≪短信:7.12硫化水素流出事故の情報公開顛末記 その4≫

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≪短信:7.12硫化水素流出事故の情報公開顛末記 その4≫

(下記はテキストのみ 上記PDFに図表もありますので、ご覧下さい)

☆炉規法報告を規制委は「取得していない」ことが確定
前号『鳴り砂』「顛末記その3」で言及した炉規法第62条の3に基づく2021.7.12事故の報告(炉規法報告)について、3.14開示請求に対する5.15全部開示(女川2有毒ガス防護審査に係る東北電力提出文書を全て開示、炉規法報告が含まれていないことには触れず=隠ぺい)を受け、改めて「炉規法第62条の3に基づく報告(のみ)」を6.30付で請求しました。結果は、予想どおり7.30付「不開示決定」で、その決定理由から請求文書=炉規法報告を規制委は「取得していない」(東北電力は行なっていない)ことが確定しました。これは、法の趣旨に照らし、非常に由々しき問題です。
他方、6.14付請求の女川2有毒ガス防護審査に係る規制委作成の17文書は7.16全部開示(追加430円)され、5.15開示文書(東北電力提出25文書)と併せて、審査の全体像・時系列がつかめました。その結果、規制委は(審査の性質上?)、東北電力提出資料を‘鵜呑み’にした上で、細部の表現修正・補完(校正レベル)を助言するだけで、肝心の「原因究明と再発防止策の妥当性」を“定量的・科学的に審査”することは一切していませんでした。 <審査実態の解明は、次号「その5」で。>
☆「炉規法報告なし」の根拠は『解釈』例外規定
一方、上記開示請求と並行して、7.19に、7.12事故報告が炉規法第62条の3や実用炉規則第134条第14号に該当しない理由・見解を問うメール質問を規制委に行なったところ、8.5付メール(8.7確認)で、「実用炉規則第134条に基づく報告の解釈に鑑みても、当該報告を求める状況でなかった」との回答がなされました。
ここで、上記回答中の『解釈』とは、<8.5メール添付資料1【次頁に表題】>の『原子力規制委員会決定』のことで、回答の趣旨は、7.12事故は実用炉規則第134条の第14号【資料1】のいずれかの例外規定に該当する、ということのようです。
具体的には、同資料2.①の「発電用原子炉施設に関し」の解釈にある、「(参考)発電用原子炉施設内において発生した事象であっても、点検・工事等のための作業用機器や仮設機器・設備等が原因で障害が発生した場合…は、本号の対象とはならない」(下線筆者:以下同じ)に該当すると判断されたのか、あるいは、入院者2名<*>は「治療のため」でなく、③「入院治療」の「検査のための入院」に該当すると判断された可能性もあります。
<*なお、筆者は入院者3名と思っていましたが、「2021.11.5自治体向け報告書」添付-3を改めて見直したら、7月12~13日に1名、13~15日に1名でした。>
☆『解釈』例外規定の策定は“後付け”?
また、資料1冒頭部をよくよく見たら、当該『解釈』は、なんと「令和7年5月28日改正・決定」【資料1:赤囲み】だったことを“発見”しました(最初は「平成7年」だと思い、見逃しましたが…)。つまり、筆者が最初に開示請求した今年3月14日後の改正・決定(施行は令和7年6月6日)だったのです!
炉規法報告の徴収は「罰則付き」のため、筆者の開示請求を受けての“緊急対応・後付け”の可能性が疑われたため、翌8.8に決定経緯についてメール質問しました。また、上記「第14号2」の例外規定①・③のどちらに該当するのか確認するため、8.9にも追加質問しました。<いずれも9.15現在回答未了>
その後、『解釈』決定経緯について規制委HPを自力調査したところ、令和2年11月11日から「法令報告の改善」が検討され(10回前後)、大半の施設・事業は令和6年4月24日決定、実用炉は遅れて令和7年5月28日決定となったようで、筆者懸念の“後付け”ではないようでした。8.8メールでの疑念、失礼しました。
☆「炉規法報告」は「原因究明及び再発防止策の検討」のため
さて、そもそも炉規法で‘人身事故報告が(しかも罰則付きで)義務付けられている趣旨’は、第14号『解釈』の「1.目的 発電用原子炉施設が原因で人の障害が発生した場合は、その原因究明及び再発防止対策の検討を行う必要があることから、報告を求めるものである」との記載のとおり、事業者・規制委の双方で「原因究明及び再発防止対策の検討」を厳正に行ない、‘原発の安全性確保・更なる向上に資するため’だと思われます(それを規制委が否定するなら、もはや議論になりませんが)。
そのように重要な炉規法報告を‘徴収不要’と判断した理由として、規制庁は前記『解釈』「第14号2」の例外規定①・③への該当性を示唆していますので<8.9メールに回答があれば次号で報告>、以下、それぞれ検討してみます。
☆7.12事故(作業手順ミス)は『解釈』例外規定①に該当せず!
まず、例外規定①「点検・工事等のための作業用機器や仮設機器・設備等が原因で障害が発生した場合」に関しては、8.5メール添付<資料2:筆者は入手済み=『鳴り砂№296気になる動き96-1』で批判済み>の規制委R4.2.16『令和3年度第3四半期 原子力規制検査報告書』において、7.12事故は「原子炉施設である廃棄物処理設備の運転により硫化水素を系外に放出させ、さらには作業員を被災させた」もので、「保安規定第3条7.1(…)に定める「組織は策定した個別業務計画を、その個別業務の作業方法に適したものにする」を満足していない」と述べ、筆者なりに翻訳・解釈すれば、個別業務たる「廃棄物処理設備の運転」=「週一度の定期曝気作業」の作業計画の不適切さが原因と結論付けており、従って、例外規定①に該当する「点検・工事等」に係る設備等が原因で生じたものではないことが認定されています。
具体的には、硫化水素流出(1号機沈降分離槽から隔離弁経由の2号機への逆流)は、「曝気用ポンプの誤作動(送気量の急増)」や「隔離弁の故障(不完全閉や突然開)」や「排気設備の故障(排気量の急減・配管の目詰まり)」などの「機器・設備等の予期せぬ故障等が原因」で生じたのではなく、曝気用ポンプを「2倍の送気量」に設定する一方で、排気設備の排気量は従前通りのままで、隔離弁も従前通り「開」状態のままという、“当日の作業計画通り” に個別業務を行なった結果なので、例外規定①に該当しないことは明らかです。
さらに言えば、設計時に想定された“健全な”廃棄物処理施設(沈降分離槽)においては硫化水素発生・流出の危険性は一切なかったはずですが、2018年6月以降<資料2>、同施設(同槽)で硫化水素が発生・蓄積するという、設計時には想定されなかった“不健全な状態(=故障・経年劣化)”が放置<*>されていたからこそ、7.12事故は生じたので、むしろ、第14号2.①の「発電用原子炉施設に関し」の“正当・常識的な解釈”である「発電用原子炉施設の故障など発電用原子炉施設が障害の直接の原因となった場合」に該当し、報告徴収対象であることは明らかです。
<*原発の経年劣化防止の安全思想が“建設当初と同レベル(新品同様)の施設・機器等の健全性の維持・確保”にあることに鑑みれば、硫化水素発生を認識した時点で、硫酸塩還元細菌の棲みついたスラッジを完全に排出するか、連続曝気などでスラッジの好気的環境を回復・維持する必要があったはずです。ところが、東北電力は、硫化水素発生の“完全抑止”(=健全性回復)をせず、週一度30分程度<資料2にも記載あり>の間欠曝気による“一時的抑制=その場凌ぎ”で硫化水素発生(=故障・経年劣化)を“放置・常態化”させていたため、そのような危機意識・安全思想の欠如が7.12事故をもたらしたのです。>
☆7.12事故(入院者2名)は『解釈』例外規定③に該当せず!
次に、例外規定③「入院治療」について検証すると、事故2日後の2021.7.14の規制委会議で、更田委員長(当時)が事故について質問し、規制庁が「1名入院中」と答えていますので<議事録p.39>、遅くとも同日までに東北電力が入院者発生を“何らかの形”<*>で報告していたはずで、すると、その報告・入院者認識の時点で、炉規法報告が必要、と判断すべきだったことは明らかです。ちなみに、入院者2名とも「経過観察のため」石巻赤十字病院に入院し、その後無事に退院・職場復帰していますが<2021.11.5報告書>、前記の通り2名の入院期間が異なっていたため(7月12~13日と13~15日)、「1名入院中」との規制庁報告になったのかもしれません。
さて、ネット情報によれば、硫化水素吸入に対する一般的な治療法は「酸素投与」とされており、さらに「症状のある患者はすべて入院させ、平均48時間程度は経過観察する」とされています
(https://www.pref.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/002/956/shousaiban.pdf:2頁)。
すると、2名の「経過観察のための入院」中、治療行為の「酸素投与」(テレビドラマとかでよく見る酸素マスクを口元につけた状態で)を全くされないで‘ただベッドに寝かされていた’などということがあり得るのでしょうか。また、「治療」成果確認のために退院前に「検査」されると思われますが、だからと言ってそれを例外規定③の「検査のための入院」と解することはできないと思います(この点は医療関係者・専門家のコメントをいただければ幸いです)。
<*“何らかの形”でなされた両者間のやりとり(報告・連絡・相談)の実態解明のため(炉規法報告の要否も相談・助言?)、事故直後からの電話・ファックス・電子メールその他一切の記録について、9.1に開示請求しました(1件目)。>
☆東北電力と規制委の思惑一致?“なしなし尽し”で早期審査合格
以上のとおり、7.12事故は、『解釈』例外規定①・③のいずれにも該当しないことは明らかです。ではなぜ、東北電力と規制委は、法の規定・趣旨に反してまで、「炉規法報告なし」=「検討なし」で‘済ませることにした’のでしょうか。
それは、女川2早期再稼動を目指す東北電力と、原発推進にカジを切った政府の意向を踏まえた(忖度した)規制委との間で、7.12事故前から既に準備がなされていた有毒ガス防護(2021.12.16申請)の「早期合格スケジュール」に対して、申請予定の5ヶ月前という“最悪のタイミング”で発生した7.12事故が悪影響を与えないよう、“互いの思惑が一致(暗黙の了解)”したからなのではないでしょうか。

<以下は『鳴り砂』で何度も指摘していますので、「読み飛ばし可」です。>
その結果、東北電力は、さすがに7.12事故について申請時に「報告なし」では済まされない(=規制委も“お目こぼし”し切れない)と考え、審査資料(O2-G-003)「女川原子力発電所2号炉 中央制御室,緊急時対策所及び重大事故等対処上特に重要な操作を行う地点の有毒ガス防護について」で既に準備していた「別紙1~10」に追加する形で、急遽「別紙11 1号炉廃棄物処理建屋から2号炉制御建屋への硫化水素の流出事象について」を作成・提出したものと思われます。
しかしながら、「別紙11」には、申請まで5ヶ月という“タイムリミット”のため「原因究明・再発防止策」を十分に検討する時間もなかったことに加え(実際には申請約1ヶ月前の11.5に最終報告完成)、そもそも東北電力には定量的・科学的解析の“知識・能力・意思”もなかったため、非定量的な「多量・少量」という言葉頼みの「原因もどき(机上の空論に過ぎない『東北電力・電中研理論』に基づく原因)」および「再発防止策もどき(有効性・履行性の証明もない一時凌ぎの対策)」しか記載されていないのです。それでも、規制委に“添削指導”を受ければ、最終的に合格させてもらえると考え提出し、実際にその通りとなりました。
そして、東北電力が申請時に“100%依拠”した『有毒ガス防護に係る影響評価ガイド』(毒ガスガイド)は、そもそも「規制要求」ではないのに<2021.6.16「審査ガイドの位置付け」>、同ガイドの不十分さ・欠陥を最大限活用して、沈降分離槽は「硫化水素の保管・貯蔵設備」ではないから「同ガイド規定の固定源には当たらない」(対象発生源は敷地内に存在しない)との詭弁を弄し、また、沈降分離槽内の硫化水素は「再発防止策もどき」により同ガイド例外規定にある「少量」になるはず(理論的裏付けも実証もなく!)だから「調査対象外」だと言い張り、さらに、「対象発生源なし・調査対象外」だから槽内硫化水素の「安全評価は不要」だと主張し、最終的に「判断基準値」を超える「対象発生源はなかった」から(安全評価していないので当然!)、設置許可基準規則の求める「硫化水素の検出・警報装置の設置」は“必要ない”との結論を、詭弁に詭弁を重ねて導いたのです。それにより、装置新設の際に必要な設置許可・工事計画認可等の申請(や地元自治体からの同意手続き)をすることもなく、当初スケジュール通りの“早期合格(2022.6.1)”を得たのです。
一方、規制委も、東北電力スケジュールに合わせるかのように「炉規法報告なし」を容認し(未だに「規制の虜」)、「審査に当たっては、審査ガイドの内容に囚われることなく、審査官自らの科学的、技術的、合理的な判断に基づくことが重要」<同「審査ガイドの位置付け」>と明記されているにもかかわらず、東北電力の非定量的・非科学的な「別紙11」の「原因もどき・再発防止策もどき」を鵜呑みにし(規制委・規制庁も「科学的、技術的、合理的な判断」をするための“知識・能力・意思”なし)、沈降分離槽内では未だに硫化水素が発生し続けている(曝気作業時には環境中に無処理放出されている)事実に目を向けず、毒ガスガイドに藉口した「固定源なし・対象発生源なし・安全評価なし・硫化水素の検出・警報装置の設置なし」という東北電力の詭弁・エセ論理に一切異を唱えず、その一方で、硫化水素防護の本質からかけ離れた細部を繰り返し“添削指導”し(計9回)、申請から半年で合格を与えたのです。
しかも(『鳴り砂№297 気になる動き96-5』でも言及、一部発言再掲)、審査書案について、規制庁天野氏が「事務局としては、本申請については多くの審査実績があることから、意見募集は不要と考えております」<2022.4.27規制委第7回議事録:p.11>と説明し、主査の山中委員(現委員長)も「女川原子力発電所2号炉は、特異な事象があるというわけではございません。」<同:p.11>と軽々に同調し、それを受けて更田委員長(当時)が「…科学的・技術的意見の募集ですけれども、これは特段変わったものがないから必要はないだろうということでよろしいでしょうか。」<同:pp.12-13>と述べ、最終的に「パブコメなし」が了承され(筆者にとっては“肩透かし・口封じ”のショック!)、最初から最後まで“なしなし尽くし”の審査でした。
☆オマケ:規制検査「確認資料」の開示請求は失敗。でも…。
なお、更なる真相究明のため、前述「規制検査」での「確認資料」【資料2:次頁】について、一部は商業秘密(内部資料)として「非開示(部分開示)」になることを覚悟して“ダメもと”で開示請求を行なってみました(8.21)。すると、担当者から、確認資料は検査後に事業者に全て返却して保有していないため「不存在」、との連絡がありました(8.25メール)。それが本当なら“またまた諦める”しかありませんが、確認のため、返却を規定した「内規」<*>等の教示を8.26返信メールで求めました<9.15現在回答未了>。
<*またまた規制委HPを探したら、「原子力規制検査に関する文書」(内規)の『共通事項に係る検査運用ガイド』に、「(4) 機密情報の取扱いに十分に注意する。 a. 検査官は、検査に必要なものとして事業者等から貸与を受けた資料については、当該検査が終了した時点で、原則として、事業者等に返却する。 b. 検査において作成し、又は取得した行政文書は、その取扱いを特別に定めたものでない限り、原子力規制委員会行政文書管理規則(原規総発第120919003号。以下「文書管理規則」という。)に従って保存・管理を行う」<11頁>との規定がありました。これが根拠なら“仕方なし”です。>
でも、「確認資料」返却が事実でも(最後の「改善報告書」くらいは検査官が取得していてもよさそうですが)、報告書作成のための立入検査時や資料確認時に「聴取記録や備忘メモ等」くらいは検査官が作成していたのでは?と思い、“念には念を”で9.1に開示請求しました(2件目)。もしも、検査内容の全てを文書化せず、頭の中に記憶していたなら、検査官の優秀さに“お手上げ”するしかありません。

以上のとおり、7.12事故の「炉規法報告なし」についてはまだまだ“謎だらけ”なので、一度は諦めた時効・告発等についても考え直す必要があるのでは(「遅滞なく」報告すべき期限が未確定で未到来?)、と“密か”に思っています。
今後、メール回答や情報開示がなされれば、次号「その5」で報告します。
<2025.9.16了 仙台原子力問題研究グループI>