号)別冊2021.5.20
みやぎ脱原発・風の会 ― 2020年活動のまとめと方針 ―
2021.3.27「さようなら原発宮城県民大集会」アピール集

(一面論文です)
福島原発事故の解明には大きな壁が・・・ 4.18シンポジウムに200人超が参加
「今も世界のどこかで過酷事故が準備されつつある」「原発は身の丈の技術ではない」

 4月18日(日)、シンポジウム「構造的欠陥を抱えた女川原発を再稼働させて良いのか」-2人の原子炉設計技術者の証言-が、「さようなら原発みやぎ実行委員会」の主催で開催された。宮城県で新型コロナウィルスの感染者が広がる中、急遽オンライン(+リアル会場)となったが、合わせて参加者は207人にのぼった。
 講師の田中三彦さんと後藤政志さんには、宮城県知事選最中の2017年10月にも仙台でシンポジウムを行って頂いたが、女川原発2号機の規制委員会による「合格」および県知事による「同意」を受けて、今後どのように女川原発の安全性の問題を問うべきなのか、再びお話をいただいた。
 田中さんと後藤さんの話は多岐にわたり、すべてを紹介することはできないが、以下、ポイントおよび印象に残った部分を報告したい。

 まず、「事故から10年、今何を思うか?」という問いかけに対し、田中さんは「大消費地である東京・首都圏で、新潟県でどんな議論が行われているかに関して、全く関心を持っていないように見える」、後藤さんは「原発の技術の問題をどこまで考えるべきかは、ある意味どうでもいいこともあり、むしろ、原発とは人間にとって一体何なのか、を考えるのが本質。ただ、原子力ムラの姿勢は、10年前と形は違うけれども、ある意味同じような安全神話の再構築をしている」と回答した。

◎BWRの新たな“弱点”-過酷事故時にフランジから高温ガス噴出の危険性

「福島原発大事故から10年、いま何が見えてきたか」と題された田中さんの講演は、2つのパートからなる。1.新潟県技術委員会による「福島原発事故検証」から見えてきた女川原発の構造的欠陥 2.“新潟方式”への期待(幻想)と限界-原発立地県は県独自の<規制委員会>を設置せよ、というものだ。
 1.の核心は、福島第一原発1号機での事故時の「圧力容器主フランジ部からの水素や放射性物質を含む高温ガス“噴出”の可能性」ということだ。この意味するところは、水素爆発の要因になった原子炉圧力容器からの水素(および放射性物質)が一体どの部分から漏れたのか、いまだに解明されていない、という事実である。そしてそれは、同じBWRである女川原発2号機でも起きる可能性があり、対策が求められる事象であるということだ。
 参加者からの「水素はメルトダウンした圧力容器の底から排出されたと考えるのが自然では?」という質問に対して田中さんは、「時間が違う」と答えた。つまり、メルトダウンした時間は、3月12日の未明なのに対し、この主フランジ部からの漏れ(というより“噴出”)は、それより早い3月11日20時07分(頃)だという。なぜなら、この時、作業員が決死の思いで原子炉の圧力計の目盛りを確認したところ、針は大きくぶれていたのであり、これは、フランジ部から、あたかもお釜がパカパカ吹いているように、中から水素などが断続的に漏れていたことの証左ではないか、というのが田中さんの見立てだ。
 このことから、結論として田中さんは、「女川原発を含むすべての沸騰水型原発の心臓部である「原子炉圧力容器」の主フランジや、圧力容器を出入りする重要配管(たとえば主蒸気配管)は、炉心が溶融しているような異常高温下ではたして構造や機能を維持できるかどうか、きわめて疑わしい」としている。(以下レジュメより)<たとえば圧力容器の上蓋と胴体を結合している「植込みボルト」が3000℃近い炉心からの輻射を受けて高温度になると、「高温クリープ」による「ストレスリラクゼーション」応力緩和という現象が起き、ボルト締め付け力が短時間のうちに低下し、ついには消失する。その結果、上蓋と胴体の結合面のフランジシート面に間隙が生じ、圧力容器内部から水素や放射性物質を含むきわめて高い温度のガスが圧力容器外部に猛烈な勢いで噴出する可能性がある。噴出した高温ガスは水平方向2メートル先にある「格納容器上部フランジ」のガスケットをただちに損壊させ、コンクリート製ウエルプラグを通り抜けて原子炉建屋5階へ向かい、何かのきっかけでそこで大規模水素爆発を起こす可能性がある>(*ちなみに、後藤さんによれば上記の「埋め込みボルト」は、福島よりも、また東海第2よりも女川2号機は短く、15cm程しかない)
 なぜ田中さんがこのことにこだわっているかといえば、規制委員会での審査では、上記の観点からの検証がないからである(田中さんが初めて指摘したので、当然といえば当然だが)。講演の中で田中さんは「実際の解析は、東電なり東北電力が責任をもって行うべき」とし、また福島事故の解明は、プラントに立ち入ることができない、情報をなかなか出さないという現状では、いまだ途上であることから、特にシビアアクシデントの異常な高温高圧下で、圧力容器や格納容器がどのような影響を受けるのかの解析がさらに必要ではないか、と講演を聞いて感じた。

◎新潟県技術委員会の限界、そして福島事故の検証の難しさ
 
 2.については、長年新潟県技術委員会の委員として労力と時間を割いてその任に当たったものの、知事が替わったことをきっかけに、中途半端な形で「知事への報告」が行われたことへの失望が表れていた。すなわち、2003年に発足した新潟県技術委員会が、2012年泉田知事の肝いりで福島事故の検証を行うことになり、田中さんは「国会事故調」などで解明されないまま残った課題に取り組むことも含め、委員としてこれまで尽力してこられた。その後2017年には米山知事が検証総括委員会の下「3つの検証体制」を作り、「これで柏崎刈羽は動かないだろう」と思ったほどの徹底した検証体制が作られた。しかし、花角知事に替わり、昨年10月「報告書」が(検証総括委員会を飛ばして)知事に直接提出されてしまった。
 この「報告書」に対し田中さんは、「福島原発事故の“検証”を新潟県が行う目的は、あくまで『柏崎刈羽原子力発電所の安全に資すること』にあるが、本報告書は、柏崎刈羽原発の安全性を考える上で重要な『課題・教訓』を133抽出しただけで、東電が再稼働を目指す柏崎刈羽原発6.7号機に対する安全性の議論や確認がまったくなされていない」と批判する。
 その上で「中央からの、あるいは知事や市村長らのトップダウン的判断に委ねるのではなく、原発立地県に居住する専門家からなる、そして彼ら彼女らの専門的判断が最大限尊重される組織、いってみれば原子力規制委員会の地方自治体版のような組織をもって判断することを真剣に模索する時期にきているように思える」と結論づけた。
 会の最後に岸田県議が話していたように、「宮城県はそこまでいっていない」というのは全く同感で、せめて宮城県も田中さんのような「反原発派」の委員を招聘するような委員会(単なる「会」ではなく!)を作ってほしいというのが正直なところだが、田中さんの精力を傾けて取り組んできた新潟での検証体制が中途半端で終わってしまったことへの無念さが、話の端々に感じられた。
 さらに田中さんは、「福島原発事故の検証はできたか?」という質問に対し、「福島原発事故の検証のためには、法的な裏付けがない・原発の中に入れない・文章は出さないという三重苦の中で、検証はできないということをだんだんと身にしみて感じるようになった」「廃炉作業で証拠物件はどんどん廃棄され、世代間で共有できないのではないか」「規制委員会が背中をみせている。というのは、国会事故調の時にテレビ映像を要求したのに拒否されたのに、今になって日本テレビの女性職員が規制庁の職員になって、日本テレビの映像が使われているなど、独りよがりに全部やってしまっている。そもそも規制委員会は新潟の技術委員会に一度も来なかった」と答えた。

◎過酷事故対策=格納容器をいかに守るか

 続いて、「過酷事故対策に関する新規制基準の何が無理なのか」と題した後藤さんのお話に移る。その核心は「原発は『炉心溶融』を起こさないように設計してきたはずであり、炉心溶融後の過酷事故(シビアアクシデント)対策は、基本的に焼け石に水である」ということだ。水蒸気爆発や高圧破損など、格納容器が破壊されるシナリオはいくつもあるが、その対策が不十分、というのが後藤さんの主張だ。
 その上で、ここ最近でも福島事故の新たな実態が明らかにされ(例えば、原子炉建屋上部で発見されたシールドプラグの高濃度汚染や、2号機排気用スタック根元の格納容器ベントラインからの漏えいと水素爆発など)「現在の過酷事故対策は、福島事故を反省した上でなされておらず、事故がどのように進展したか、再構成する必要がある」と指摘する。
  これの意味するところは何か? それは、確かに福島原発事故はレベル7の大きな事故ではあったが、格納容器の大半はなんとか維持できていたのに対し、万が一格納容器が大きく破損していたら、さらに大きな被害がもたらされていた、ということだ。実際、原子力委員会のメンバーだった阿部さんという方が「格納容器直接加熱」(DCH)という言葉を使い、格納容器の壁が破られ、原子炉の中身が空高く吹き飛ばされるような事態を恐れていたという(2021.3.15「朝日」夕刊)。そうなれば、仙台はおろか、東京にも避難指示がでたかもしれないというのだ。そういえば、吉田所長が「東日本壊滅というイメージ」と語った2号機の危機も、ベントができないことによる格納容器の破壊から想定されたものだった。
 それほど格納容器の機能維持は、重大事故対策として重要にもかかわらず、シビアアクシデントが起きるシナリオとその対策が全く不十分である、というのが後藤さんの主張の核心である。
 とりわけ印象に残ったのが、「格納容器の過圧破損・過温破損時(静的負荷)の対応手順」や「高圧溶解物放出/格納容器雰囲気直接加熱(DCH)概略手順」だ。それぞれ細かい手順が決められていることが分かったが、福島事故をみるまでもなく、実際にこんなに細かい作業を、もしかして暗闇や地震の恐怖の中、時間や温度・圧力などの状態を確認しつつ行うことが果たして可能なのか、と誰しもが感じたのではないだろうか。
 また、後藤さんは「格納容器過圧破損防止としてのフィルターベントの問題点」を指摘した。これも多くの指摘があったが、印象に残ったのは以下のことだ。①フィルターベントを稼働させる前に必ず冷却の手順があるが、そのための大量注水によりサブレッションチェンバーのウエットウェルベントラインが水没して、すべてドライベントになり、放射能が多く排出される ②配管がどうなっているのか? 逆流した場合ベントができない(福島では排気筒の根元で水素爆発が起きた?) ③福島で起きたように、最悪の場合、作業員が高線量下で命をかけてバルブ操作を行わなければならない
 その上で後藤さんは、「原発の安全性は改善したか」として、現時点での原子力行政の問題点を列挙した(後出囲み)。
 なかなか難しいが、次の発言は分かりやすかった。「原発過酷事故対策の3種の神器」として①静的触媒式水素再結合装置、②フィルターベント設備 ③屋外放水設備をあげ、それぞれ「炉心溶融後の水素対策には容量不足」「水素対策など系統も複雑すぎて機能しない『フェイルアウト』の塊」「後世に『無用の長物』として名を残す」と“解説”して頂いた。

 以上かいつまんでの報告だが、実際のお話と資料は“さらに深掘り”しているので、ぜひ動画と資料をご覧いただきたい。また、田中さんの「原発は安全でもダメだ。原発は身の丈の技術ではない」、後藤さんの「今も世界のどこかで過酷事故が準備されつつある」という一言は、原発を設計し、また福島事故を解明し続けているお二人が発したものであり、重い言葉であると心に残った。
 シンポジウムの最後に、県議の会の岸田清実さん、女性議員有志の会のゆさみゆきさんから発言を頂き、今後も女川原発再稼働阻止にむけて取り組んでいく思いを共有した。 (事務局 舘脇)

*当日の動画と資料は、下記の「みやぎアクション」のブログに掲載しています。
http://dkazenokai.blog.fc2.com/blog-entry-861.html

【原発の安全性は改善したか】
1.「絶対安全はない」ことを言い訳にして、安全対策をやらない口実にしている。
2.「安全性の向上」を目指すという「姿勢」を示すだけで、「安全とは何か」、「何をもって安全か」という基本的視点を欠いたまま、全く根拠のない(恣意的な根拠にもとづき)安全神話、例えば「最悪の事故でも放射性物質の放出は100テラベクレルを超えない」といった「新安全神話」を、デマとして喧伝している。⇒事故に恣意的な仮定を設けて定量化することは、科学を装った詐欺である。
3.原発の安全性の根幹は「格納容器防護(=放射能の封じ込め)」だが、シビアアクシデント(炉心溶融)を認めた段階で、「シビアアクシデントを起こさない」ように格納容器それ自体の設計を変えるべきだった。しかし、現行の原発がすべて廃炉になってしまうのを恐れて、「格納容器耐圧ベント」⇒「フィルターベント」⇒「極めて信頼性のない複雑な仕組み」を導入し、新規制基準を通した。
4.原子力規制委員会が2021年はじめにまとめた福島事故の報告書(中間報告)の結果は、事故シナリオの再検討を必要とする。以下、中間報告の内容の主要な論点を示す。
①原子炉建屋上部のシールドプラグの高濃度汚染と、放射性物質および水素の流出経路と破損原因。
②ベント配管と非常用ガス処理施設(SGTS系)の接続、隔離弁のフェイルオープン、号機間の配管の共有、スタックへの接続、ラプチャーディスクの設定圧の設計上の問題。
③SGTS系と耐圧ベント配管の設計圧、設計温度の違い(DBA(設計基準事故)とSA(シビアアクシデント)のダブルスタンダード)。
④新潟県技術委員会で提起された、原子炉圧力容器の高温時ボルトクリープによるフランジからの高圧ガス流出(DCH的な挙動)、DCHによる格納容器トップヘッドフランジのガスケット過熱損傷、流出の可能性評価。
⑤そうでなくとも、格納容器が耐熱限界200℃に抑えられるとする根拠は薄い。福島第一1号機は、格納容器トップヘッドの温度が300~400℃まで上がった。
◆改良型EPDM(エチレンプロピレンゴム)のフランジガスケットを導入しているが、限界温度は250~300℃までしか上がらず、十分な改良とは言えない。
◆炉心溶融が起きた時には、トップヘッド周りの原子炉ウェル注水冷却は効かない。