会報「鳴り砂」2023年1月20日号が発行されました

会報「鳴り砂」2-122号(通巻301号)2023.1.20
会報「鳴り砂」別冊2-122号(通巻301号)2023.1.20

(1面です)
岸田政権による原発推進政策、そして「規制委員会の保安院化」に抗し、女川原発2号機の2024年再稼働阻止の陣形を!

 暮れも押し迫った昨年12月21日、原子力規制委員会が原発の60年を超える長期運転を可能にする安全規制ルールの骨子案を了承した。原発の運転期間は、これまで規制委員会が所管してきた原子炉等規制法で規定されてきたが、今後は、推進側の経産省が所管する電気事業法で決められることになるという(正式にはパブリックコメントなどを経て決定)。翌12月22日には政府が「GX(グリーン・トラストフォーメーション)実現に向けた基本方針案」をとりまとめ、福島原発事故以降の政策を180℃転換させる原発推進に舵を切った(年明けの今年閣議決定し、国会で法改正の予定)。
 「聞く力」を標榜してきた岸田政権だが、その実は経産省やメーカーなどの原発推進勢力の言うことだけを聞き、福島事故による避難者をはじめ多くの国民の声に耳を貸そうとしない姿勢は、民主主義に反するものであり、断じて認めることはできない。また、それに追随する山中委員長率いる規制委員会の姿は、かつて経産省下にあった「原子力安全・保安院」と二重写しではないか。福島事故が忘却されようとしている今、しかし12年前とは異なる世論(社会通念)と運動の蓄積を基に、この原発の復権に抗する大きなうねりを作り出していかなければならない。とりわけ宮城に住む私たちは、様々な力を結集させて女川原発2号機の2024年2月の再稼働を止める闘いを作り出していこうではないか。

●岸田政権の「原発の復権」の虚と実

 すでに様々なところで論じられている政府の原発推進政策の詳細についてここで繰り返し論じることはしないが、「電力危機」「電気代の高騰」「地球温暖化対策」に原発の新規の建設はまったく役にたたないということは指摘しておきたい。現在、経産省の審議会「革新炉ワーキンググループ」で「次世代革新炉」について議論されているということだが、日本ではほぼ実現不可能と思われる「小型モジュール炉」などは論外で、唯一可能性のある「革新軽水炉」について考えてみよう。現在想定されている「革新軽水炉」は、すでに中国などで稼働されている「第3世代原子炉」にあたるので、安全面でものすごく改善されたというわけではない。もちろん「コア・キャッチャー」などが装備されているので今ある原発よりはましだと思うが、なんといってもその建設にかかる時間とお金が膨大すぎる。通常、原発は計画から稼働まで20年かかるといわれ、政府が想定している「リプレース(立て替え)」でも10年はかかるだろう。

 また、その費用は優に1兆円以上かかり、世界各地でコスト超過・工期遅延が頻発しているという。
 その一方で再生可能エネルギーのコストはこの間も減っており、民間の試算では既に逆転しているが、政府の想定でさえ近い将来原発より太陽光のほうが安くなるとされている。また、地球温暖化対策についても、日本は温室効果ガス排出量の目標を「2030年度までに13年度比46%削減」としているのに対し、新規の原発建設ではまったく間に合わないのが現実だ。   
 つまり、結論的には、「新規の原発建設」のぶち上げというのは、原発という技術が国内から枯渇してしまわないための原発産業擁護の宣言であり、また現在新規建設が計画されている地域への後押しという意味合いが強い。ただ、政府が後押しすることの影響は少なからずある(予算配分や世論形成など)ので、いかに(もんじゅのように)実現が難しくても、政策を縛るものになってしまうのは必至であり、この政策転換を許すわけにはいかない。

●老朽原発の存続は危険

 それに対し、原発の40年運転の延長(最大60年からさらに延長可能)というのは、まさに差し迫った課題である。すでに国内では東海第二(43年)、美浜3号機(45年)、高浜1号機・2号機(47年と46年)の4基が40年を超え、現時点で再稼働しているのは美浜3号機のみだ。国内には、適合性審査に申請していない原発も含め、運転期間が30年~39年のものが13基、30年未満が16基ある(2022.11現在)。岸田政権の当面の課題は、これらの原発をできるだけ長く使い、その間になんとか新規の原発を1基でも2基でも作ろうということではないかと考える。
 しかし、そもそも国内原発の稼働年数を40年としたことには根拠がある。長年の運転で中性子照射により圧力容器がもろくなる他、運転していない期間も配管やケーブル、ポンプ、弁などの各設備部品が劣化する。さらに、40年前の設計自体が最新の安全基準を満たしていないことも想定している(40年前の車がどれだけ街を走っているのか)。これらを根拠に、福島事故後の2012年、国会での議論を踏まえ与野党の合意で決まったのが「原発40年ルール」であり、国会で参考人として証言した田中俊一元原子力規制委員会委員長も「40年運転制限は古い原発の安全性を確保するために必要な制度である」と述べている。
 それから10年。12月21日には原子力資料情報室による内部資料の公表により、山中原子力規制委員長が知らない間に、原発の運転期間の見直しを巡り、原子力規制庁の職員が経済産業省職員と非公開の場で日常的に「情報交換」をしていたことが明らかになった(その後に7回面談したと発表)。しかもその秘密面談は、岸田首相が8月24日のGX実行会議で「原発回帰」をぶち上げる前の7月28日から始まり、その時すでに原子炉等規制法などの法案の検討を始めたと伝えられたというのだ。
 これでは独立性のための「3条委員会」の名が泣くというものだ。規制委員会は、10年前の発足の原点に立ち戻り、政権側・推進側の経産省の圧力に屈することなく、あくまで「安全」の側に立った規制をすべきであり、そのことからいって原発の40年ルールの変更を認めるべきではない。

●女川原発はもはや「金食い虫」と化している

 一方、東北電力は11月24日、家庭向け電気料金について、平均約33%の値上げを国に申請した。樋口社長は「このままでは安定的な燃料調達や電力設備への投資を十分にできなくなる」としているが、その「電力設備」の最たるものが女川原発だ。社長は一方で2024年2月の再稼働を狙う女川原発2号機の安全対策工事費用を5700億円程度とした(これまでは3400億円程度と説明)。さらに「特重施設」は1400億円と、再稼働工程全体でなんと約7100億円もかかるのだ。女川原発を動かせば買う燃料が減らせるため年間1000億円程度のコスト低減につながるというが、そのためには40年を超える稼働が前提だ。実際、社長は、原発の運転期間について「しっかり安全審査を受け、延長できるものは延長して、しっかり使いたい」と延長に意欲を滲ませているが、これこそ先に指摘した政府の方針と軌を一にしたものだ。
 そもそも東北電力は2011年以降、全く発電しない原子力発電所の費用として、この11年でなんと1兆609億円も計上している(「株主の会」の質問への回答より)。国が行う机上の計算ではなく、現実の数字を見れば、原発がいかに割に合わないかは誰の目にも明らかではないか。費用対効果も不確かでハイリスクな原発への投資補填のために私たちの税金や電気料金が使われることに、同意はできない。私たちは物言わぬ消費者(民)ではない。

●原発のない社会を!

 そして、そうした巨額をかけながらも、女川原発では地震被害やトラブルが続出している。昨年11月2日には、廃炉工程にある1号機のクレーンの土台に最大6センチのひび割れが8個見つかった問題で、岩手・宮城の6団体が東北電力と交渉をもったが、事態を重くみたのか、12月27日には宮城県なども安全協定に基づき、女川原発1号機立ち入り調査を実施した。
 しかし、これまで基準地震動を何度も超過している女川原発が、果たして1000ガルという新たな基準を超える地震に見舞われることがないのか、また1000ガル以下であってもその地震に耐えることができるのか、さらに地震に限らず様々なトラブルに運転経験のない運転員が対処できるのか、不安は尽きない。現在行われている「サプレッションチェンバーの耐震補強工事」は、東北電力自ら「これまでに経験したことのない工事」という難工事で、そのために再稼働の時期が半年以上延びたほどだ。だが、すべての配管などの設備を補強することはできない。
 先に女川で講演した元裁判長の樋口英明氏は、その著書で、「原発が危ないといって原発の運転を止めないといけないというのなら、交通事故で年間何千人も亡くなっているのだから、自動車だって運転を止めないといけないことになる」という原発推進派(わが村井知事をはじめとして)に対し、「他方、原発を止めても困るのは電力会社とそれに関係する一部の人たちだけで、その人を含む極めて多くの人の生命と生活が確実に安全になるのです」「従業員の安全の確保、事故を起因とする電力会社の経営破綻の回避、地域住民の安全、地域社会の存続、我が国の安全のいずれを見ても、電力会社の短期的利益よりも遙かに価値が大きく、またこれらはひとたび失ってしまうと取り戻すことができないものばかりです」と喝破している。
 先に述べたように、電力会社の「短期的利益」でさえ怪しい原発とはできるだけ早く手を切ったほうが、私たちにとってはもちろん、電力会社にとっても有力な選択肢になっているのではないか。政府がいう「リプレース」の方針に従えば、女川には永久に原発が残り続けることになるが、それを女川・石巻の住民をはじめ、私たちが望むことなのか? 1~3号機が生み出した放射性廃棄物も永久に女川に残り続けるのではないか?
 政府の勝手な言い分に対し、現実から目をそらすことなく、これからどういう地域・社会を作っていくのかを、ともに考えていこう。原発のない女川、宮城、そして東北を、みんなの力で作り出していこう。
(事務局 舘脇)