最近の気になる動き99 運転期間延長と“コピペ・誤記載”+福島原発事故

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最近の気になる動き99 運転期間延長と“コピペ・誤記載”+福島原発事故

(以下、図表をのぞいた原稿です)

 2023.1.19規制委審査会合で、東電・柏崎刈羽(KK)3号機の(高経年化評価=30年前審査の)書類に149カ所の誤りがあり、うち131カ所は同型の2号機の記載内容の「流用」=“コピペ”で、「書類に必要な材料の名称などが分からなかったため」とのこと<1.20岩手日報>。花角新潟県知事は「(的確に原発を運営する)能力が本当にあるのかと感じる」とコメント<1.26同>。
 奇しくも、その直後、日本原燃・六ヶ所再処理工場の設工認書類にも規制委側が「審査に値しない」とあきれ返るほどの‘多数の落丁や誤記載’が見つかり、規制庁が申請書を受理しない選択肢もあったものの、山中委員長の見方では「公開の場で(不備を)指摘するのが必要だと担当者が判断したのだろう」とのことで、1.25の審査にかけられた模様<1.26河北>。他にも、これまでに東北電力も含めた多くの原子力事業者の各種申請書類(特に地質・地震関係)にミスが多数見つかっています。
 これらはいずれも、事業者側に正しい知識・注意力を持った人材や書類作成・チェックの時間が不足していることが背景にあると思われますが、根本的には‘まずは形式的に書類を提出し、あとで訂正・修正すればいい’と安易に考えていることが原因で、それを招来しているのは、何度も「添削・修正」を繰り返して最終的に必ず「合格」を与えるという規制委の審査自身です。事業者は、不合格の心配が一切ないから(審査の場での規制委・規制庁からの指摘・苦言・イヤミなどは、その場で我慢・平身低頭で聞き流していれば、いずれ“合格させてもらえる”のです)、“誤記載だらけのコピペ書類”でも提出するのです。
 <*いま話題の法改正(改悪)で、審査期間(=経年劣化・老朽化は進行)は運転期間から除外されることは確実で(2.13規制委は石渡委員の反対に耳を貸さず多数決決定!)、ますます期限無制限の「合格指導」が可能となります。すると、3.11地震停止・定検中の女川3号機(プルサーマル予定)でも、運転期間に含まれる現行の定検停止期間を「審査期間」に変えれば運転長期化が可能となるため、大急ぎで設置変更許可申請書(内容は2号機のコピペで、プルサーマル関連部分を修正。修正ミス・誤記載があっても、時間無制限の添削指導があるから大丈夫)を提出するのでは?>

 さて、本稿で上記KK3のコピペ・誤記載問題を取り上げたのは、3.11事故12年が近づき、筆者がこだわり続けている『福島原発事故の運転操作の問題点』のコピペ・誤記載問題がすぐに思い浮かんだからです<*食傷気味の方もいらっしゃるでしょうが、最近からの『鳴り砂』読者向けに、久しぶりに取り上げます>。
 その検証過程で明らかになったのは、福島第一・1~3号機の運転員らが、事故発生直後から、良く言えば‘それまでの訓練の成果を発揮?’して“アドリブ的・臨機応変”に、正しくは“急場しのぎの思いつきで=手順書(の記載手順)を無視して”、さらに当該号機・設備の特性を十分に認識・理解せず、事故前のワンパターン訓練を単純に模倣して、地震直後(津波襲来前)の対応にあたっていた事実です<*例えば、2号機では「隔離時冷却系RCIC」起動に伴いサプレッションプールSP冷却が正しく開始されたが、中央操作室を共用する1号機でも「非常用復水器IC」作動時には不要なSP冷却が模倣的に開始され、一方、中操が異なる3号機(2号機と同型)ではRCIC起動にもかかわらずSP冷却は保留>。そのような実態をごまかすため東電はH23(2011).10、原子力安全・保安院に対し、事故時の操作は、「徴候手順書EOP:事故時運転操作手順書(徴候ベース)」ではなく、「事象手順書AOP:事故時運転操作手順書(事象ベース)」のうち「第1章原子炉スクラム事故 (B)主蒸気隔離弁閉>」(=運転員らが十分に訓練され習熟していたと主張できる手順)に合致、と報告しました<*3.11事故が、運転操作不備による「人災」ではなく、想定外の地震・津波による「自然災害」だと責任回避するため>。
 ところが、その後東電は新潟県技術委員会に対し、「平成23年10月の報告書はあくまでもプラント状況に対して,当時の対応が事故時運転操作手順書に合致しているかを確認したものであり,事故時にどの手順書を参照して対応したのかを確認したものではない。一方,合同検証委員会報告書は,…事故時の操作がどの事故時運転操作手順書に従って対応したのかを記載することとし,津波襲来前の対応として実際に従ったEOPとAOPの対応を記載した」(下線筆者。詭弁の典型たる超難解な文書)と弁明し、実際には「地震発生」により原子炉が「スクラム」したため、「①スクラム発生」を導入条件とする「徴候手順書EOP」の「RCスクラム」で対応し、その後「④異常徴候」が特になかったため事象手順書AOPの「スクラム・MSIV閉手順書」で対応したと、H23.10報告では一切言及しなかった「徴候手順書EOP」を持ち出し、主張を大きく変えました【2018.10.31新潟県技術委員会:資料№3】。

 でも、以前の『鳴り砂』(№274、276等)の繰り返しとなりますが、東電が3.11事故前までに策定していた4 編・23 章の「事象手順書AOP」の中に「第22章自然災害事故」(以下「地震手順書」)というものがあり、そこには比較的強い地震が発生した際の手順が示され、その中で「震度6強を超える大規模地震」や「自動スクラム(地下床水平135gal、鉛直100gal以上)」や「外部電源喪失」という様々な“後発事象”も想定されていて【1号機地震手順書】、具体的な導入条件として「震度5弱以上または、地震加速度区分Ⅲ(基準点地震加速度45gal以上)」が明記されています。実際、3.11地震時には導入基準を大きく上回る地震加速度が観測され、その“後発事象”として原子炉は「自動スクラム」し、さらに「外部電源喪失」さえ生じていたのですから、‘常識的に考えれば’まずは地震手順書を参照すべきだったことは明らかです<*それが3.11事故の軽減・収束に役立ったのかどうかは別として。そうでなければ、「冷却材喪失」や「配管破断」等の事故に伴う“後発事象”である「自動スクラム」でも、一律に「徴候手順書EOP:RCスクラム」で対応せよということになり、導入条件を異にする23 章の事象手順書を策定した意味がなくなります>。
 では、東電が事故後から一貫して「地震手順書」に言及せず(残念ながら各種事故調報告でも言及・指摘なし)、新潟県でも頑なにその存在を“ひた隠し”にしているのは、なぜでしょうか。
 1号機(BWR3:非常用復水器IC設置)には、2・3号機(BWR4)のような「残留熱除去系RHR」や「隔離時冷却系RCIC」はありません。ところが1号機地震手順書には、「原子炉の崩壊熱は…RHR S/P冷却モードにて除去する」とか、RCICの「手動停止」や「再起動」などの手順=“誤記載”がありました。その原因は、1号機手順書は「2010.2.11:103次改訂」の新規作成で、一方、2号機は「2010.1.23」、3号機は「2010.3.18」の作成で、従って「2→1→3」の順に地震手順書が新規作成され、1号機では2号機手順書を“コピペ”し修正しようとしたものの、時間や修正者の知識が不十分で、“誤記載”が見逃されたものと思われます。
 加えて、1号機では2010.3.25から10.15まで第26回定検が実施されており、そこで2.11に作成したばかりの地震手順書を運転員へお披露目し、「ステップ毎にチェックしながら操作を実施する」<事象手順書「Ⅰ総則」>という教育訓練がなされていれば、1号機運転員の誰かは“誤記載”に気付き、正しく修正されたはずです。
 つまり、上記“誤記載”は、少なくとも1号機では、2011.3.11前に運転員・地震手順書(他の手順書も?)の教育訓練が全くなされていなかったことの重要証拠であり、そのような「教育訓練不足」が3.11地震直後の不適切な運転操作の原因となり<*地震後には、自動起動したICによる炉心冷却・崩壊熱除去を手動で停止したり、津波後には、IC作動の有無を目や耳で容易に確認できる『ブタの鼻』からの蒸気噴出を速やかに確認しなかったり>、最終的には早期の炉心溶融・水素爆発(2・3号機の事故悪化にも影響)を招来したことが明らかとならないよう(=「人災」の責任を追及されないよう)、東電は、その証拠となる“誤記載”が放置された1号機地震手順書を、未だに隠し続けているのです。

 このように、3.11事故については特に運転管理面の検証・東電の責任追及が十分になされておらず<*保安規定では、スクラム時に「運転上の制限は適用されない」と明記されていたのに、1号機ではスクラム後に自動起動したICを「温度降下率遵守」(ワンパターン訓練通り)を理由に手動停止し、炉心冷却・崩壊熱除去を早期に中断したため、津波後の早期炉心溶融やその後の水素爆発、2・3号機の事故悪化を招いた(ICの作動継続でそれら全てが回避できた可能性あり)。この操作・判断の妥当性検証が全くなされていない!>、手順書の導入条件・適用の当否や教育訓練の実態検証もなされないままで、女川2やKKなどのBWR原発再稼動など時期尚早です。
 <2023.2.18了 仙台原子力問題研究グループI>