-最近の気になる動き93- ≪速報:女川原発1・2号機7.12「硫化水素」問題≫

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-最近の気になる動き93-≪速報:女川原発1・2号機7.12「硫化水素」問題≫

-最近の気になる動き93-
≪速報:女川原発1・2号機7.12「硫化水素」問題≫
 東北電力は、7.12の14:40頃に「(女川原発)1号機廃棄物処理建屋において、洗濯廃液を貯留するタンク内の硫化水素の発生を抑制するため、空気注入による攪拌作業を行っていたところ、硫化水素がタンクに接続される配管を通じて2号機の制御建屋内に流れ込み、当該作業員が吸い込んだ」ことで「協力企業作業員7名の体調不良者が発生」し、「詳細については現在調査中」と公表<2021.7.13付お知らせ>。
 ここで、洗濯廃液(ランドリドレン)とは「管理区域内で使用した被服等の洗濯で生じる廃液」で、管理区域内作業により(衣服等に付着した)放射性物質が含まれているため、タンク貯蔵後、女川原発では廃液は蒸発濃縮処理され、分離回収した水分は(一部再利用され、残りは)温排水に混ぜて環境中に放出され、乾固した固形分は低レベル廃棄物としてドラム缶で貯蔵されます(最終的には六ヶ所村へ搬出)。そして、洗濯廃液には、洗剤中の主成分・界面活性剤や作業員の皮脂汚れ等の各種「有機物」と、洗剤に添加された「硫酸塩」が含まれていると考えられ、嫌気(酸欠)状態ではそれらを“エサ”に「硫酸還元菌(嫌気性細菌の一種)」が「硫化水素(有毒)」を発生させることから、硫化水素発生(=硫酸還元菌の働き)を抑えるため、「空気注入による攪拌作業」(曝気・送気)で嫌気状態の打破(=酸素供給・好気状態の回復)を行なっていたものと思われます。
 <*下水道が普及していなかった昔(筆者の幼少期)は、特に酸欠状態(=嫌気性の硫酸還元菌やメタン生成菌等も活発)になりやすい夏場は、ドブ(側溝・排水路)の黒色の泥部分から硫化水素(やメタン)がプクプク湧いて、生卵が腐ったような硫化水素特有の臭いがドブ周辺に漂いました。ちなみに、泥の黒色の主成分は、水中に多く含まれる鉄分と硫化水素が結合した「硫化鉄」で、そのおかげで硫化水素は無害化・安定化されます。なお、現在でも、嫌気状態になりやすい下水道・密閉タンクの清掃時、タンク内に滞留・充満する硫化水素(やメタン・二酸化炭素)は要注意で、作業に先立つマンホール・タンク内のガス成分・濃度確認は必須です。登山の際にも、窪地に滞留する火山性ガスの硫化水素や二酸化炭素には要注意です。>

今後の電力報告では、さすがに配管の接続状況(硫化水素ガスの流出・流入経路)の図面は示すと思われますが、その上で、原因はタンクの曝気・送気作業(=タンクに溜まっていた硫化水素の排出)に先立つ配管の隔離確認(作業手順書)の不充分さ、再発防止策としては隔離確認の手順書への明記や作業前の隔離確認の徹底などを挙げただけで、配管接続問題には触れず、“お茶を濁す・ゴマカす”のではないかと筆者は邪推します。
 でも、今回明らかとなった最大の問題は、新規制基準による安全性審査(再稼動のお墨付き)を経たはずの2号機の最重要施設の一つである「制御建屋」が、なんと(廃炉が決まった)1号機「廃棄物処理建屋」と直接「換気用配管」=『毒ガス通気経路』により結ばれていた、という事実です。
 そもそも、「換気系は、原子炉建屋換気系、放射性廃棄物処理建屋換気系、タービン建屋換気系、制御建屋換気系及び焼却炉建屋換気系に大別され、それぞれ独立な換気系となっている」<1号機原子炉設置許可申請書添付書類8「13.2換気系」:下線筆者。なお、2号機添付書類8「12.4換気空調系」では「中央制御室換気空調系、廃棄物処理建屋換気空調系」となっていますが、「それぞれ独立な系統とする」ことは同じです。>とされ、しかも、1号機廃棄物処理建屋換気系からの排気は排気筒から大気放出されることになっており、1・2号機の排気筒は個別に設置されていますので、福島第一原発事故で1・2号機間および3・4号機間で共用していた排気筒を通じての『ベントガス・水素の流出入(逆流)』が生じたのとは異なり、女川原発では排気筒を通じた『硫化水素の流出入』は考えられません。
 したがって、「独立な系統」とされたはずの1号機の廃棄物処理建屋換気系から、しかも“号機の垣根”さえ越えて、2号機の制御建屋にまで硫化水素が流入した経路と、そのような経路が存在・放置されていた理由(最大の原因)を、きちんと解明する必要があると思います(テロ対策上も重大な問題をはらんでいますので、調査結果の詳細・図面は「非公開」とされる?)。

 付言すれば、女川2再稼働申請後に定められた『有毒ガス防護に係る影響評価ガイド』に対するH30.5.10「女川2・有毒ガス防護について」で、東北電力は「敷地内外に貯蔵された化学物質及び敷地内で輸送されている化学物質について,性状,貯蔵量(輸送量),貯蔵状況等を調査し,女川原子力発電所にて考慮する固定源及び可動源を特定し,有毒ガス防護判断基準値を設定する。」と述べていますが<p.4>、調査対象の化学物質に今回問題となった硫化水素は含まれておらず<p.6-8,10-12>、いわば“想定外”となっています。この点、東北電力は、当該硫化水素が「敷地内外に貯蔵」もしくは「敷地内で輸送」されるものでなく、前述のとおり硫酸還元菌により嫌気状態で「生物学的に生成」されるものだから見逃した=盲点を突かれた、と弁明するかもしれませんが、復水器・補機冷却用海水の取水管や取水槽・ストレーナーなどの設備には様々な海生生物(の死骸)が付着・沈殿するため、設備の清掃作業時(定検中)には硫化水素(や二酸化炭素)に注意すべきことが定められているはずで、また、今回も当該タンク(1号機)で「空気注入による攪拌作業」を行なっていたことに鑑みれば、“想定外”ではなかったはずで、毒ガス防護ガイド審査のいい加減さ(抜け穴)をも示すものだと思います。
 <2021.7.24記 仙台原子力問題研究グループI>