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≪短信:硫化水素の注意事項+“素人的”簡易計算≫<2022.6.25完 仙台原子力問題研究グループI>
≪短信:硫化水素の注意事項+“素人的”簡易計算≫(以下は図が割愛されていますので、上記のpdfをご覧下さい)
★1 硫化水素の注意事項(ICSC)
まず、東北電力も毒ガス防護申請にあたって参照し<2022.3.3申請概要>、『毒ガスガイド』が定義する「有毒ガス:気体状の有毒化学物質(国際化学安全性カード9等において、人に対する悪影響が示されている物質)及び有毒化学物質のエアロゾルをいう…」の注9として引用されている「International Chemical Safety Card」(ICSC)によれば、化学物質としての「硫化水素」(『暴露・健康への影響』では、中枢神経系に影響を与えることがあるとか意識喪失・死を引き起こすことがあると記載されています)について、『分類・表示』で「吸引すると、生命に危険」「重度の眼刺激」「呼吸器への刺激のおそれ」「水生生物に、非常に強い毒性」とされている有毒性を踏まえ、『漏洩物処理』では①「この物質を環境中に放出してはならない」、②「細かな噴霧水を用いて、ガスを除去する」ことが、また『貯蔵』では③「排水管や下水管へのアクセスのない場で貯蔵する」ことが、それぞれ求められているため、硫化水素が有害濃度=許容濃度(1ppmとか5ppm・15分間)以上となる場合は、原則的に上記規定を厳守すべきだと思います。
ところが東北電力は、「タンク内で発生した硫化水素は、廃棄物処理建屋換気空調系を通じて排気筒より十分希釈し大気に放出しております」<2021.11.11質問Q9への12.2回答>と、ランドリ系沈降分離槽(タンク)への空気注入作業時に、①を無視して、しかもその際②のような極めて簡便な「水噴霧」(アルカリ溶液の噴霧やスクラビング処理ならさらに高除去率)さえ行なわず、無処理(自然希釈)のまま換気空調系・排気筒から環境中へ垂れ流ししているのです。このような実態を踏まえれば、せめて約300m離れた女川1の排気筒から放出される硫化水素(放出濃度・量・速度は東北電力が保有:秘匿?)が、女川2「中央制御室外気取入口」(取入後の換気用空気中)においては許容濃度以下に必ず希釈されることを、定量的に証明すべきです。
また、③は「排水管や下水管」を通じた逆流の危険性を考慮した規定だと思われますが、女川原発では共用解消・接続配管撤去によって硫化水素貯蔵場所と言えるタンクとの「アクセス」をなくすことが第一義的に要求される、ということだと思います。
★2 硫化水素の“素人的”簡易計算
次に、タンクや排気中の硫化水素(と空気との混合ガス)について、東北電力が定量的解析を行なわず、必要なデータ・流量(数値)も一切公表しようとしませんので、以下に示す計算の考え方・仮定[単純化]と、定性的傾向を把握するための数値を用いて、“素人的”簡易計算を行なってみます。
ただし、『東北電力・電中研理論』の「スラッジ固結による硫化水素の大量蓄積・封じ込め」という非科学的・非化学的な仮説(規制委も詳細な検討もせず容認したようですが)は排除し、硫化水素は液相部・スラッジの間隙水中に『気液・溶解平衡』(高校レベルの化学)で存在していることを前提とします<誰でも検証可能です>。
このような素人計算を完全修正・否定するため、東北電力から正しいデータや“専門的”計算結果が提示されれば、それに越したことはありません。
☆硫化水素:「分子量34.1」、
「水への溶解度0.5g/100ml=5.0g/ℓ(20℃・1atm)」(比較的溶解し易いということで、前項★1の②はその性質を利用) <ICSC>
☆沈降分離槽の容量100㎥(タンク内は20℃と仮定)
液相部(スラッジを含む)の事故時の体積(蓄積量)はVL=74㎥=74000 ℓ。再発防止策の目標はVL=50㎥=50000 ℓ以下。
気相部は1atm(気圧)と仮定。事故時の体積(空気+硫化水素)はVA=26㎥=26000 ℓ。<計算を簡便にするため、水蒸気や二酸化炭素は無視>
まず、曝気(空気注入)前の気相部硫化水素分圧をPs₀atm、空気分圧をPa₀atmとすると、Ps₀+Pa₀=1atm。硫化水素体積はVs₀=26Ps₀㎥=26000Ps₀ℓ、全体の体積(硫化水素+空気)はVA=26000ℓ。(Ps₀=Vs₀/VA)
一方、硫化水素分圧1atm(100%)で「溶解度5.0g/ℓ」より、曝気前の硫化水素分圧Ps₀atmより、「上澄み水中(液相部)の硫化水素濃度C」は「5.0Ps₀g/ℓ≒5000Ps₀ppm」となります【ヘンリーの法則】。ちなみに、東北電力はこの値Cを測定しているはずですが、なぜか非公表です。もしも測定値(事故直前C₀ppm等)が公表されれば、気相部硫化水素分圧Ps₀(=C₀/5000)atm等が逆算できます。
次に、曝気作業(30分間)により底部から空気が注入され(20℃・1atm換算でVa ℓ/minの注入速度)、曝気1分後に気相部に空気Va ℓが到達(液相部への溶解は無視。便宜的に気相部の体積が増加し、1atmが維持されると仮定!)し、曝気(硫化水素の希釈による平衡移動)に伴い液相部からDs₁gの溶存硫化水素が気相部に移行・気化(気相部体積が増加)すると考えます<最重要仮定>。その換算体積Vs₁(グラムを分子量34.1で割り物質量モルを求め、22.4を掛けて1atmでの体積リットルに換算し、0℃=273Kから20℃=293Kへの温度補正のため273で割って293を掛ける)は Ds₁/34.1×22.4×293/273 ℓとなり、換算係数22.4/34.1×293/273=f(定数)とすれば、Vs₁=f・Ds₁、曝気後の全硫化水素体積は「VS1=VA・Ps₀+f・Ds₁ ℓ」と表わされます。一方、曝気後の気相部全体の体積VA1は、曝気前の全体体積(硫化水素+空気)+曝気空気体積+移行・気化硫化水素体積より、「VA1=VA+Va+f・Ds₁ ℓ」となります。
したがって、1分曝気後の気相部の硫化水素分圧Ps₁は、硫化水素体積VS1/気相部全体体積VA1より、「Ps₁=(VA・Ps₀+f・Ds₁)/(VA+Va+f・Ds₁)atm」となります。
また、曝気後のPs₁に対応する液相部の硫化水素濃度C₁は5Ps₁g/ℓとなり、液相部の体積VLを考慮すれば、液相部溶存量はSs₁=5Ps₁×VL gです。曝気前の液相部硫化水素溶存量Ss₀=5Ps₀×VL gより、上記の気相部に移行・気化したDs₁g は、Ds₁=Ss₀-Ss₁となります(曝気の間に液相部での新たな硫化水素生成はないと仮定)。
よって、Ds₁=Ss₀-Ss₁=5Ps₀×VL - 5Ps₁×VL=5VL(Ps₀-Ps₁)=5VL{Ps₀-(VA・Ps₀+f・Ds₁)/(VA+Va+f・Ds₁)}、これを変形すると f・Ds₁² +{VA+Va+5VL・f(1-Ps₀)}Ds₁- 5VL×Ps₀×Va= 0 (Va、Ps₀は変数、VA、VLは暫定的に定数とします)という「Ds₁の2次方程式」となり、「解の公式」(中高の数学)を用いて解けば、Ds₁や気相部硫化水素分圧Ps₁などが求められます【下図】。
簡便に、「Va」に30分間の全曝気量「30×Va」をそのまま代入すれば、30分曝気後の気相部の硫化水素分圧 Psや液相部の硫化水素濃度 C、液相部からの硫化水素の移行・気化総量 Ds gなどを直ちに算出できます【次頁表】。
また、上記2次方程式の初期値として、得られたDs₁(Vs₁)、Ps₁を代入すれば、次の1分間(2分後)のVa ℓ曝気によるDs2・Ps2 を同様に求めることができ、同じ手順・計算を30分後まで繰り返せば、曝気後の経時変化の様子などを知ることができますので、関心がある方はエクセル計算してみて下さい。
ただし、変数Va、Ps₀(C₀)の数値等を東北電力は一切公表していないため、上記「半定量的考察」の当否の検証のため、気相部の曝気前の硫化水素分圧Ps₀について、1atm(100%=1000000ppm)…ア、0.1atm(100000ppm)…イ、0.01atm(10000ppm)…ウ、0.001atm(1000ppm:これでも致死濃度を上回る値)…エの4通りを、また、曝気作業(30分間)による空気注入の総量 30Va ℓ(20℃・1atm)については、気相部体積VA=26㎥の5倍量=26000×5 ℓ…①、50倍量=26000×50 ℓ…②、500倍量=26000×500 ℓ…③の3通りを、それぞれ“適当”に仮定してみます。
30分曝気後の計算結果を比較すると、硫化水素初期分圧(ア~エ)のいずれの場合も、曝気量Va(TVa)が多ければ多いほど(①<②<③)気相部への硫化水素の移行・気化量Ds(=液相部からの除去量)が増加し、曝気空気による希釈により硫化水素分圧Psは低下し、それに伴い液相部の硫化水素濃度Cおよび溶存量Ssのいずれも減少するという“常識通り・予想通り”の結果となります。特に曝気量を多くすれば、③(500倍)では約98%の硫化水素を液相部から除去できることがわかり(試算で、1000倍では約99%、10000倍では約99.9%)、単純に曝気時間を増加させて曝気量を増やせばいいことが分かります(注入圧増加は不要)。ちなみに、実際の東北電力の曝気量はどの程度だったのでしょうか(曝気ポンプの電気代・人件費節約のため「週一度の30分作業」とした?それが明らかにならないよう、データ非公表?)。
一方、曝気後の硫化水素分圧Psは、Ps₀の仮定(1~0.001atm)が高いためか、「エ・③」でも0.000022atm(22ppm:許容濃度1~5ppm以上)で、多くは致死濃度以上であることに鑑みれば、換気空調系排気や排気筒放出の際に自然希釈されるとしても、前項★1②のとおり、適切に水噴霧その他の「無害化処理」を行なうべきで、また、中央制御室(排気筒から300m)の給気についても定量的な拡散評価を行なうべきだと思います(東北電力は、5.23の質問4への回答でも「希釈されるから問題なし」と一方的に主張するだけですが、換気空調系で約何倍、排気筒では約何倍に希釈され、環境中では中央制御室に至るまでに約何倍に希釈・拡散されるのか、概算でも示してほしいものです。また、それを確認しようともしない規制委・規制庁も問題です)。
なお、女川1設置許可申請書・添付書類8には廃棄物処理建屋換気系の給気・排気ファンの仕様は記載されていませんが、女川2添付書類8では約10万㎥/h/台とされています(1・2号機の出力比(52.4:82.5)に応じ、1号機は6.35万㎥/h/台? それとも、メーカー仕様が決まっていて、同じ約10万㎥/h/台?)。いずれにしても、本稿で用いた曝気量Vaが最大の「③」26×500㎥/30min=26000㎥/hの場合でも、硫化水素気化量(体積)Vsが最大の「ア」255㎥/30min=510㎥/hを加えても、2%程度増加するだけですので、建屋全体の排気に支障はなかったはずです。また、本稿の『曝気による気液平衡移動』から算出される曝気量Vaと気化量Vsの比(Vs/Va)が最大の「①ア」で約1(122000 ℓ/ 130000 ℓ)でしかないことからわかるように、『電力理論』が前提とし「事故原因」と主張とする‘排気し切れないほどの硫化水素が固結スラッジから放出・気化する(Va<<Vs)’ことなど“絶対にあり得ない”のです。また、仮に「①ア」(Va+Vs≒2Va=260000 ℓ)で“事故が起きた=排気量不足が生じた”というのであれば、「260㎥/30min=520㎥/h」の排気能力すらないような廃棄物処理建屋用の排気ファンを設置していた‘東北電力の怠慢’が原因です(それを隠すため曝気量・排気量のデータを非公表?)【図は2022.3.23資料1・別紙11】。
いずれにしても、各種データを隠すことでしか成立しない『電力理論』は、そもそも非科学的なものでしかなく、定量的な検証に耐えられるはずはありません(そのような『理論』を容認した(非科学性を指摘できなかった)規制委・規制庁も問題です)。
最後に、東北電力の再発防止策である「スラッジ蓄積量50㎥以下」について、曝気量Va(TVa)を同じ値を用いて同様に検討すれば、液相部体積(スラッジ蓄積量)の減少により硫化水素溶存量Ss₀が低下するため、気相部への移行割合(Ds/Ss₀)が増加し、曝気後の硫化水素分圧Psが低下するなど、見た目の曝気効果は多少高まりますが、それ以上の顕著な改善は見られません。
したがって、「スラッジ蓄積量50㎥以下」が再発防止策として機能することを証明するには、『理論』の前提たる“スラッジ固結(による硫化水素の大量噴出)”が「50㎥以下」では生じない(50㎥以上の74㎥付近では生じる)という明白な証拠を提示する必要がありますが、そもそもの“スラッジ固結”自体が非科学的な仮定(東北電力・電中研の勝手な思い込み)に過ぎないため、証明は不可能だと思います。唯一可能性があるのは、曝気に伴う硫化水素濃度C、硫化水素分圧Psの変化が、上記試算と著しく異なる挙動・数値を示している場合で、そうであれば、「固結スラッジからの突発的噴出」などの『平衡理論』では説明できない現象が生じていることを、筆者も素直に認めたいと思います。そのためにも、硫化水素濃度の公開が必要です。
なお、以上の試算は、東北電力がデータを計測している「硫化水素」に照準を合わせたものですが、気相部の硫化水素分圧の低下は、(気相部空気中の)酸素分圧の増加を意味し、酸素の溶解度は硫化水素の1%程度でしかありませんが(酸素0.049、硫化水素4.67:単位は「㎤(0℃・1atm)/㎤」【理科年表】)、曝気(時間・量の増加)に伴い(①<②<③)、水への酸素溶解濃度・量(分圧に比例)は着実に増加するため、本来の曝気目的である硫酸塩還元細菌の活動低下をもたらすことを、間接的に証明するものにもなっています(『理論』によれば、固結スラッジ中に酸素は容易には届かない(拡散しない)はずなので、曝気の効果も著しく低下するため、硫化水素濃度の測定では曝気効果を確認できないはずです)。
【本文と図・表の使用記号に齟齬があれば、筆者の不注意ですのでお許し下さい。】
<2022.6.25完 仙台原子力問題研究グループI>