6月3日、みやぎ脱原発・風の会として、宮城県と東北電力に以下の内容で申入れ(要望書・申入書+公開質問)を行いました。
<法の求める「検出・警報装置の設置」なしでの女川原発2号機再稼動に反対すべきであり、
東北電力が約した「有毒ガス防護・再発防止策」の“完全実施”を求めるべきです>
2024.6.3.宮城県への要望書&公開質問
2024.6.3.東北電力への申入れ書&公開質問
資料1
7月10日までに回答を求めています
以下、宮城県への要望書です
2024年6月3日
宮城県知事 村井嘉浩 殿
要 望 書
法の求める「検出・警報装置の設置」なしでの女川原発2号機再稼動に反対すべきであり、
東北電力が約した「有毒ガス防護・再発防止策」の“完全実施”を求めるべきです
みやぎ脱原発・風の会
5月27日、東北電力は女川原子力発電所2号機における安全対策工事が完了したと発表し、「今後は、2024年9月頃を想定している再稼働に向けて、「燃料装荷」や「原子炉起動」に係る各種試験・検査、作業などを進めていくこととしております」としています。しかし、私たちはこのまま再稼働へ進むことに重大な危惧をもっています。
再稼働にあたっては、能登半島地震の教訓がどのように生かされているのかなど様々な問題がありますが、この要望書では、女川原発2号機の「有毒ガス防護」は、現状では『設置許可基準規則』26条・34条の求める「検出・警報装置の設置」なしという違法状態にあるということを問題にしております。
女川原子力発電所で2021年7月12日発生した硫化水素流出労災事故(以下「7.12事故」と言います)について、これまで東北電力が行なってきた事故の経緯・原因・発生メカニズムに関する説明には数多くの虚偽があり、また事故後に講じると約した再発防止策は未だ完全に実施されておらず、そのため硫化水素の放出源となった沈降分離槽からは未だに硫化水素が発生し続けているものと思われます(これらの点は、同時提出の「公開質問状」(東北電力にも提出)で質問・指摘しており、回答や、正確な回答作成の過程で、事実確認されるものと思われます)。
また、東北電力は、既に審査合格した女川原発2号機の「有毒ガス防護申請」(バックフィット)においても、原子力規制委員会に対し、7.12事故の原因や再発防止策について虚偽の説明を行ない、事故の教訓を曖昧にすることで、規制委が全面的に依拠する『有毒ガス防護に係る影響評価ガイド』の不十分性が明らかにならないようにしています。
そして、東北電力は、申請時点でも現時点でも、沈降分離槽から硫化水素が発生し続けている事実を徹底的に隠ぺいし、『同ガイド』の不十分性に藉口して「沈降分離槽は硫化水素の放出源(固定源)ではない」との詭弁を弄し、申請に必要不可欠な硫化水素のスクリーニング評価(対象発生源の特定)・影響評価(濃度評価)などの安全確認を一切行なうことなく、法の求める「検出・警報装置の設置」(設置許可基準規則26条、34条)をしないまま、女川原発2号機を再稼動させようとしています。
さらに、東北電力は、沈降分離槽から発生する硫化水素は換気空調系で全量排気するから(女川2「有毒ガス防護」にとって)問題なしと思考停止していますが、環境中に全量無処理放出された硫化水素は、原発敷地内に留まらず敷地外に到達して周辺住民等に危険を及ぼす可能性があることは明らかです。
以上を踏まえ、次のとおり要望し、質問いたします。
1 沈降分離槽での硫化水素発生に備えるため、「検出・警報装置」の設置を東北電力に求め、装置が設置されるまで、女川2再稼動を認めないでください。
2 全量無処理放出される硫化水素の拡散計算を東北電力に求めるか宮城県が独自に行ない、敷地境界付近の安全性が確認されるまで、女川2再稼動を認めないでください。
3 7.12事故の原因が「スラッジからの硫化水素の多量放出」ではなく単なる空気注入速度と排気速度の設定ミスではなかったのか、東北電力に確認して公表してください。
4 7.12事故の再発防止策の現時点での実施状況および現時点での沈降分離槽での硫化水素発生の有無について、東北電力に確認して公表してください。
公開質問状
東北電力・女川原発2号機の「有毒ガス防護」および2021年7月12日発生の硫化水素流出労災事故について、東北電力が宮城県に提供した資料等に基づき質問いたします。
現時点で不明・曖昧な点については改めて東北電力に事実確認するなどした上で、宮城県が把握している情報や見解を整理してご回答ください。
なお、4-④を除く質問については、東北電力にも同様の質問を行なっていることを付言いたします。
1 事故当日の対応について
① 資料1「添付-2 主な時系列」にある「14:30」の異臭連絡、すなわち東北電力が事故の発生を認識するより早く、資料2記載の沈降分離槽付近等で硫化水素の濃度測定が「14:20」に実施されていますが、その目的・理由を明らかにしてください。これは、以前にも漏洩・流出があり、作業時の安全確認のため、事故当日にも実施したものではありませんか。
② 「14:20」の「ランドリ系沈降分離槽」および「ランドリドレンタンク」設置区画の「50ppm」や、それらに隣接する区画の「5ppm」という硫化水素濃度は、資料3のとおり健康被害をもたらしかねない「有害濃度」ですが、東北電力はいつ頃どこから流出・漏洩したと説明しているのですか。また、有害濃度検出直後になされた対応・安全確保対策(14:30以降の労災事故対応とは別に)についても明らかにしてください。
③ 2号機制御建屋の1・2階階段付近の濃度測定は「16:00頃」になされ、しかも「50ppm」という測定結果(有害濃度)だったにもかかわらず、資料1「添付-2 主な時系列」のとおり、19:44以前には立入禁止・退避などの注意喚起は行なわれず、換気開始は19:44と極めて対応が遅かった理由について、東北電力はどのように説明しているのか明らかにしてください。
2 事故の真の原因について
① 東北電力は、資料1等のあらゆる公表資料において、「排気し切れなかった」理由として「硫化水素が多量に放出されたため」と説明しています。その一方で、資料4(令和3年11月15日)の「想定硫化水素発生量」の問いに対し、「量は不明」と大まかな想定量さえ回答できていません。
にもかかわらず、令和3年11月5日付の資料1等で「多量に放出」という半定量的主張・説明を行なっている(規制委員会の有毒ガス防護審査おいても同じ説明を繰り返している)のは、明らかに矛盾しているのではないでしょうか。
② その後東北電力は、最終的にどの程度の量(㎥または㎥/h:概算で結構です)の硫化水素が事故時に放出されたと説明していますか。あるいは、未だに硫化水素放出量の推計ができていないのでしょうか。それとも、事故後も現在も、そもそも放出量を定量的に推計しようとする意思がないのでしょうか。そして、東北電力が、現在も大まかな放出量さえ推計していないのなら、資料1等での「多量に放出」という事故原因の説明を撤回しないのは不適切なのではないでしょうか。
③ 資料4によれば、通常時の空気注入速度は「434㎥/h」で、資料1の2頁記載のとおり、通常時の空気注入圧力(供給圧力)は「0.7kg/cm2」、事故当日はその2倍の「1.4kg/cm2」とのことから、事故当日の空気注入速度は「868㎥/h」だったことが分かります。一方、同じく資料4より、通常時の換気空調系の排気可能速度は「700㎥/h」で、事故当日もそのままだったようです。
そうであれば、発生・放出硫化水素量の大小にかかわらず、そもそも注入空気自体を「排気し切れない」(排気し切れない分は他所へ流出する)のは当たり前だったのではないでしょうか。すなわち、事故の真の原因は、空気注入量(速度)を安易に2倍にした一方、排気可能量(速度)はそのままにした“単純ミス”だったことは明らかではありませんか。
④ 資料1添付-3「体調不良者の状況一覧」で、作業員7名が「異臭により体調不良」となり、全員が「硫化水素による中毒症状」と診断されていることと、資料3記載の硫化水素の濃度・症状等に照らし合わせれば、事故時の作業員7名の硫化水素吸引≒流出濃度は「5~700ppm」であり、全員が「生命の危険」には至らなかったことからすれば「350ppm」以下であったことが容易に推察されます。
東北電力は、上記①のとおり想定発生量について「量は不明」としていますが、事故時の硫化水素濃度として最大「350ppm」を仮定すれば、空気注入速度「868㎥/h」での30分間の注入空気量「434㎥」に対し、単純計算で、スラッジから発生・放出された硫化水素量は最大「0.1519㎥=151.9L(リットル)」と簡単に推定できるのではないでしょうか。この推計に誤りがあればご指摘ください。
⑤ 上記④の最大「0.1519㎥」の硫化水素量は、上記④の事故時の空気注入量「434㎥」と比較して、「多量」と言えるのでしょうか。同じく、事故時の排気可能速度700㎥/hでの30分間排気可能量「350㎥」と比較しても、換気空調系で「排気し切れない」ほどの「多量」と言えるのでしょうか。
⑥ 上記③で示した“単純ミス”による空気注入量(速度)と排気可能量(速度)とのアンバランスや、上記④の単純計算を踏まえれば、東北電力の資料1等での「硫化水素が多量に放出されたため、排気し切れず、2号機に流出した」という事故原因の説明は、完全に誤っているのではないですか。
3 事故後の再発防止策(資料1の5頁および添付-6記載)について
① 「空気撹拌作業の頻度」について、現在はどのように変更・改善されたのか、具体的に明らかにしてください。また、東北電力が、現在の作業頻度の改善効果を証する資料として提示したはずの、事故前と現在の「空気撹拌作業実施前・後の硫化水素濃度の測定結果」も、併せて明らかにしてください。それ以外の証拠資料に基づき作業頻度の改善がなされたのであれば、その証拠資料を明らかにしてください。
② 「スラッジの定期的(年1回以上)な排出などにより」、事故時の貯蔵量74m3から当面の目標値である「50m3以下(貯蔵可能容量の約66%)以下に維持する」ことが約されていますが、現時点までの排出実績(排出期日と排出量)および現在の貯蔵量ならびに目標値達成見込み時期について、それぞれ明らかにしてください。また、管理状況を踏まえて目標値の「貯蔵量50m3」が見直されているのであれば、現在いくらに変更されているのか、見直しの根拠となった管理状況と併せて明らかにしてください。さらに、スラッジ排出・貯蔵量減少に伴い、東北電力の予想通りに発生硫化水素量が減少していることを証する「撹拌作業実施前の硫化水素濃度」などの証拠資料を明らかにしてください。
③ 「空気撹拌作業時」に「廃棄物処理建屋換気空調系の排気量を増やす」ことが約されていますが、従前の排気可能速度「700㎥/h」に対して、現在はいくらに増やされているのか、明らかにしてください。また、事故後、空気注入圧力(供給圧力)を増加させることは禁じられているのか、禁じられていない場合は増加時に排気可能速度をどの程度増加させるのか具体的に規定されているのか、明らかにしてください。さらに、中長期対策の「各タンクにおける排気量のさらなる増加等の設備対策」が現在どのように実施されているのか、明らかにしてください。
4 換気空調系・排気筒からの硫化水素全量無処理放出について
① 沈降分離槽や他のタンクからの硫化水素(上記2-④を考慮すれば最大「350ppm」)は、再発防止策によって換気空調系で全量排気することが約されており、資料5によれば、気体廃棄物の「建物の換気をした空気など」として、最終的に1号機排気筒から放出されます。一方、資料6のとおり、女川2で「有毒ガス防護判断基準値が最も小さい」のが「アンモニア」で、その基準値は「300ppm」です。一方、資料7のとおり、東海第二原発での「硫化水素」の基準値は「5ppm」で、アンモニアより60倍も毒性が強いことが分かります。
このように低濃度でも危険な硫化水素を、1号機排気筒から環境中に放出することに問題はないのでしょうか。換気空調系から排気筒に至る途中に、硫化水素を中和吸収(無害化)する設備等は設けられているのでしょうか。放出の際、硫化水素濃度は測定されているのでしょうか。
② 放出された硫化水素は、敷地内の2号機中央制御室「外気取入口」や、「敷地外」にまで到達すると考えられますが、東北電力は、各到達時にいずれも「5ppm」未満(無害濃度)となることを拡散計算等で安全確認しているのでしょうか。確認している場合は、それぞれの計算結果を明らかにしてください。
③ 上記②で、2号機中央制御室「外気取入口」に到達する段階での硫化水素に対する安全確認がなされていないのであれば、東北電力には、『設置許可基準規則』26条および34条に基づき、『有毒ガス防護に係る影響評価ガイド』(6.1.2.1項)の「有毒ガス防護」の基本的「対応」に準じて、「敷地内の対象発生源」たる沈降分離槽近傍や1号機排気筒周辺や、2号機中央制御室等の換気空調設備等に、法的要求である硫化水素の「検出装置」を、そして2号機中央制御室等には「警報装置」を設置することが求められているのではありませんか。
ちなみに、第158回女川原子力発電所環境保全監視協議会(令和3年11月26日)において、東北電力は「硫化水素を測る装置も今は固定ではありませんが、今後固定のものを設置し、硫化水素があったらすぐに分かるような物理的対策もやっていきたい」と回答していますが<議事録34頁>、そこで約された測定装置を「固定のもの」にする対策は、既に講じられているのでしょうか。それはいつ頃実施されたのでしょうか。そのような固定の測定装置は、上記の法的要求である硫化水素の「検出装置」とどこが異なるのでしょうか。さらに、2号機中央制御室に新たに警報装置を設置し、固定の測定装置(検出装置)の信号を同警報装置に伝達することは、容易に実施できるのではないでしょうか。
④ 上記②で、「敷地外」に到達する段階での硫化水素に対する安全確認がなされていないのであれば、東北電力から作業時・排気筒放出時の硫化水素濃度・量・放出時間などの必要データを入手し、宮城県独自に拡散計算などを行ない(入手データや計算結果を公表するかどうかは別として)、住民の安全を確認する責務があるのではありませんか。
以 上
※ 7月10日までに、文書でメールもしくは郵送で回答願います。