最近の気になる動き 100-「運転期間延長」問題と2.15女川原発「保安規定」認可

最近の気になる動き 100-「運転期間延長」問題と2.15女川原発「保安規定」認可

(以下図表抜きの原稿です 原稿全体は上をクリックしてください)

 女川原発の「保安規定変更認可申請」を2.15に規制委が認可【東北電力2.15お知らせ】。これで、新規制基準に基づく一連の手続き(3種の許認可)が終了した女川2は、今年(2023)11月の工事完了・来年2月の再稼動に向けて突き進むものと思われます。
 しかも、原発利用を強引に推し進める岸田政権の「運転期間延長」の法改悪(3.30衆院審議入り【3.31岩手日報】)により、女川2では、2013.12.27早期申請の“ご褒美”として、少なくとも9年強もの「審査期間<*>」の運転延長が可能となり、当初予定外のサプレッションプール耐震補強などの工事長期化で苦境に陥っている東北電力にとっては、まさに“棚からボタ餅”です。
 実際には、3.11以降の停止期間は、自らの意に反し審査等で運転停止させられた期間ではなく、再稼動に必要不可欠な安全対策・耐震補強の長期工事期間(=定検と同様)が‘たまたま審査期間と重なっただけ’なので、それを運転期間から控除するのはおかしいと思います。それが許されるのなら、今後、定期検査や改造工事に合わせて審査終了が見込める些末な変更申請(短期間で終了しそうなら、資料提出をわざと遅らせる)を行なえば、その都度運転延長が可能となります。
 …と書いていたら、上記“些末申請策略”や前号「気になる動き99」の“早期申請策略”を筆者同様に懸念したのか、3.20に更田・前規制委委員長も「審査期間は事業者の思惑でいかようにもなり、長く審査中にしておけば、ずっと後でも運転ができる。世界でも聞いたことがない変な案だ。」と批判?したようです【3.21日報】。そのようないい加減な申請・審査長期化を防ぐためにも、規制委側からの修正助言・添削指導・追加資料請求などは一切せず、合否を“一発審査”で冷厳に判定し、また、不合格となった場合は一定期間(半年や一年)は再申請を受理せず、その不合格審査期間は運転期間控除対象外とする等の措置=申請乱発防止策を講じることが必要です。
 …と書いていたら、今度は、山中・現委員長が3.29記者会見で、資料誤記などの不適切対応を繰り返す日本原電・敦賀2について「…4月に、審査の一時的な中断だけでなく、完全な打ち切りも視野に議論する」【3.30日報】とのことで、政府の 原発推進政策に甘え切った事業者(六ヶ所再処理工場の日本原燃も)に対し、ようやく厳正な審査・合否判定を行なう可能性が示されました。でも、‘キツネとタヌキの化かし合い’ではありませんが、小賢しくも日本原電が大慌てで現申請を一旦取下げ、ホトボリが冷めた頃に再申請したら(原発事業者初の経営破綻のおそれもあるので「廃炉」決断は無理。しかも、逆に運転期間延長も見込める!)、現状では規制委は「再受付・再審査」せざるを得ないのではないでしょうか。
 …と書いていたら、なんと4.5規制委は、敦賀2について「審査打ち切りは法的な根拠がなく、…事業者の権利を阻害する」ことと「全ての審査をやり直すことにもなり、規制委の負担が大きい」等の理由で、審査を再中断(8月末までに補正書提出し直し後「許可、不許可の判断をする」)したとのこと【4.6日報】。でも、提出された資料では原子炉直下の活断層の可能性を否定できないとして「不許可」にする判断は、現時点で法的にも十分に可能なはずですが、今回審査打ち切りを先延ばしにしたということは、東北電力など電力各社が「受け取る電気がゼロでも維持費に相当する「基本料金」を支払」うなどして「電力業界が原電を支えて」おり、「原発専業の電力会社である原電には2号機をあきらめて廃炉にする選択肢はなく、再稼働を目指す姿勢を貫くとみられる」ため、結局は再審査で合格させる(しかも運転期間大幅延長というオマケ付き!)のではないでしょうか。

 さて、今回の保安規定変更では、特に火山影響等発生時と有毒ガス発生時の運転管理事項が追加されています【2023.2.3最終補正(以下「女川」)】。本稿では主に後者に言及しますが、その前にいくつか目についた内容を紹介します。
 まず、柏崎刈羽(KK7)の保安規定【2020.10.26東電KK最終補正(以下「KK」)】と比較してみますが、KKで問題となった‘福島原発事故を引き起こした東電社長の責任’について、「第2条 基本方針」で具体的に「原子力発電所の運営は,いかなる経済的要因があっても安全性の確保を前提とする」ことが明記(7項目)されています。一方、女川保安規定では、「第3条5.2 原子力の安全の確保の重視」で「社長は、組織の意思決定にあたり、機器等および個別業務が個別業務等要求事項に適合し、かつ、原子力の安全がそれ以外の事由により損なわれないようにする」【女川22枚目:下線は筆者。KKも同様】との難解な文章のみが示され(下線部は、KKでは「例えば、コスト、工期等によって原子力の安全が損なわれないことをいう」とのこと【2020.9.17東電資料1・28枚目】)、ようやく末尾添付「添付1-3 重大事故等および大規模損壊対応に係る実施基準」の最初の条文で「1(1) 社長は、重大事故等発生時における原子炉施設の保全のための活動を行う体制の整備にあたって、財産(設備等)保護よりも安全を優先することを方針として定める」と記載しています【女川630枚目。KKにも同様の記載あり】。後日の事故発生時、運転員らが当該文書を“見逃していた”と責任転嫁するために、わざと「分かりにくく、かつ、目につきにくく」しているのでしょうか(筆者の読解力が低いだけ?)。
 次に、当然ですが、女川3号炉への燃料装荷は、同号炉の原子炉設置変更~保安規定変更が施行される前には行なわないとのこと【女川552枚目の附則。KK565枚目附則でも同様にKK1~6号炉への装荷は留保】。なお、備忘的に言えば、女川2やKK6・7の設置変更申請は、女川3やKK1~5に燃料が装荷されていない前提(複数号機問題)で許可されていますので、それらの燃料装荷=再稼動が具体化した際は(KK1~5はこのまま廃炉の可能性あり)、改めて女川2やKK6・7の設置変更申請のし直しが必要です。
 さらに、この間何度か言及した「耐圧強化ベント」に関して、表5「最終ヒートシンクへ熱を輸送するための手順等」で、炉心の著しい損傷や格納容器破損を防止するため、その機能を担う「残留熱除去系」が故障した場合、まず「格納容器フィルタベント系」で減圧除熱を行ない、さらにそれが使用できない場合は「耐圧強化ベント系」で行なうことになっています【女川658枚目】。でも、「手順着手の判断基準」に「炉心損傷前において」との注記がありますが、そこには「炉心損傷後」の対応策の記載はなく、注記が見落とされれば「耐圧強化ベント系」が炉心損傷後に使用される可能性が残る、不完全な内容となっています。しかも、『鳴り砂№299』で指摘したように、耐圧強化ベント系の配管は「連続上り勾配になって」おらず、(通常運転時に水の放射線分解等で発生した)水素等の「可燃性ガスが系統内に滞留する可能性」がある一方、水素爆発等防止のための「系統内を不活性化する設備がない」等の危険性があることから、特重施設の新規「フィルタ装置」完成後には‘撤去されることが決定’しているのです。そのような‘撤去予定物・危険物’を再稼動後にも一定期間バックアップとして残すのは“急場しのぎ”でしかないことは明らかです。耐圧強化ベント系は直ちに(予定前倒しで)撤去し、特重フィルタ装置完成まで再稼動しないことこそが、「原子力の安全が…損なわれないようにする」ことです。

 さて、ようやくここからが本題です。
 有毒ガス防護に関する保安規定は11項目で、そのうち主要な事前確認手順「添付1-2」を見ると、相変わらず『毒ガスガイド』の不備に便乗して(この間の『鳴り砂』で何度も指摘したように、有毒ガスが「保管されている有毒化学物質=固定源・可動源」からしか発生・放出されないか如きの『ガイド』定義は完全に誤りで、また、そもそも審査ガイドは‘審査官の参照資料’でしかなく「規制要求を示すものではない」のです<2021.6.16規制委「審査ガイドの位置付け」>)、敷地内外の貯蔵施設・輸送容器に「保管されている…有毒化学物質」に限定して、「運転・対処要員の吸気中の有毒ガス濃度」が「判断基準値を下回る」ことを事前確認することが規定されています【女川627枚目】。当然のことながら、「保管」されていない有毒化学物質・有毒ガスは全て確認対象外で、『ガイド』定義を“信奉”すれば、保安規定でも、1号機沈降分離槽から発生・放出される硫化水素の危険性は、完全に無視されることになります。
 でも、そもそも『有毒ガス防護』の本来の目的は、有毒化学物質が「保管」されていようがいまいが、敷地内外で発生・放出される可能性のある「あらゆる有毒ガス」に対し、「濃度評価を実施し」、「吸気中の有毒ガス濃度」が「判断基準値を下回る」よう、考え得る防護対策(ハード・ソフトの両面で)を講じることなのではないでしょうか。
 ところが、『ガイド』不備に便乗して設置許可・保安規定認可された女川2では、沈降分離槽の曝気作業時(不定期)に、生成・蓄積されている「高濃度硫化水素」が、①排気筒経由で無処理放出され2号機中央制御室外気取入口から取り込まれたり、②(設備共用が解消されない限り)接続配管経由で2号機制御建屋へ逆流する可能性があるにもかかわらず、安全確認に必要な「濃度評価」をせず、「有毒ガス濃度」が「判断基準値を下回るようにする手順と体制を定める」【女川641枚目】ことをしなくても、再稼動が許されるのです。
 その結果、女川2では、‘硫化水素を基準値以下にする手順・体制’は整備されず、しかも中央制御室には‘法の求める検出装置・警報装置’も設置されていないため、もしも高濃度硫化水素が①外気または②逆流気として一旦流入してしまえば、自動的に検知することはできないため、異常に気付いた(=致死濃度以下の硫化水素を吸入して刺激臭を感じた)運転員らが息を止めて「配備した防護具を着用」するしかありませんが、果たして可能でしょうか。また、②の逆流時には外気による希釈・無害化が可能かもしれませんが、①の場合には(外気が有毒ガスなので、外気取入口を閉止し)中央制御室・退避所加圧用の空気ボンベにより希釈したり、硫化水素を吸収するアルカリ溶液や活性炭フィルタ等により室内気を清浄化・無害化することが必要です。でも、通常は保安規定に基づきなされると思われる事前準備も手順も訓練も一切ないまま、そのような無害化対応を行なったり、また希釈・清浄化が完了するまでの間、運転員らが息を止め続けて防護具を着用することなど、現実的・時間的に可能でしょうか。
 東北電力が、2021.7.12事故を教訓化せず、『毒ガスガイド』の不備を最大限利用し、敷地内で発生・放出される可能性のある硫化水素の検出・警報装置の設置も行なわず、濃度評価や対応手順・体制整備をしようともせず、さらに、根本的な発生源・放出源対策である「排気筒からの無処理放出の中止」や「共用解消・接続配管撤去」などを行なわないならば、女川2は有毒ガス防護バックフィットに適合していないことは明らかです。
 <2023.4.7キリがないので完 仙台原子力問題研究グループI>