会報「鳴り砂」2021年9月20日号が発行されました

『鳴り砂』2-114号 2021年9月20日
『鳴り砂』2-114号 別冊 2021年9月20日

一面論文です

9月15日、「女川原発の再稼働を許さない!みやぎアクション」等38団体は、7月の女川原発「硫化水素労災事故」に関し、原子力規制委員会に下記の申入れ書と添付資料を共同提出した。14時から参議院会館地下1階103会議室で行なわれた原子力規制庁交渉には、篠原さんと多々良さん、風の会2名、オンライン参加で13名、紹介議員の石垣のり子参議院議員が同席、規制庁から原子力規制部検査グループ実用炉監視部門と審査部門の管理官補佐2名が出席した。質疑では、「有毒ガスガイドに硫化水素は含まれているのか?柏崎刈羽原発では含まれていたが」との問いに、「定義に書かれている」「除外していない」。「今行なっている工事認可審査とは別なのか」に、「有毒ガスをバックフィットに追加、経過措置は3年」「再稼働までに原子炉設置許可申請を出す」「もう一回審査を受けなければならない」「共用するなら基準を充たせばよい」。労働基準監督署の労災事故原因調査が出た段階で「日常検査で確認する」等が明らかになったが、指摘事項に対する文書回答を求め、交渉を終えた。
 なお、「硫化水素労災事故」の解説や添付資料、共同提出団体名等は、今号「別冊」及び風の会HPに掲載していますので、ご覧下さい。(空)

原子力規制委員会委員長  更田豊志 殿              2021年9月15日

東北電力女川原発2号機の原子炉施設設置変更許可の適合性審査のやり直しを求めます

7月12日、東北電力女川原子力発電所2号機の制御建屋内において、硫化水素を吸い込んだことにより、協力企業作業員に7名の体調不良者が発生するという重大事故が起きました。
「…本事象は、1号機廃棄物処理建屋において、洗濯廃液を貯留するタンク内の硫化水素の発生を抑制するため、空気注入による攪拌作業を行っていたところ、硫化水素がタンクに接続される配管を通じて2号機の制御建屋内に流れ込み、当該作業員が吸い込んだことによるものと推定しておりますが、詳細については現在調査中です。なお、本事象は発電所の安全性に影響を与えるものではありません。今後、原因を究明のうえ、再発防止に努めてまいります」(7.13東北電力プレスリリースより)。
その後、8月末現在に至るまで、東北電力からこの事故の原因と再発防止策は発表されていません。
原子炉設置変更許可が出され再稼働へ向けて作業中の2号機と、廃止措置計画認可が出され廃炉作業中の1号機が繋がっていることによると見られる今回の人身事故に、地元住民の中には、規制委の審査そのものへの信頼が揺らぐとの声も上がっています。
私たちは、この事故に表れた問題は、基準への適合性に関わる重大な問題であり、審査をやり直すべきと考えます。以下、その理由を述べます。

1、1・2号機間の「ランドリドレン処理系を共用」しているという構造的欠陥が事故の根本原因であること

今回の事故は、新規制基準による適合性審査で合格とされた2号機の最重要施設の一つである「制御建屋」が、廃炉が決まった1号機の「廃棄物処理建屋」と直接「配管」により結ばれていて、いわば号機をまたいだ『毒ガス通気経路』の存在が明らかになったというもので、原子炉施設の安全上も、さらにはテロ対策上も、重大な問題です。
2号機増設に係る『女川原子力発電所原子炉設置変更許可申請書』には、1・2号機間で「ランドリドレン処理系関連設備」を共用する旨の記載があります(本文:「ト(ロ)(1)c、(ハ)(1)a」、第21図、第22図、添付書類8:「10.3.4(3)、10.4.4(1)」、第10.3-1表、第10.4-1表、第10.3-1図、第10.4-1図、等)。すなわち、2号機制御建屋からのランドリドレン「排水配管」が、1号機廃棄物処理建屋「地下1階」の洗濯廃液貯留タンクに自然流下するよう2号機建設時に敷設されたため、7月12日の事故では、同タンク内の硫化水素発生(=嫌気状態を好む硫酸還元菌の働き)を抑えるため「空気注入による攪拌作業」を行なった際、同タンク上部の気相部に蓄積・液相部に溶け込んでいた硫化水素が、液相部に注入された大量の空気により押し出され、排水配管を逆流し、2号機制御建屋の排水口から流出したと推察されています(8.12東北電力プレスリリースの添付図参照)。つまり、この「共用」こそが今回の労災事故の根本原因で、1号機廃棄物処理建屋から2号機制御建屋に通じる『毒ガス経路』が放置されていることが明らかになったのです。
このことは、設置許可基準規則12条7項「重要安全施設以外の安全施設について、二以上の発電用原子炉施設において共用し、又は相互に接続する場合には、発電用原子炉施設の安全性が損なわれないものであること」に適合しない状態にあることは明らかで、そのための適合性審査が改めて必要だと考えます。
なお、東北電力は、この労災事故の対策として、労基署からの指摘等に藉口して、空気注入時の作業手順の問題(マニュアルの改訂や漠然とした「組織風土」)などでお茶を濁そうとする可能性がありますが、「ランドリドレン処理系」共用の廃止と、それに伴う2号機ランドリドレン処理系の新設(廃棄物処理系全体の設計・諸設備の配置見直し)以外にないことは明らかです。

2、『有毒ガス防護に係る影響評価ガイド』の硫化水素欠落と、同ガイドを無視した適合性審査は問題

貴委員会の女川原発2号機の審査書(2020.2.26)における全13の参照ガイドリスト<p.2-3>には、「原子炉制御室及び緊急時制御室の運転員については、対象発生源の有無に関わらず、有毒ガスに対する防護を求める」ことを定めた『有毒ガス防護に係る影響評価ガイド』(H29.4制定)が含まれておらず、このことは審査における重大な欠陥です。また、東北電力も、同ガイド制定後の敷地内外の貯蔵・輸送化学物質についての調査で、硫化水素は取り上げていません(2018.5.10「女川2・有毒ガス防護について」p.6-8,10-12)。これは、同ガイドが、そもそも生物学的に施設内で発生することが十分に予想される「硫化水素」を対象としていない(欠落している)ためと思われます。
今回、実際に硫化水素により7名もの作業員が被害をうける(濃度が高かったら、死亡もあり得た)という重大事故が起きたことに鑑みれば、同ガイド自体の内容の見直しが必要です。

以上の理由により、貴委員会が、設置許可基準規則12条7項および(見直し後の)同ガイドに基づき、東北電力女川原発2号機の適合性審査をやり直すことを求めます。