会報「鳴り砂」2022年1月20日号が発行されました

会報「鳴り砂」2-116号(通巻295号)2022.1.20発行
会報「鳴り砂」2-116号(通巻295号)別冊2022.1.20発行

一面論文です
女川原発2号機の再稼働を止めるのは今!
-2022年度の再稼働プロセスを、あらゆる方法で食い止めようー

 昨12月23日、原子力規制委員会は、東北電力が申請していた女川原発2号機について新規制基準適合性審査の「工事計画」を認可した。20年2月の「原子炉設置変更」の許可に続くもので、今後は第3段階の「保安規定」の審査が行われる。
 工事認可では、津波漂流物から防潮堤を守る「防護工」の追加設置や、防潮堤地盤改良工事に伴う地下水対策として地下水位を定め、1日最大約15トンの流入量を排水できる井戸を計4カ所新設する計画、さらに建屋の耐震性などの方針・内容が認可された。これに基づき、2号機の安全対策工事が2022年度中を目標として進められることになる。
しかし、この安全対策工事が順調に進むかどうかは予断を許さない。東北電力自身は「(安全対策工事のうち)耐震工事や防潮堤などの津波対策工事が重要と考えており、万全な対策が必要と認識しています」(昨年の「株主の会」の質問への回答)としているが、果たしてどこまで対策できるのかは疑問である。
さらに東北電力は年明けの1月5日、テロ対策施設である「特定重大事故等対処施設」の設置に関し宮城県と女川町、石巻市に事前協議を申し入れ、翌6日には原子力規制委員会に申請した。工事費は約1400億円にものぼるとしているが、規制委員会に認められ次第着手し、2026年12月22日までの完成を目指すとしている。
 一方、終わったはずの「原子炉設置許可」だが、昨12月16日、東北電力は「女川原子力発電所2号機における有毒ガス防護に係る」として、改めて「原子炉設置変更許可申請書」の提出を発表した。当然私たちは、昨7.12の「硫化水素労災事故」を受けた対策が講じられると思いきや、なんと「洗濯廃液の処理過程で発生した硫化水素は規制の範囲外との見解を示した上で、『酸素ボンベなどを配備すれば今回のような事故が起きても要員を守ることができる』と説明」(12.17『河北』)として、基本的に「貯蔵施設に保管されている有毒化学物質に限る」とする「毒ガスガイド」の範疇に限定し、生物学的に(無害化学物質から)発生する「硫化水素」は対象外としてしまっている。
 こうした不十分な申請を批判しつつ、私たちは差し迫った女川原発2号機の再稼働を止めるため、あらゆる手を尽くさなくてはならない。東日本大震災からまる11年になろうとするなか、女川原発の運転員のうち、運転経験のない運転員は約 33%と、3分の1にものぼる。また、1号機では廃炉作業も進められている。様々なリスクを抱えた女川原発を止める県民の智恵と力を今こそ結集しよう。

●裁判と大衆的な運動の結合を

 2号機を止める最もはっきりした方法は、現在闘われている差止裁判に勝利することだ。昨年5月に東北電力を相手に石巻市民が提訴したこの裁判は、11月の第1回に続き1月12日に第2回口頭弁論が行われた。周知の通り、全国初の「避難計画」の実効性を焦点にしたこの裁判には、同じ課題を抱える全国のサイトから注目が集まっている。東北電力は裁判で争う姿勢を見せてはいるものの、「避難計画」そのものの前に、「原告らの請求が認められるためには、上記(放射性物質を異常に放出)のような事故が発生する具体的危険が認められることが必要であり、その主張立証責任は原告らが負う」(答弁書p40)として、あくまで事故発生の立証責任を求める姿勢を崩していない。しかし当然のことながら、「万が一」を想定しているからこその「避難計画」であって、「事故の可能性を立証できなければ、避難計画は争点にならない」という論理は通用しない。
 いずれにしても、全国の原発サイトで取り組まれている裁判に女川も仲間入りしたことに、原告・弁護団に感謝すると同時に、裁判勝利に向けて様々な形(傍聴・宣伝・カンパなど)で支えていこう。

 一方、県民の再稼働反対の世論をいかに作り上げていくのかも重要だ。昨年は県内の団体・個人が結集して「さようなら原発みやぎ実行委員会」を立ち上げ、9月26日に300人を集める集会を開催するとともに、「ちょっとまって!女川原発再稼働」と題したカラーのA3版チラシを県内で配布した。このチラシは当初10万部配布したが、足りなくなり4万部追加し、あわせて14万部を各団体経由のみならず、街頭さらにポスティングで配ったのである。目標は「知事選までに配りきる」ということでその目標を達成したが、知事選で健闘した長候補の後押しになったのであれば、配布した甲斐があったというものだ。
 今年はその成果を目に見える形で示すことが求められる。世論は6割が再稼働反対であり、それを形で示すため「県民投票」を実現しようとしたものの県議会で却下され、また知事選では様々な争点の1つに埋没されるという中で、今年どうやって県民の思いを示すことができるのかを考えていかなくてはならない。昨年・一昨年の参加者を数倍する集会を開催するなども含め、仲間とともに実現していこう。

●改めて「硫化水素労災事故」とは何だったのか

 そうした中、この間女川原発ではトラブルが相次いでいる。主なものだけでも、
・2.13、3.20、5.1の地震によりボルト・ワッシャ・ナットが89個落下し、うち59個が未確認(11.12現在)。またブローアウトパネルの開放や放水口モニタの停止など
・8.27 焼却炉建屋での白煙発生(焼却炉灰冷却ボックスのグローブの破損による)
・10.9 2号機の海水ポンプ室での耐震向上工事でのコンクリート削孔作業にて、電線管を貫通し動力ケーブル被覆が損傷、などなど
 中でも、最も深刻なのは、7.12に発生した硫化水素労災事故だ。経緯についてはすでに「鳴り砂」で報告してきた通りで、前号では11.5の東北電力の「最終報告」をとりあげ批判したが、その報告を受け12月2日には東北電力と市民が交渉し、さらに12月11日にはこのテーマで風の会・公開学習会が開催された。以下、学習会の内容をかいつまんで紹介したい。

 学習会では、学生・院生時代に「硫酸塩還元細菌」を含む嫌気性細菌と関わりのあった講師の石川さんが、「そもそも硫化水素とは?」から説明し、また女川原発原子炉設置許可申請書や、規制委員会の「有毒ガイド」などの文章を縦横無尽に斬って、様々な角度から東北電力の説明を批判した
(当日の動画と資料は風の会のHPに掲載
https://miyagi-kazenokai.com/news/1995/)。その流れを紹介するには紙面が足りないので、結論だけ紹介する。

<事故の本当の原因は「スラッジ内の硫化水素蓄積」ではなく「換気しきれない大量の空気注入」!>

 東北電力(実際には電中研?)の説明では、事故の原因は「スラッジに硫化水素が大量にたまっていた」からというものだが、石川さんは「スラッジを構成する活性炭は実際には水で満たされており、硫化水素は水に溶けている(気液平衡・溶解度)か活性炭に吸着されている(吸着平衡)はずで、それ以外のどこに硫化水素が蓄積されているのか?『大量に硫化水素が蓄積されている』という東北電力の説明は全然理解できない」とする。
 それでは事故の原因は何か? それは7.12事故時に「空気をあまりにも大量に注入し、単にそれを排出しきれなかったから」で、「その空気をきちんと排出する換気系を準備しておけばよかったが、それをしていなかったから」、すなわち「科学的根拠のない硫化水素自体の蓄積・大量排出ではなく、大量の注入空気量に見合う排気量を設定しなかった単純ミス・人為ミスが原因!」と石川さんは喝破する。

<1号機と2号機の「共用」が最大の問題>

 一方、今回の事故で図らずも明らかになったことは、1号機の地下にある「洗濯廃液貯蔵タンク」と、2号機の中枢である制御建屋が、ランドリドレン処理系の「共用」により結びついていたことだ。そもそも1号機ランドリドレン処理系自体が最初の設置許可申請後に追加設置申請されたもの(石川さんによれば「放射能垂れ流し批判」への対策ではないか?とのことだが)で、その後2号機増設の際に2号機にはつけずに1号機と「共用」したということだ。なぜ「共用」したかといえば、2号機には1号機にはある「廃棄物建屋」を建設せず、また「原子炉建屋」の周辺部の「付属棟スペース」にも余裕なかったため、「1号機と共用しちゃえ」としたのではないか(つまりケチった)と推測する。
 それでは規制委員会での2号機の適合性審査ではどうだったのかといえば、この廃棄物処理施設の共用については、東北電力は積極的に説明していないし、規制委員会も追及はしていない。そういう意味では、今回の事故ではじめてこの「共用」問題の重要性が明らかになったのではないか、ということだ。

<現状の「毒ガスガイド」は欠陥>

規制委員会は2号機審査にあたって、13個の審査ガイドを参照しているが、「有毒ガス防護ガイド」(以下、毒ガスガイド)は対象外だった(なので、この12月に改めて申請し直したのだが)。ただ問題は、それではこの「毒ガスガイド」が機能すればキチンと対策がとれるのかというと、決してそうではない。すなわち「敷地内外において貯蔵又は輸送されている有毒化学物質から有毒ガスが発生した場合」の原子炉制御室の要員に対する防護が目的のため、そもそも廃棄物処理の過程で「硫酸塩還元細菌」が生成する「硫化水素」は対象外(想定外)となっているのだ。
なので、今回の2号機の毒ガス防護追加申請においても、「固定源及び可動源からの有毒ガスに対しては、運転中の吸気中の有毒ガス濃度の評価結果が有毒ガス防護のための判断基準を下回る設計としていることを確認した」(規制委2020.5.13「柏崎刈羽6・7 毒ガス防護審査書」)という柏崎刈羽での審査結果と同様の結論が予想される。しかし、それはおかしいと石川さんは言う。「今回、硫化水素が発生する、そういうタンクが原発の構内にあることが分かったわけです。毒ガスの発生源があって、流入する経路があって、共用する配管の使用を止めない。しかも対策としては弁を閉めるというだけでは事故の可能性は残るわけです。意図しない事故やテロには、この共用配管がある限り脅威は残り続けるわけです。そうしたことを考慮しない『毒ガスガイド』は欠陥ではないかと思います」と結んだ。

●残る安全性の問題、廃炉の問題、なにより福島事故の教訓を!

 福島原発と同じBWRマーク1の改良型である女川原発2号機の再稼働には、福島原発での教訓が生かされるべきだが、いまだに福島原発1号機と3号機の水素爆発の違いも解明されず、またそもそも初めに爆発したのは屋上(5階)のオペフロではなく4階ではないか、だとすると現状の水素爆発対策で大丈夫なのか?という問題や、あるいは再稼働の一方で進められている女川1号機の廃炉に伴う廃棄物処理の問題、もちろん万が一の際の避難の問題やヨウ素剤配布の問題など、数多くの問題が山積みだ。これらが解決されないまま、なし崩し的に再稼働を進めさせてはならない。
 最近では「温暖化対策に原発の活用を」との声もあるが、根っこにあるのは「これまで通り経済成長を進めるために電気を使いたいだけ使う」という発想だ。「どの電源を使うか」の前に、「いかにして消費電力を減らすか」を議論すべきではないか。石炭はもちろん、天然ガスや、また再生可能エネルギーにも問題がないわけではない。しかし、原発は数万年以上管理しなければならない「核のゴミ」を必然的に生み出し、また福島をみても分かるように、いったん事故が起これば故郷(そして人と人とのつながり)を失ってしまうのだ。
 私たちは女川原発2号機の再稼働を止める闘いを、社会のありようを問い直す射程をもって皆で論じながら取り組んでいこう。今年一年、頑張ったね、といえるような闘いをみなで作り出していこう。
(事務局 舘脇)