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-『福島原発事故分析検討会』の「非常用復水器に関する分析」について 番外-☆「中間取りまとめ(案)」に対するパブコメ☆
前号『鳴り砂』(その5 追記3)で触れたように、検討会の「中間取りまとめ(案)」が公表され、その検討を行なおうとしていたタイミングで、意見募集(パブリックコメント:7.17-8.15)がなされました。前号記載のとおり、運転操作の妥当性検証を求める検討会へのメール質問に対し、規制庁からは“お役人的肩透かし”回答がなされただけでしたが、「パブコメ」なら筆者の意見も全文が掲載され、規制庁もある程度正面から対応せざるを得ず、さらには検討会参加者も“それなりに”目を通さざるを得ず、追加検討の必要性(議論打ち切りの不当性)を認識するのではないかと期待し、ICに関係する「第1章」ならびに「別添1-1」の運転操作面に係る部分に対し、13~14年間の検証の成果を凝縮して、8月4日に意見書を郵送提出しました。
今年中に結果が判明すると思われますので、結果は追ってご報告いたします。
なお、パブコメ締切は8月15日なので、本稿を「風の会ホームページ」でご覧になられた方は、まだ間に合いますので、規制庁主導での論点整理=争点ぼかし(東電の運転操作を擁護)に異を唱える意味でも、なにか一言お願いいたします。
なお、ご参考までに、筆者の提出意見は以下のとおりです(パブコメ形式のまま)。
1 <該当箇所>
「第1章」13頁の図1、「別添1-1」の図2~5の原図である東電作成の模式図、および「別添1-1」の図8
<内容>
原子炉設置許可を受けた申請書添付図面では、2系統ある非常用復水器の各ドレン管は、同じく2系統ある再循環系PLRのポンプ吸い込み側配管に別々に接続されることになっていましたが、工事段階で無断変更がなされ(原子力安全・保安院は法令には抵触しないと容認<2012.2.27指示>)、「非常用復水器A」のドレン管は「PLR-A」には接続されずに「非常用復水器B」のドレン管に接続され、1本になったドレン管(2系統分)が「PLR-B」に接続されているはずですが<東電2012.3.12保安院宛報告=2012.6.20東電最終報告添付資料・添付8-6(2)>、上記各図の原図である東電作成の「非常用復水器模式図」では、その無断変更後のICドレン管とPLRとの接続状態が“実態に即して正しく(図では遠回りに)”模式化されています。
一方、同模式図では、図の右端に原子炉建屋壁面と大気放出用のICベント管出口2系統(通称「ブタの鼻」)が描かれ、同壁面に近い側に位置するICタンクは「非常用復水器B」と説明されています。ところが、実際には、「ブタの鼻」が設置された原子炉建屋の西側壁面<47回資料2-1:9頁外>に近い側のICタンクは「非常用復水器A」と表示されており<49回資料2:11頁の図、「別添1-2」図1>、「第1章」16頁図2および「別添1-1」図6の写真でも「非常用復水器(A)」と表示された左側のタンクの奥(左端)に壁面らしきものが写っていることから、同模式図のIC系統の説明は間違い(A・Bが逆)だと思われます。そして、その原因は、本来は図の左端(「非常用復水器A」の左側)に描かれるべき原子炉建屋西側壁面(ブタの鼻)を、図の右端に描いたためと思われます。そのように模式化が根本的に間違っている同模式図を何の注記もなく引用掲載することは不適切なので、本「中間取りまとめ(案)」において壁面位置の間違い(左右が逆)をきちんと指摘しておくべきです。
次に、規制庁作成と思われる図8の模式図では、ICタンクから下降する2系統のICドレン管が、格納容器の外において合流し、その後に格納容器内に入るよう図示されています。ところが実際には、格納容器外では2系統は別々で、格納容器内で2系統が合流し、上記の無断変更によりB系ドレン管にA系ドレン管が接続され、その後「PLR-B」に接続されているはずです。また、おそらく参照したと思われる上記東電模式図が誤っているため、図8でも原子炉建屋の壁面に近い方が「IC(B)」と記載されていますが、模式図でも可能な限り正確性を保つべきです。
2 <該当箇所>
「第1章」17頁 17~18行目 「事故当時に使用されていた事故時運転操作手順書については、ICが自動起動した場合などの具体的な挙動・操作に係る記載等が不足していた」
<内容>
東電は、事故後に全て公開した「事故時運転操作手順書」(以下「事故時手順書」)以外にも、「設備別操作手順書」や「ユニット操作手順書」(以下「通常時手順書類」)を備えていたはずですが<事故時運転操作手順書(事象ベース)「Ⅰ 総則 4.関連するマニュアル」>、それら通常時手順書類は(東電が公表を拒否しているためか)現在まで未公開となっており、また、そのため、検討会参加者がそれら通常時手順書類の存在自体を認識できていないこともあってか、本検討会においてそれら通常時手順書類の検証は一切なされていません。
しかしながら、ICが「常用設備」と位置付けられるのであれば<50回資料6-2:5頁>、(表題から推測するしかありませんが)「設備別操作手順書」にICに関する「具体的な挙動・操作に係る記載」があることが十分に推察されます(東電がそれを否定するのであれば、それを証明するためにも公開が必要です)。
したがって、事故時手順書の検証だけで「ICが自動起動した場合などの具体的な挙動・操作に係る記載等が不足していた」と結論付けるのは根拠不十分であり、早急に東電に対し通常時手順書類の公開を求め、それらも検討した上で、手順書類の記載不足の有無を判断すべきです。
3 <該当箇所>
「第1章」18頁 5~6行目 「非常時(異常が発生した状態)においても効果的に当該設備を活用できるよう手順書の整備、運転員への伝達及び教育訓練等を行う必要があること」
<内容>
「手順書の整備、運転員への伝達及び教育訓練等を行う必要がある」との教訓は、具体性に欠ける一般論でしかなく、それは、検討会での手順書類や保安教育についての実態調査・検証が不十分なことの証左です。
まず、東電は、事故前年の2010年2月に「大規模地震発生」を含む「第22章 自然災害事故」という「事故時運転操作手順書(事象ベース)」(以下「地震手順書」)を新規作成・整備しています。ところが、検討会の議事録・提出資料を見る限り、東電はその存在に一切言及せず、資料提供もしていません。そのため、検討会参加者の大半は、地震手順書の存在を認識しておらず、同手順書が「震度5弱以上または、地震加速度区分Ⅲ(基準点地震加速度45gal以上)」を導入条件とし、地震加速度大による自動スクラム・外部電源喪失・津波等への対応手順などが示され、さらに「4.中越沖地震(柏崎)の教訓」も記載されていることなどを、全く把握していないと思われます。その結果、東電が、上記導入条件を満たす強い地震発生(立地地域で「震度6強」<2011.12.2東電中間報告添付資料・添付3-1>)を受けて1~3号機が自動スクラムした事実・経緯について意図的に言及せず、「そのような状況で適用される運転手順書は、事故時運転操作手順書(事象ベース)のうち、原子炉スクラム事故、主蒸気隔離弁閉の場合、に相当いたします」<47回資料2-2:4頁>などと説明していることに対し、検討会参加者の誰も、地震手順書の導入条件その他について指摘・質問できなかったものと思われます。したがって、検討会においては、まず、地震手順書が整備された目的・経緯や内容を調査することが必要で、他の原発でも教訓化できるよう、具体的にどのような「手順書の整備」が求められるのかを議論すべきです(下線部が重要)。
また、検討会に求められる役割は、「運転員への伝達及び教育訓練等を」具体的にどのように「行う必要がある」のかを示すことにあるはずです(下線部こそが重要)。そのためには、事故前にはどのように「運転員への伝達及び教育訓練等」(以下「教育訓練等」)が行なわれていたのか、きちんと実態調査することが必要です。具体的には、上記2010年2月新規作成の「地震手順書」や、同じく事故前年の2010年7月1日施行の「保安規定変更」(主蒸気逃がし安全弁(逃がし弁機能)より、非常用復水器が先行して自動起動する運用変更<「別添1-1」72頁表2および下線部の記述>)や、さらに保安規定変更に伴って「なされるべき/なされたはず」の事故時手順書等の改訂について(上記3つをまとめて、以下「前年の変更等」)、いずれも第26回定期検査(2010.3.25~10.15)という機会を活かして、教育訓練等が具体的にどのように「なされたのか/なされなかったのか」、そして、それらの教育訓練等が2011年3月の事故前までに「なされなかった」場合は、その理由や根拠(東電の言い分)を確認・検証する必要があります。ちなみに、1号機地震手順書には、1号機には存在しない「RHR」や「RCIC」という誤記載(最初に作成された2号機地震手順書をひな型に1号機用を作成した際のチェックミスと思われます)が残されていますが、同手順書を実際に運転員らで読み合わせたり、「当該手順書に従ってステップ毎にチェックしながら操作」<事故時運転操作手順書(事象ベース)「Ⅱ まえがき 3.手順書の具体的使用方法」>するような実践的な教育訓練等が一度でも行なわれていれば、1号機運転員の「誰かが/誰でも」上記誤記載に気付くはずで(この前提に東電が異を唱えるのなら話は別ですが)、上記誤記載の存在は、新規作成後から事故前までに教育訓練等が全く行なわれていなかったことの証左です。
そして、保安規定第118条では、運転員への保安教育(実施時期・実施時間)は「3年間で30時間以上」とされているだけで、保安規定・手順書などの重要な変更があった場合、どの程度の期間内にどのような内容・方法で教育訓練等を行なうべきなのか、具体的に規定されていません。そのため、東電が、保安規定の同条項を根拠に、前年の変更等の教育訓練等を速やかに実施しなくても保安規定上は特に問題ないと意図的に先送りしたため、事故時に1号機運転員が前年の変更等を全く知らなかったという可能性が、十分に考えられます。
同様に、東電が「15:03に「操作手順書で定める原子炉冷却材温度変化率55℃/hが遵守できないと考え」、ICを停止したと報告している」<47回資料2-1:11頁>との規制庁の指摘に対し、改めて東電は「原子炉減圧操作時に要求される原子炉冷却材温度変化率55℃/hについて、それを遵守することを考えたものと推定されます」<47回資料2-2:6頁>と説明していることから推察すれば、運転員はIC手動停止操作を行なった際、保安規定第77条第3項「当直長が異常の収束を判断するまでの期間は、第3節運転上の制限は適用されない」こと(注:「原子炉冷却材温度変化率55℃/h」は「第3節運転上の制限」の一つ)<47回資料2-1:18頁>を認識していなかったことが窺えますが、保安規定第76条・第77条は平成20(2008)年6月26日施行のため、事故時までの2年半以上もそれらの保安教育が実施されなかったことが推察されます。
一方、国も、炉規法第37条第5項の「原子炉設置者は、…前項の規定の遵守の状況について、主務大臣が定期的に行う検査を受けなければならない」との規定や、実用炉規則第16条の2第1項の「法第37条第5項の規定による検査は、毎年4回行うものとする」との規定に基づき、四半期に一度の検査(規制検査)を行なっていたはずですが、前年の変更等が半年から1年も教育訓練等されず、保安規定第77条等が2年半以上も保安教育されていないかった実態を事故前に全く把握できなかった・見逃していた原因を、自ら究明することが必要です。
以上のとおり、前年の変更等や保安規定第77条等についての東電の保安教育の実態調査を行なった上で、調査結果に基づき「運転員への伝達及び教育訓練等を」具体的にどのように「行う必要がある」のかを教訓化して、現行の事業者の保安教育(とりわけ実施時期・頻度・対象者など)のあり方を全面的に見直し、一方、国も、現行の規制検査のあり方を全面的に見直す必要があります。
4 <該当箇所>
「第1章」18頁 12~14行目 「津波襲来までの期間、事故時の運転員の操作については、操作手順書に基づき確実に実施され、…ICは所定の機能を発揮し原子炉圧力は制御できていたと考える」
<内容>
津波前の運転員のIC操作について、「操作手順書に基づき確実に実施され」ていたと肯定的に評価しています。
その点に関して、規制庁は保安規定第77条第3項(以下「保安規定同条項」)<47回資料2-1:18頁>を認識しており、それを踏まえて規制庁岩野係長は「55℃/h制限はスクラム時には適用されないというふうに認識をしております」と明言した上で、「東京電力におかれてはここを踏まえて次回以降、説明のほうをお願いします」と要望していました<47回議事録:24頁>。ところが東電は、その後の会合でも、保安規定同条項を踏まえた最善・適正な操作について一切説明をしていません<47~50回議事録>。
そもそも保安規定は、炉規法第37条第4項により東電に遵守義務が課せられているものであり、また、実用炉規則第7条の4で「…原子炉設置者は、保安規定に基づき要領書、作業手順書その他保安に関する文書…を定め、これらを遵守しなければならない」とされているため、津波前の運転員のIC手動停止操作が、地震手順書や、手順書の上位文書である保安規定を遵守して「確実に実施」されたのかどうかを検証すべきですが、検討会ではそのような観点からの検証は全くなされていません<47~50回議事録>。
さらに、地震手順書では「地震においては、その地震動の大きさにより動作を期待する系統・機器が運転不能となる恐れがあるため、…健全な系統・機器により原子炉を冷温停止する…」<1.事故概要>と指示されていることに鑑みれば、地震後に「操作手順書に基づき確実に実施され」るべき操作とは、自動起動したICをそのまま継続作動させて冷温停止に向けて急速減圧(SHC作動圧まで)すること以外にはないはずで、異常時にはそのような急速減圧・冷却が必要だからこそ、それを容認する保安規定同条項が定められているはずです。この点、更田上席技監も「…地震直後にこれは大ごとだって本当に大きな事故だという認識が中操ですぐにできていれば、そこで55℃/hが出てくるのはおかしい」、「そこで55℃/hは一般にたたき込まれているからと言われても、じゃあ事故に対する、事故というか発生直後の認識がすごく緩やかなものだった。ひどい言い方すると甘かったというふうに推測もされる」などと述べ<47回議事録:27頁>、「…操作手順書で定める原子炉冷却材温度変化率55℃/hが遵守できないと考え」ICを停止した旨の東電の説明<47回資料2-1:6頁>に、疑問を呈しています。ただし、そのような議論がなされた際も、保安規定同条項や地震手順書を踏まえてなされるべき操作については検討されておらず(東電からの説明もなく)、操作が「確実に実施されていた」と判断できるような根拠はありません。
また、「ICは所定の機能を発揮し原子炉圧力は制御できていたと考える」とも評価しています。
ここで、前年の保安規定変更で原子炉圧力高に対し原子炉水の減少を伴うSRVでなく原子炉水の減少のないICが先に起動するようにされたことに鑑みれば、地震後に自動起動したICが発揮すべき「所定の機能」とは、炉水を維持しながら、地震手順書記載の冷温停止という最終目標の早期実現に向けて、保安規定同条項で容認された原子炉の急速減圧・冷却(55℃/h以上)を行なうことだと思われます。また、地震手順書には、保安規定第76・77条などが明記されていることから<3.(3)関連規定>、事故前に同手順書の保安教育が適切に実施されていれば、運転員の誰かは「55℃/h制限はスクラム時には適用されない」ことを正しく認識できていたはずです。ところが、実際に運転員が行なった操作は、上記のとおり「事故というか発生直後の認識がすごく緩やかなものだった。ひどい言い方すると甘かった」と指摘されるようなもので、地震後に1号機で唯一「冷やす」機能を担っていたICを2系統とも手動停止し、その後はIC1系統で漫然と原子炉圧力制御(間欠冷却)を繰り返していただけで、巨大地震直後・津波警報発令後のそのような甘い認識による切迫感のない操作が事故の拡大・悪化を招いた可能性が高いのです。
そして、運転員が、地震手順書や保安規定同条項を直ちに思い浮かべ、地震後に自動起動したICを継続作動させ急速減圧・冷却していたなら、津波直前(全電源喪失によるICの機能喪失前)までに一定程度の原子炉冷却・崩壊熱除去ができていたはずで、その津波直前までの冷却と崩壊熱減衰の効果により、事故当日夕方に1号機で生じたと推測される早期の炉心露出・溶融(JNES解析では地震発生後2~3時間後、東電解析では同3~4時間後<JNES「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故に係る1号機、2号機及び3号機の炉心の状態に関する評価」(2011.9)表3-4>を一定時間先延ばしできたはずです。そして、その炉心露出・溶融先延ばしによる時間的猶予を活かして、実際に東電が津波後に講じた各種事故対応(代替冷却準備やバッテリー等電源確保など)が適時適切に行なわれていれば、炉心露出・溶融自体やそれに続く水素爆発なども回避でき、1号機水素爆発による2・3号機復旧作業への悪影響・事故の拡大連鎖をも断ち切れた可能性さえあると推察されます。
以上のとおり、津波前の運転員のIC手動停止操作やそれを正当化する東電の弁明を、地震手順書や保安規定同条項(東電に遵守義務あり)と一切照らし合わせることなく、肯定的に評価することは、完全な誤りです。また、検討会の「非常用復水器(IC)に関する事実関係を明らかにし当該設備に対する疑問を解消するとともに、ICを通して事故時対応の教訓を見出す」との目的に鑑みれば、検討会参加者の専門性・知識技能を活かし、津波直前までのIC継続作動による急速減圧・冷却がなされた場合の津波後(SRVで減圧・主蒸気放出)の原子炉圧力・水位の経時変化について定量的解析を行ない、それに基づき具体的な事故の進展(炉心露出・溶融や水素爆発等の回避可能性)を検証することが強く求められます。そのような定量的解析・検証を行なわず、明確な根拠もなしに肯定的評価をするのは時期尚早です。
<2025.8.6記 仙台原子力問題研究グループI>
