-最近の気になる動き93の4- ≪追記:女川原発「硫化水素」問題と、規制庁交渉≫

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-最近の気になる動き93の4-
≪追記:女川原発「硫化水素」問題と、規制庁交渉≫

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≪追記:女川原発「硫化水素」問題と、規制庁交渉≫
女川原発7.12硫化水素労災事故について、まず、前号「気になる動き93-1~3」以降公表された関連資料2つについて、若干コメントします。

まず、8.23「女川町議会原発対策委員会ご説明用資料」で、東北電力は初めて(ようやく?)硫化水素の発生メカニズムを説明し、「93-1」で述べた硫酸還元菌(嫌気性)による生物学的な毒ガス発生の危険性を従前から認識しており、その抑制(嫌気状態の打破)のため定期的(93-2のとおり「週1回程度(7.12事故発生から推測すると毎週月曜?)」と具体的に説明すべきでは?)に空気注入・撹拌作業を行なっていたことを認めています。にもかかわらず今回だけ事故が起きたわけですから、「本事象の発生以前に実施していた空気撹拌作業との相違点の確認や事象発生メカニズム等について詳細な調査を進めている」のは当然で、労基署の報告とともに、「93-2」で指摘した様々な問題点の調査結果が明らかにされることを期待します。

 次に、9.10東北電力情報・2021年8月分定期報告は、「93-2」引用の7月分定期報告の「経路図」は再掲されず、文書だけの説明(ただし、上記硫化水素の生物学的発生の説明はなし)でした。新規内容は、「現在、当該タンク内では硫化水素が継続して発生・蓄積している状況であることから、8月31日より、当該タンクから制御建屋に繋がる配管の隔離や立入制限、硫化水素濃度の測定等の安全対策を徹底した上で、タンク内に少量ずつ空気を注入しながら、換気空調系を通じて硫化水素を排出する硫化水素低減作業を行っております」との部分でした。
すると、現在「配管の隔離」(=『毒ガス経路』の遮断)を行なっているのであれば、2号機制御建屋で新たに発生する手洗い・洗濯廃水をどうしているのかが気になります(まさか手洗い等の禁止はできないでしょうから、仮設貯留タンク等に一時貯蔵?)。でも、ランドリドレン処理が液体廃棄物処理の一つとして「原子炉設置(変更)許可」の対象となっているのは、廃水中に放射能(核燃料物質によって汚染された物)が含まれる可能性があるためで、それを仮設タンク等に勝手に貯蔵してもいいのでしょうか(福島第一原発の汚染水貯蔵のように、規制委が正式容認?)。
なお、「93-2」で指摘したように、当該タンクは(2号機制御建屋だけでなく)“もともと”の1号機制御建屋にも通じており、労災再発防止策を「水平展開」すべきなのは当然なのに、東北電力が1号機「制御建屋」での「硫化水素濃度の測定等の安全対策実施」についてこの間一切説明していないのは不思議です。それに触れると、再発防止策として打ち出した「1号機廃棄物処理建屋の一部の施錠管理・立入制限」が『労災防止』の観点からは“的外れ”で、本当は2号機制御建屋・運転員用の『応急テロ対策』であることがバレるからではないでしょうか【関連記載後出】。
付言すれば、現在行なわれている(従前も行なっていた?)「換気空調系を通じて硫化水素を排出する硫化水素低減作業」についても、単なる排気筒からの希釈放出(たれ流し)ではなく、アルカリ溶液吸着等による放出低減・無害化処理を行なっているのでしょうか(換気空調系の活性炭フィルタに吸着させるのなら、肝心の放射性ヨウ素等の吸着能力に悪影響を与える可能性はないのでしょうか?)。

 さて、「9.15規制庁交渉」の様子は前号の巻頭文で報告されていますが、その録音を聴くと、さすが“国のお役人”という発言・姿勢が随所にみられました。
「共用問題」については、ランドリドレン処理系の配管封鎖・撤去および2号機での設備新設(設置変更許可申請)でなく(ハード)、保安規定で逆流させないような手順(ソフト)にすることも事業者の対応としてはあり得る(自由)として、国は、事業者の講じる対策で安全性が確保できるかどうかを判断するだけとし、また、「毒ガス・硫化水素」についても、国は、事業者の申請内容がガイドに適合しているかどうか(硫化水素を考慮するかしないかも自由。考慮しないならその理由が適正かどうか)を判断するだけというもので、これらは福島原発事故の被害者・避難者訴訟での国の責任論主張と同質の、ある意味“上から目線”のものでしかありません。
 加えて、原発の安全性は「止める・冷やす・閉じ込める」なので、今回の労災事故は安全上の問題とは(ましてや「テロ問題」とは!)無関係、というようなニュアンス・認識でした。でも、今回は協力企業作業員7名の被災でしたが、時間帯によっては原発運転員(交代当直員)が被災(場合によっては死亡)したり、重大事故と重畳すれば事故対応要員の制御建屋への緊急出入りが不能(=事故対応遅れ)となった可能性もあります。また、硫化水素は空気より重い(比重大)ため今回は制御建屋2階から1階へ流下しましたが、比重の小さな(高温の)有毒ガスは1・2階排水口から4階中央制御室にまで上昇到達することも想定されることから、「共用」解消(配管の封鎖・撤去=毒ガス経路の遮断)という『恒久テロ対策』が必要なことは明らかです(保安規定や操作手順による安全上の諸対策は、テロには無力・無意味です)。
 また、上記のとおり、「毒ガスガイド」は個々の有毒ガスの種類や発生源などを限定しておらず(抽象的定義で全物質を包絡)、国はあくまでも事業者が要求(安全性の確保)を満たしているかを審査するだけとしていますが、それでは不十分です。
実際、2020.5.13許可の柏崎刈羽6・7(有毒ガス防護)審査書では、「申請者(*東電のこと)は、影響評価ガイドを参照し、敷地内外において貯蔵施設に保管されている、有毒ガスを発生させるおそれのある有毒化学物質(以下「固定源」という。)及び敷地内において輸送手段の輸送容器に保管されている、有毒ガスを発生させるおそれのある有毒化学物質(以下「可動源」という。)それぞれに対して、有毒ガスが発生した場合の影響評価を実施した結果、有毒ガスの影響により、運転・対処要員の対処能力が著しく低下し、安全施設の安全機能が損なわれることがない設計とするとしている。また、予期せぬ有毒ガスの発生に対して、有毒ガス防護に係る手順等を整備する方針としている。」<審査書5頁:下線筆者>と認定しましたが、申請者たる東電は、2019.12.5資料1-2-2「表1 各情報源から抽出された有毒化学物質の調査結果(例)」<資料76枚目>に「硫化水素」を含めていたものの、「ガイド3.1のとおり、敷地内に保管、搬送される全ての有毒化学物質を調査対象とする必要がある」<資料79枚目:同>としながらも、逆にガイドを参照することで、それ自体を単体で「敷地内に保管、搬送」するはずはなく、有毒でない化学物質(洗濯廃液)から“生物学的に(嫌気状態では確実に!)発生”する「硫化水素」を調査対象から除外し、同じく、今回の女川事故で明らかになったように、硫化水素の継続的発生源たるランドリドレン貯蔵タンク(KK6・7にもあるはず! まさか共用?)を「固定源」から除外したのです。そして、そのような“抜け落ち”があるにもかかわらず、「規制委員会は、本申請の内容を確認した結果、設置許可基準規則及び重大事故等防止技術的能力基準に適合するものと判断した」<審査書6頁>のです。【だからこそ東北電力は、そのような同業者や規制委に配慮・忖度して、同一の号機(1号機)廃棄物処理建屋・ランドリドレン貯蔵タンクからの(接続配管を封鎖・撤去するわけにはいかない!)同一の号機(1号機)制御建屋への硫化水素の逆流可能性について、一切言及していないのかもしれません。】
このように、現状の毒ガスガイドは、そもそも(生物学的に発生する)硫化水素や(固定源たる)ランドリドレン貯留タンクを調査対象外=想定外とすることを容認するものでしかなく、そのようなガイドに準じた「事業者の申請」も「規制委の審査」も(今後予定の女川2も、全国の原発についても)不十分であることは明らかです。
 <2021.9.25記 仙台原子力問題研究グループI>