▼福島原発事故原因:「地震後運転操作」の不適切さ=東電の責任!▼(改訂版)

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▼福島原発事故原因:「地震後運転操作」の不適切さ=東電の責任!▼
改訂版です! (以下はテキストのみです。上記pdfには図表も掲載されています)

▼福島原発事故原因:「地震後運転操作」の不適切さ=東電の責任!▼
福島原発事故から13年目を迎え、岸田政権・経産省が原発推進に完全に舵を切り、規制委・規制庁も規制権限を半ば放棄している中、改めて、福島原発事故は、1号機の非常用復水器(IC)の「地震後(津波襲来前)の運転操作」の不適切さが事故拡大の“引き金”となったこと、それらの検証・教訓化と東電の責任(人災)追及がまだまだ不十分なこと、を明らかにしたいと思います(従前の筆者主張の再整理ですが、最近の『鳴り砂』読者にも知ってほしいと思いましたので)。
そして、本稿は、「新潟県原子力発電所事故に関する検証総括委員会」の委員長を2023年3月31日に「任期切れ」で不当解任された池内了氏の、2023年11月22日『池内特別検証報告』(たった一人の叛乱?:末尾にURL)の諦めない姿勢に触発されたものであることを付言します。

≪1号機の「早期炉心熔融」が事故進展・深刻化の最大要因!≫
 改めての確認ですが、福島原発事故は、東電すら認めているように、1号機の早期炉心損傷(注:東電用語)・水素爆発によって、「2・3号機共に電源の復旧作業に大きな影響を受け」、3号機も炉心損傷・水素爆発し(4号機の水素爆発を誘発)、2号機でも炉心損傷・放射性物質の大量放出が生じるなど、事故の連鎖・深刻化が生じたことは明らかで、「ある号機の事故の進展が他の号機の復旧作業等に大きな影響を与えたことも今回得られた教訓のひとつ」と明確に述べられています【東電パンフ「福島第一原子力発電所事故の経過と教訓」2013.3】。

≪「津波襲来」とそれに続く電源喪失・冷却手段喪失が事故原因?≫
原発の安全は「止める・冷やす・閉じ込める」で確保されますが、福島原発事故では、地震後に自動スクラム(炉心の核分裂反応を「止める」ことに成功)しましたが、その後の「津波襲来」とそれに起因する「電源喪失」によりすべての「冷却手段」が喪失(スクラム後も炉心で発生する崩壊熱を「冷やす」ことに失敗)したため、1~3号機のすべてで炉心が溶融し、1・3・4号機での原子炉建屋の水素爆発などもあって、最終的に大量の放射性物質放出(五重の壁で「閉じ込める」ことも失敗)に至った、と東電は説明しています【2012.6.20東電最終報告・本編346枚目等】。このような「津波襲来」と「電源喪失・冷却手段喪失」が事故原因という説明は、民間事故調・政府事故調でもなされています(国会事故調は、地震の影響によるIC配管損傷の可能性を検討していますが)。

≪津波前の1号機IC2系統「手動停止」は「温度降下率遵守」のため?≫
 しかしながら筆者は、事故により初めて知った1号機特有(国内では他に敦賀1のみに設置。女川原発にはなし)の「非常用復水器(IC)」の作動原理(駆動用電源不要で高圧冷却可能、原子炉水位も維持、大気へ直接放熱)に驚くと同時に、地震後14:52にせっかく設計通りに自動起動したIC2系統を、約10分後の15:03に運転員が「手動停止」したこと、その理由として「手順書に定められた温度降下率(55℃/h)の遵守」が繰り返し強調されていたこと【同本編106枚目他】に強い違和感を覚え、独自に検証してきました。
特に、「温度降下率の遵守」については、女川原発運転差止訴訟・控訴審で証言された田中三彦さんが、圧力容器の急冷による脆性(ぜいせい)破壊の危険性を指摘する一方で、事故時にはそれを理由に(事故後の再使用=財産保全のため)緊急炉心冷却装置(ECCS)の作動をためらう必要はない旨おっしゃっていた‘ような気がして’(記憶違い・誤解なら、田中さん、お許し下さい)、そのような東電の弁明を最初に見て以降、ずっと疑問を感じていました。

≪IC2系統「手動停止」は『保安規定』に反する不適切操作!≫
 その後に入手(原子力資料情報室・上澤千尋さんより)した『保安規定(2011.3)』を見てみたら、第3節「運転上の制限」の第37条には「原子炉冷却材温度変化率」の規定が確かにありましたが、なんと第77条第3項には「(原子炉の自動スクラムが発信した異常時には)運転上の制限は適用されない。」と明記されていたのです。
 すなわち、田中さんご指摘のとおり、原子炉が自動スクラムするような異常時には「温度降下率」などの通常運転時の制限は‘適用されない’=‘そのような制限にとらわれず、異常収束(原子炉冷却)を最優先で行なえ’というのが、『保安規定』に明記された異常時対応の“基本中の基本”なのです(当然と言えば当然!)。

≪東電の責任(人災)逃れのための『保安規定』情報隠し!≫
 ところが、東電は、3.11地震動によって14:46に原子炉が自動スクラムし、さらに外部電源喪失という予想外の異常が重畳したにもかかわらず(幸いにも非常用ディーゼル発電機が起動して、所内電源は確保)、原子炉圧力上昇を防ぐために14:52に自動起動したIC2系統を15:03に運転員が「手動停止」した“運転操作上の明らかな不適切対応”を隠ぺい・正当化するため、操作手順書に則って「温度降下率遵守(=事故後の財産保全?)」のために手動停止したとあらゆる公式の報告で強調する一方、それを“適用外・遵守不要”と明記している『保安規定』77条3項には一切言及して来ませんでした。ちなみに、2018.5.18東電・新潟県合同検証委員会「検証結果報告書」(111-112枚目)でも、77条の1・2項は掲載しているのに、3項以下は「後略」として、「温度降下率遵守」は“適用外”だった事実を未だに隠し続けているのです。そのことで、東電は、地震後運転操作の不適切さ(人災)による事故拡大・深刻化の責任追及を回避し、その後の津波襲来(天災)に全ての責任を転嫁(津波の予見可能性だけを争点化)することに成功したのです。

≪『保安規定』の求める事故対応は「炉心冷却状態維持」と「冷温停止」!≫
 IC自動起動について東電は、前出最終報告でも「これにより蒸気が冷却され、原子炉圧力は低下した」と淡々と(?)記述するだけですが、正しくは、主蒸気隔離弁(MSIV)閉により「崩壊熱除去=原子炉冷却」(冷やす)が不能となり、原子炉圧力が継続的に上昇する“危機的状況”が出現したにもかかわらず、運転員は、地震後に動揺したか、習熟していた(?)はずの「主蒸気逃し弁SRVによる冷却・減圧+高圧注水系HPCIによる水位維持」の手動操作を適時行なうことができず、代わりに、同様の2つの役割を単独で果たすIC(この認識を運転員が正しく持っていたかは疑問)が圧力の継続上昇(15秒)を検知し「自動起動」し、無事に冷却・減圧がなされたということで、大いに評価すべきことなのです(東電による危機的状況隠しとIC過小評価)。そして、運転員は、地震スクラム・MSIV閉(+外部電源喪失)という異常事態が出現し、(主復水器に代わって)非常用復水器ICが唯一の原子炉冷却・減圧手段となった状況を正しく理解した上で、『保安規定』に従って、ICによって「十分な炉心冷却状態を維持」し(温度降下率は適用外、8時間は連続冷却可能)、「冷温停止」を担う停止時冷却系の作動可能圧(0.93MPa)まで減圧し、最終目標たる「冷温停止」までの冷却を目指すべきだったのです【『保安規定』添付1「原子炉がスクラムした場合の運転操作基準」1-3頁】。

≪IC「手動停止」こそ津波前の冷却不足・早期炉心熔融の最大要因!≫
 ところが実際には、運転員は、そのような危機的状況やIC自動起動の真の意味が理解できず(事故対応手順教育の不十分さ=東電の責任!)、さらに、大地震発生時には「系統・機器が運転不能となる恐れがあるため、…健全な系統・機器により原子炉を冷温停止する」【事故時運転操作手順書(事象ベース)「第22章 自然災害事故、22-1 大規模地震発生」(地震手順書)の「1.事故概要」】という地震対応手順に反し、通常運転時・復旧時の「温度降下率」制限を思い出した(本当?)一方、それがスクラム時には『保安規定』で「遵守不要」と明確に規定されていることには全く思い至らず(『保安規定』教育の不十分さ=東電の責任!)、地震後にせっかく自動起動(異常事態に対する対応遅れ・人為ミスなどを防ぐため)した冷却装置であるIC2系統を手動停止し(当直長もおそらく承認?その後1系統を間欠手動操作)、その当然の帰結として、津波前までに原子炉を十分に冷却できなかったのです<*なお、上記「地震手順書」について、東電は、中間報告・最終報告や原子力安全・保安院への報告文書等においても一言も触れていないだけでなく、新潟県の2018.5.18東電・新潟県合同検証委員会「検証結果報告書」などにおいても隠し続けました>。
そのため、津波による電源喪失(高圧注水系HPCIの作動不能)と、それ以上の悪影響をもたらしたICについての東電関係者全員(運転員、当直長、吉田所長、本店など)の「認識不足」(作動・運転経験ゼロ、定検時にも実作動・機能検査なし=東電の責任!)により津波後にもIC不作動状態がそのまま長時間放置されたことで(間欠操作していた1系統を手動停止した直後に津波襲来。ところがその事実を運転員は当直長に伝えず?当直長も運転員に明確に確認せず? さらに「ブタの鼻(ICタンクからの蒸気放出管)」からの蒸気噴出の有無によりICの作動状況が“目でも耳でもすぐに”分かるのに、東電の誰も津波後すぐに確認しようともせず!=東電の責任!)、津波後には原子炉の冷却が全くなされず、早期の炉心熔融に至ったのです(東電は、津波後にはSRVによる除熱が‘なされたはず’と主張していますが、記録も運転員の証言もなし)。

なお、『保安規定』によりスクラム時には「温度降下率遵守」は適用外と運転員が‘的確に思い出して’「ICを継続作動」させていたなら、津波直前までにどの程度の冷却・減圧が達成されたのか、そのことにより津波後の事故対応にどれほどの余裕が生じたのか(ICの4弁とも津波直前に「開」だったことも考え合わせて)、さらにICの重要性を正しく認識し、津波後に早期の再起動を図っていたら(格納容器内の電動弁の開作業も低放射線量下で可能だったのでは?)、その結果として1号機の早期の炉心溶融や3.12水素爆発、さらには2・3号機復旧作業への悪影響、は十分に防げたのではないでしょうか。それらについて「専門家」による科学的検証が必要です。
また、上述の運転員への『保安規定』・手順書などの教育・訓練不足や、1号機運転開始以来IC実作動・機能検査なしが放置・容認されていたのは、規制・監督すべき「国の責任」も非常に大きいことも忘れてはいけません。
 <2024.3.2 仙台原子力問題研究グループI>

『池内特別検証報告』<*校正不十分な点が、たった一人での報告作成を物語っています。>
https://jimdo-storage.global.ssl.fastly.net/file/ea8f7a44-8d67-4232-bf93-569a20d89574/%E6%B1%A0%E5%86%85%E7%89%B9%E5%88%A5%E6%A4%9C%E8%A8%BC%E5%A0%B1%E5%91%8A%EF%BC%88PDF2%EF%BC%89.pdf