≪短信:7.12硫化水素流出事故の情報公開顛末記:その2≫

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≪短信:7.12硫化水素流出事故の情報公開顛末記:その2≫

7.12事故に係る東北電力からの入手文書についての宮城県と女川町の非開示処分(303号『鳴り砂』に「非開示12文書」のリスト掲載)に対する異議申立=審査請求の経緯を前々号(304号)に記載しましたが、その後、宮城県には6.30付「反論書」、7.22付「意見書」、9.18付「意見書」を提出し、女川町には9.22付「意見書」を提出し、現在は両情報公開審査会で各々審議中のはずです。遅くとも年内に‘非開示維持か、開示か’の答申(および実施機関の裁決)が出されるものと思われます。
以下は両審査会に対する直近書面の概要ですが、特に“ハァ?”という屁理屈を並べてきた女川町(実際には東北電力)に対しては徹底批判しましたので、ご覧あれ。

⑴ 宮城県(9.18付「意見書」)
実施機関(県原対課)が審査会に提出した「開示決定等に係る行政文書に記録されている情報の内容及び当該開示決定等を判断した理由を分類し,又は整理した資料」が8月24日付けで送付されましたが、仰々しい題名に反して「部分開示決定通知書」の2頁の記載を‘1頁に整理’したものでしかなく、期待した非開示12文書の「情報の内容」および「判断理由」をキチンと分類・整理したものではありませんでした。
宮城県情報公開条例第1条「目的」の解釈4には、 「説明する責務」として「民主主義の健全な発展のためには,県政を信託した県民に対し,県がその諸活動の状況を具体的に明らかにし,わかりやすく説明することが不可欠である。この「説明する責務(説明責任)」を全うするための制度が情報公開制度であるとの認識から,県の「説明する責務(説明責任)」を目的に明記したものである。」との記載があります。
上記資料に先立つ6月20日付「弁明書」には、まがりなりにも非開示12文書の表題と非開示理由(第8条第1項第3号該当とか同条同項第3号及び第4号該当とか)がある程度分類・整理され記載されていたのに(それに対して6.30付「反論書」で詳細に反論済み)、審査会に提出された上記資料は「弁明書」の記載を丸写ししたものですらなく、特に意見を述べる価値もなかったため、非開示の不当性について「反論書」の記載を若干補足しただけで終わらせました。      <宮城県の項終了>

⑵ 女川町(9.22付「意見書」)
①姑息な文言変更と、“ハァ?”という「具体的理由」
「開示請求に対する諾否の決定理由説明書」が9月4日付で送付され、非開示12文書が女川町情報公開条例第7号第3号に該当するという「具体的理由」(東北電力が女川町に寄せた非開示希望意見)が、初めて‘具体的に’示されました。
 特に注目すべきは、非開示文書は「事業運営における重要なノウハウ」であり、「原子力発電所設備の運転操作に係る情報が拡散され…一部の情報のみを基とした誤った認識や憶測が拡散することにより…事業運営に支障をきたす」(理由<A>)とか、「資料は当該法人の社内様式を用いて作成された」から「公開資料を基に使用されている字体やレイアウトを想像させることに繋がり、…記録様式データの複製や記録の偽装などにも繋がる」(理由<B>)という2つの非開示理由で、そのため公開すれば「事業活動上の利益が著しく損なわれると認められる」という結論でした。
ここで、3月10日付「部分開示決定通知書」の結論では「…開示することにより、当該法人の利益が損なわれる可能性があると判断される」となっていたため、そのような“曖昧な理由付け”は条例第7号第3号に厳密に該当するものではない旨「審査請求書」で主張しましたが、それを受けてか、今回の「具体的理由」では、「著しく」の文言が追加された一方、以前の「可能性がある」という文言は削除され、さらにまた以前の「判断される」という主観的記述が「認められる」という客観的記述に改められ、条例の規定に即した表現となるよう(姑息にも)変更されていました。
このような小手先の変更に惑わされず、12文書全てに、単なる「可能性」に留まらず、実際に「著しく」利益が損なわれる情報が記載されていると客観的に「認められる」のか、慎重かつ十分に検証することを、審査会には期待したいと思います。

②理由<A>の不当性
 次に、理由<A>についてですが、本件非開示情報は「事業運営における重要なノウハウ」であり「原子力発電所設備の運転操作に係る情報」で、「情報が拡散され…一部の情報のみを基とした誤った認識や憶測が拡散すること」で「事業運営に支障をきたす」との主張は、とりわけ下線部が筆者の“琴線に触れた”ため、正確な情報開示こそが必要で、むしろ東北電力のように正確な情報を公開・発信しないことこそが「一部の情報のみを基とした誤った認識や憶測が拡散すること」につながることを、徹底的に示しました(東北電力にとっては“ヤブヘビ”だったのでは?)。
まず、304号『鳴り砂』で述べたとおり、自治体職員のメモ書きによって、従前の2倍量の注入速度868㎥/h>排気速度700㎥/h(30分注入量434㎥>排気量350㎥)が明らかとなり、2倍の空気供給を計画したのに排気量を増やさなかった人為ミスが事故の『真の原因』だと判明した事実を示し、東北電力は、その真相を隠すため、空気供給量や排気量などの正確な情報を自らは公表していないことを指摘しました。
次に、305号『鳴り砂』で述べたとおり、被災作業員7名は全員が体調不良(死亡者なし)で済んだことから、流出した硫化水素濃度はせいぜい「100ppm」オーダーだったと推察されること、「ppm(ピーピーエム)」は「百万分の一(体積比)」なので「100ppm」とは「一万分の一」で、大まかには「空気10,000:硫化水素1」(体積比)の混合比だったということで、そうすると、「868㎥/h」で30分間注入・排気された空気量「434㎥」に対し、その中に含まれていた硫化水素はその僅か「一万分の一」の「0.0434㎥」なので、誰が考えても、東北電力が主張する「…スラッジ層に蓄積していた硫化水素が多量に放出され、換気空調系で排気しきれずに、…系外に流出した。」ことなど‘絶対にあり得ない’ことを、定量的に示しました。
また、同じく305号で述べたとおり、2022年5月16日付東北電力情報で「2022年3月末までに、タンク内の硫化水素濃度が0ppm」と明記されていることから、非開示文書「6~8」に記載されていると思われる硫化水素の測定値が「0ppm」である事実は既に公表されているので、非開示にする理由はないことも主張しました。
さらに、304号で述べたとおり、開示された令和3年7月15日付東北電力資料に、事故当日午後の1号機沈降分離槽・ランドリドレンタンク付近の「建屋スペース」における硫化水素濃度(14:20頃50ppm、15:40頃0ppm)と、「その近傍」の濃度(14:20頃5ppm、15:40頃0ppm)などが示されており、14:30頃の2号機側での異臭連絡より早い時点で、既に1号機のタンク「系外」に硫化水素が流出していたことは明らかなのに、東北電力は、同文書やその後の文書でも「系外流出」の事実を一切公表せず、また、1号機側で(2号機側異臭連絡前の)14:20頃に硫化水素を測定していた事実・測定理由・目的も明らかにしておらず、このような対応は「人の生命、身体又は健康」に影響を及ぼす危険性を意図的に隠す行為であることを指摘しました。
そして、第7条第3号「ア」の例外規定では「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、身体又は健康を保護するため、開示することが必要と認められる情報」は開示すべきとされていることに鑑み、少なくとも非開示文書「6~8」の硫化水素濃度は、高濃度ならタンクからの漏洩・流出が作業員や周辺住民らに危害を及ぼす可能性を示し、低濃度なら安全性を示す情報となるため、いずれにしても例外規定に基づき積極的に開示すべし、と主張しました。しかも、女川町や宮城県など関係自治体の3度の立入調査(①2021.7.15、②2021.11.15、③2022.6.2)自体が、「今回は、有毒ガスによる人的被害という看過できない事象であり、ひいては発電所の安全性にも影響を及ぼすもの」<①講評>とか、「今回の問題は、一歩間違えば、従業員が亡くなったり、…状況によっては大きな問題に至るものばかり…」<②講評」>というような、労災・人的被害の再発防止という自治体側の安全確認意識に基づいて実施されたことは明らかで、そのような立入調査の趣旨に鑑みれば、いずれの資料も、いわば東北電力の「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、身体又は健康を保護するため」に入手した情報だったはずで、開示されてしかるべし、と主張しました。
加えて、理由<A>のような極めて抽象的な理由で安易に非開示処分がなされるなら、『知る権利』の保障など単なる“絵空事”となってしまうことは明らかで、むしろ、東北電力自身が正確な情報を公開しようとせず、「…スラッジ層に蓄積していた硫化水素が多量に放出され、換気空調系で排気しきれずに、…系外に流出した。」とか、2号機制御建屋への流出以前には硫化水素の「系外流出」はないなど、「誤った認識や憶測」を「拡散」させていることを指摘し、改めて開示を求めました。

③理由<B>の不当性
理由<B>は、非開示とされた文書資料は「当該法人の社内様式を用いて作成された」もので「公開資料を基に使用されている字体やレイアウトを想像させることに繋がり、…記録様式データの複製や記録の偽装などにも繋がる」という“突拍子もない・想像を絶する”もので、おそらく「審査請求」対策で女川町が改めて意見聴取した際に東北電力が“新たに考案”した「具体的理由」だと思われますが、ただただ呆れました。このような屁理屈は、審査会の良識で“一刀両断”してもらうほかありません。
なお、「記録様式データの複製や記録の偽装」などの『犯罪行為』に対する歯止めとして、条例第4条「利用者の責務」では「…公文書の開示を受けた者は、これによって得た情報を、この条例の目的に適正に使用しなければならない」と規定しています(宮城県条例第3条第2項にも同様の「開示請求者の責務」の規定あり)。筆者(審査請求人)は、『知る権利』自体を尊重し、文書の使用目的による開示・非開示判断への影響は好ましくないと考え、開示請求書には使用目的を敢えて記載しないようにしてきましたが、今回の東北電力の“イチャモン”を踏まえ、上記のように‘開示情報を適正に使用’して事故の真相(単純ミス)を解明し、東北電力の「…スラッジ層に蓄積していた硫化水素が多量に放出され、換気空調系で排気しきれずに、…系外に流出した」などという「事故原因の偽装」を明らかにしたことを訴えました。
そして、情報開示すれば「偽装」などの『犯罪行為』に利用されるなどの予断・偏見で、「企業秘密・特許情報」等の重要情報でもない情報を安易に非開示とする発想は、全ての開示請求者(筆者だけ?)に対する著しい冒とくであり、『知る権利』に真っ向から反するもの、と締めくくりました。        <女川町の項終了>

本稿の最後に、両審査会に対して「意見陳述はしない」ことにしましたので、あとは審査会答申(その後の実施機関の裁決)を“静かに?”待つだけです(でも、女川町審査会に対し、東北電力が弁明・反論をし、筆者にも再反論の機会が与えられるなら、徹底的に論争するつもりなので、その場合は“もつれる”かもしれません)。
両審査会には、『情報公開の原則』に則り、女川町情報公開・個人情報保護審査会運営規程第8条にあるように「…審査は、論点及び争点を明確にして当該審査請求の当否の判断を行い、かつ、その理由を明らかに…」した上で、実施機関および東北電力の(7.12事故の真相や東北電力自身の「原因偽装」等を隠すための)安易な“情報隠し”を許さないよう、慎重かつ十分な審査・答申を期待したいと思います。
<2023.10.3了 仙台原子力問題研究グループI>