会報「鳴り砂」2022年9月20日号が発行されました

会報「鳴り砂」2-120号(2022.9.20発行)

会報「鳴り砂」2-120号(2022.9.20発行)別冊

一面論文「原発復権」の動きに抗し、女川2号機再稼働を食い止める闘いの継続を!

 8月24日、政府は「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で、「エネルギー危機克服と脱炭素の両立」(岸田首相)のためとして、「次世代型原発の建設」および「最長60年としてきた運転期間の延長」の検討を公表するとともに、新規制基準の審査に合格している原発7基(女川2を含む)の再稼働について「国が前面に立ってあらゆる対応を取る」(岸田首相)と前のめりの姿勢を表明した。安倍・菅政権でさえ、原発への依存を可能な限り低減させ、新増設は想定しない、としてきた震災以来の方針の大転換である。
 これは表向きには「エネルギー危機克服と脱炭素の両立」(岸田首相)のためとしているが、その背景に「原子力ムラ」の焦りがあることは間違いない。8月31日のBSテレビ東京の番組に出演した奈良林直東工大特任教授は、この方針表明を「(原子力産業を維持するための)ギリギリのタイミング」だったと発言した。つまり、仮に現在ある原発が再稼働し、40年はおろか60年に延長したとしても、新増設がなければ原発産業は衰退の一途をたどるしかないからだ。「原発は裾野が広い産業で、その影響は広範囲にわたる」(同番組)と強調しているのも、廃炉だけでは原発産業を補うことができないという焦りの表れだ。そして、すでに日立がGEと組んでカナダでSMR(小型モジュール炉)を受注し2028年に初号機の完成を目指しているとしている。
 しかし、早速与党である公明党山口代表が「原発の新増設はこのままでは理解を得るのは簡単でない」と発言したのを初め、各立地自治体では「これまで通り安全審査を徹底して行う。その上で実効性のある避難計画を立案し、県民の意見を聞いて判断する」(大井川和彦茨城県知事)など、少なくとも表向きは従来の姿勢を崩していない。それもそのはずで、そもそも再稼働については、経産省などから独立した原子力規制委員会が再稼働のその日まで責任を取る体制がつくられている(安全対策工事の監視など)。にもかかわらず政府が再稼働を声高に主張するのは越権行為であり、規制委員会へのプレッシャーとなって安全性がないがしろにされかねない。同じことは自治体にもあてはまり、ろくな避難計画もできていないのに、地元合意を迫る圧力となりかねないのだ。

 そもそも、原発をめぐる問題性はこの間全く変わっていない。あえて列挙すると、①経済性がない(日本でも太陽光の方が安くなっている、またそもそも国の財政支援なしに、もんじゅも最終処分場もできない)、②事故の際の被害が甚大(避難計画が必要な発電設備は他にはない)、③核のゴミの処分ができない(10万年も管理が必要なものが他にあるだろうか)、である。つまるところ甚大なエネルギーと引き換えに必ず発生する放射能の制御を、人類はどう逆立ちしてもできないという宿命的なものなのだ。にもかかわらず、手をかえ品をかえて原発に固執すれば、必ずしっぺ返しをくらうことは必至だ。しかし、そのしっぺ返しを食らうのが、必ずしもその電気を使う地域・時代の人間とは限らないのが問題だ。私たちは倫理的にも、当座のエネルギーと引き換えに莫大な放射能というツケを過疎地域や将来世代に必ず押しつける原発を認めるわけにはいかない。
 一方、2月24日から始まったロシアのウクライナ侵攻は半年を過ぎたが、一向に戦火がやむ気配がない。そうしたなか、ヨーロッパ最大といわれるザポリージャ原発をめぐる攻防・事故発生の危険性に世界中が固唾を飲んでいる。砲撃が相次ぐなか、IAEAが9月1日現地に入り、原発の施設の被害状況などを確認し、6日に報告書を公表。そして9月11日にはIAEAのグロッシ事務局長が「砲撃が続く限り、危険な状況に変わりはない」として「深刻な懸念」を改めて表明した。これらの危機は、いうまでもなくロシア軍がザポリージャ原発を占拠し拠点にしていることが根本原因であり、ロシア軍の撤退がなにより求められるが、これらのことが意味するのは、原発は戦争やテロの標的に実際になりうるという現実である。相手側にしてみれば、原発は「いまそこにある攻撃用の核兵器」なのだ。安全保障の観点からいっても、原発をなくすことが「安心・安全な社会」の第一歩なのだ。

 こうした国内・国際情勢のなか、女川原発2号機では「これまで例がない」(東北電力)サプレッションチェンバー(圧力抑制室)の耐震補強工事が進められている。この難工事のため安全対策工事が2023年11月までかかるとしている東北電力が、よもや岸田首相の意を組んで工事を前倒しすることはないと思うが、これ以上の延期をすることは許されないとの思いになっている可能性はある。しかしコロナ感染者が連日発表され、工事に少なからず影響を与えていると推測される。また、「脱原発東北電力株主の会」の質問に対して「圧力抑制室の耐震補強工事については、非常に狭い場所での工事となることから、溶接等に気をつけ、品質を管理していくことが非常に重要だと考えております。このため工事に先立ち、実物大の模型を造り、それを用いて実際にどういった溶接をするかなど方法を検討した後、作業員の溶接訓練により習熟度を高めた上で、現場の工事を行っていくこととしております。さらに、酸欠、熱中症、火災発生等の防止や被曝管理といった労働環境にも十分注意しながら、対応してまいります」「圧力抑制室内の空間放射線量率は、最大で5マイクロシーベルト毎時程度となります」と回答しているが、これまで数多くの労災やトラブルを引き起こしてきた女川原発で、また新たなトラブルが発生し、けが人や被曝者が発生することがないか注視していく必要がある。
 それにしても驚くのは、「この11年間での原子力発電費の総額はいくらになっていますか」との「株主の会」の質問に対する、「2011~2021年度の合計1兆609億円」(毎年900億円~最大1122億)との東北電力の回答である。11年で全く利益を生み出していない施設に1兆円もかける企業・プラントが他にあるのだろうか? 再稼働すれば元が取れるのだろうか?(ぜひ専門家の方に分析していただきたいが)
 夢のある未来を描くために、この1兆円を環境と調和した再生可能エネルギーへと投資先を変えることこそ福島原発事故を経験した私たちみんなが誇れる出発点になるのではないだろうか。
 一方、7月13日の東京地裁の「東京電力株主代表訴訟」での13兆円超えの賠償命令判決をうけ、全国株主の会11団体は、連名で各電力会社社長に『脱原発の決断をお願いします』との要望書を提出した。判決では「原子力発電所を設置、運転する原子力事業者には、最新の科学的、専門技術的知見に基づいて、過酷事故を万が一にも防止すべき社会的ないし公益的義務があることはいうをまたない」として、この過去最大の賠償の根拠にしている。
判決では「原子力発電所を設置、運転する原子力事業者には、最新の科学的、専門技術的知見に基づいて、過酷事故を万が一にも防止すべき社会的ないし公益的義務があることはいうをまたない」と、1992年伊方最高裁判決を参考にして、この過去最大の賠償の根拠にしている。事故の責任を電力会社に押しつける「国策民営」は破綻しつつある。
今こそ、東北電力は不条理な原発からの脱却を戦略的に思考していくべきではないか。それは、私たち市民が絶え間ない脱原発の声をあげ、訴えていくこと抜きには決して実現できない。ともに再稼働反対、そして原発のない社会の実現に向けがんばろう。
(事務局 舘脇)