★原発問題の“ミニミニ?”解説 その12★ ≪一般住宅と原発の耐震設計の違い≫

★原発問題の“ミニミニ?”解説 その12★ ≪一般住宅と原発の耐震設計の違い≫
★原発問題の“ミニミニ?”解説 その12<追記>★「地震動(ガル)」と「応答スペクトル(ガル)」】

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★ 原発問題の“ミニミニ?”解説 その12 ★ (6年ぶり復活?)
≪一般住宅と原発の耐震設計の違い≫

 地震は、【図1】<「2017.11.1 第13回宮城県安全性検討会 資料2」。以下の図も同じ>のように、①地下の岩盤破壊(断層運動)により発生した「地震波(揺れ)」が、②周辺の岩盤・地層を伝播して、③地表面に到達して地震動として敷地地盤(大地)を揺らし、④地表の建物・樹木等を揺らす、という一連の現象です。
 私たちが地震を感じる際の揺れ(地震動)の強弱は、地域ごと(観測点ごと)の「震度」で表わされます。自分の居住する地域とすぐ隣の地域で「震度」が異なることもありますが、それは、地域ごとに②伝播経路の岩盤・地層が違ったり、③地表の地盤の性状(硬軟、切り土か盛り土か埋立地か)などが違ったりするためです(地盤が軟弱だと地震動が増幅)。
 また、地震動(波)には、家や家具・置物を「ガタガタ」と細かく揺らす「短周期・短波長の揺れ」や、「ユーラユーラ」とゆっくり揺らす「長周期・長波長の揺れ」など、様々な周期・波長の波(成分)が含まれています【図2】。そして、ブランコを一定のリズム(周期)で揺らせば揺れ(振幅)が徐々に大きくなる(共振する)ように、建物にも強度(剛性)などによって、揺れやすい周期(固有周期・共振周期)があるため【図3】、短周期の波は、「低い建物(低層住宅)」やコンクリート造・石造の「固い(剛性の高い)建物」などの『固有周期の短い』建物を揺らし易く、一方、長周期の波は、「高い建物(高層ビル)」や木造の「やわらかい(剛性の低い)建物」などの『固有周期の長い』建物を揺らし易いという違いが生じます(「固い建物」でも、地震の初期に一定程度の損壊が生じれば、剛性が低下し、固有周期が長くなり、その後の長周期の地震動で大規模損壊に至ることもあります)。そのため、地震動(波)の周期・波長の成分や地盤の特性によって、地震ごと・地域ごと・建物ごとに、被害に違いが生じることがあり、短周期成分の強い地震動・地盤なら低い建物・固い建物に被害が多く発生し、長周期成分が卓越する地震動・地盤なら木造家屋や高層ビルに多くの被害が出る、などの違いが生じます。

 さて、以上を踏まえ、一般住宅と原発の耐震設計の違いについて簡単に見てみます。
 端的に言えば、全国的な住宅メーカーの一般住宅には、全国のどこの・どんな地域の敷地であっても、例えば埋め立てや盛り土などで造成された軟弱地盤の敷地であっても、大規模損壊などが生じないような住宅(既製品)を提供することが求められます。これは、建築主側には、敷地を選ぶ(購入する)際、大まかに活断層の有無とか切り土・盛り土とかはある程度調べるかもしれませんが、敷地地盤やさらにその深部の地盤・地層の健全性・強度などを正確に調査・確認することは不可能だからです。したがって、メーカー側には、どんな地域のどんな地盤であっても、建築主が用意した敷地に耐震性のある住宅を作ることが求められるため(敷地が軟弱であることを理由に建築依頼を拒否することは、たぶんできないと思います)、メーカーとしては、費用が許す限りの耐震性を持たせようとするのであり、そのため、大きな住宅被害をもたらした熊本地震の地震動(水平1580ガル)を超える揺れにも耐えられるようにしている(例えば2000ガル以上の耐震性の確保)のだと思われます。
 一方、原発の場合は、建設場所・敷地が決まっているので、①敷地に影響を及ぼす可能性のある様々な地震(地震の種類や震源断層や地震動)を想定し、地震動が②震源から原発までの地盤物性に応じて伝播し、③原発敷地(解放基盤表面)を揺らし、最終的に④原発の建物や機器等を揺らす、という一連の流れを、個別に(オーダーメイドで)調査・解析します。そのような手続きを踏んでいるからこそ、例えば、中越沖地震の際に柏崎刈羽原発で地震動の異常増幅が観測されましたが、①~③の各段階での原因・特異性を究明することで【図4】、敷地に到達する地震動をより一層正確に想定できるようになると考えられます。女川2の場合を見てみても、①で「敷地ごとに震源を特定して策動する地震動(プレート間地震、海洋プレート内地震(アウターライズ地震とスラブ内地震)、内陸地殻内地震)」と、「震源を特定せずに策定する地震動」をそれぞれ想定し、②・③の検討を踏まえると、最大1000ガルの地震動が(解放基盤表面に)到達すると評価されています【図5のSs-D2】。このように、原発においては、一般住宅の敷地では省略される(実施不可能な)①~③の各段階を踏まえ、個別具体的に(オーダーメイドで)最大地震動が想定されるため、それに対する建屋や機器設備の耐震性を確認する、という手順になります。

 ただし、各地の原発では、活断層の見落とし(や意図的な無視・抹消)や震源断層の過小評価(不確かさの無視)など、①の地震想定・最大地震動想定が不十分・不適切に行なわれている可能性が多々あったり、前出柏崎刈羽原発のように②・③の伝播経路の特異性などの未解明事項があることも考えられるため、地震問題は未だに大きな審査課題となっているわけです。
 
★ 原発問題の“ミニミニ?”解説 その12<追記> ★ 
【「地震動(ガル)」と「応答スペクトル(ガル)」】
本稿【図2】のように、元々の地震動には様々な周期・強さの揺れが含まれており、一方、【図3】のように、構造物(建物・機器等)にも様々な固有周期があります。そして、「爆発」等の強い揺れでも“すぐに収束すれば”建物自体への影響は極めて小さく、一方、小さな揺れでも(ブランコのように)“長時間続けば”建物を大きく揺らす(共振)ことができるように、【図2,3,5】に示される「揺れの継続時間」の影響もあり、「揺れの強弱」と「建物被害の大小」は単純には一致しません。すなわち、「地震波のフーリエスペクトルから、地震波が構造物におよぼす影響を読み取ることは困難です。 地震波によって構造物がどのように振る舞うかを知る方法として応答スペクトルがあります。」<末尾の「気象庁」ホームページより>ということです。
この「応答スペクトル」は、地震動(=入力波形)が継続している間に様々な固有周期(T)の物体に生じる揺れ(=応答波形)を求め、そのうちの「最大値(A)」を縦軸に、対応する固有周期を横軸にして作成されます【図6:気象庁】。ですから、固有周期(構造物)毎に応答の最大値(被害の程度)がすぐに分かるという利点があります。
例えば、岩手県大船渡市で最大加速度「1105.5ガル」を記録した2003.5.26宮城県沖地震(海洋プレート内地震)と、「818ガル」の1995年兵庫県南部地震(阪神淡路大震災:内陸直下型地震)を比較すると【図7:同】、前者では「住家全壊2棟、半壊21棟」だった一方、後者では「住家全壊10.5万棟、半壊14.4万棟」でした<平成27年「理科年表」754-755頁>。
そのような顕著な違い(逆転現象)が生じた理由は、「応答スペクトル」【図8:同】を見れば一目瞭然で、後者では、長周期側の0.8秒前後の加速度応答が「2500ガル」を超えており(赤矢印)、「やわらかい(=比較的剛性の小さい)木造住宅」(地震の間に損壊が進み、剛性が低下し、固有周期が長くなった建物も含む)に特に大きな力を及ぼした(=被害を大きくした)ことが読み取れます(*1.9夜のNHK「クローズアップ現代」で、能登半島地震でも、木造家屋に被害をもたらす長周期1~2秒の揺れが、兵庫県南部地震同様に大きかった図が示されていました)。一方、前者では、短周期側0.2-0.3秒で「3500ガル超」(黒矢印)だった一方、0.5秒以上の長周期側では「500ガル」を下回っており、そのため住家被害が少なかったことが裏付けられます。
このように、敷地に到達した地震動自体の最大加速度(ガル数)から構造物への影響を単純に判断することは適切ではなく、構造物の固有周期と地震動の継続時間なども踏まえた加速度応答スペクトル(ガル数)から評価することが必要です。
≪気象庁HP「強震観測について」の「地震波のスペクトル」「震度と加速度」から引用≫

 <2024.1.10追記 仙台原子力問題研究グループI>