≪最終整理:“詭弁頼み”の女川2硫化水素防護は『違法』?≫

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≪最終整理:“詭弁頼み”の女川2硫化水素防護は『違法』?≫

(以下原稿ですが、資料は割愛しています。是非上記≪最終整理:“詭弁頼み”の女川2硫化水素防護は『違法』?≫をクリックしてご覧下さい)

≪最終整理:“詭弁頼み”の女川2硫化水素防護は『違法』?≫
 前号『鳴り砂別冊 追加検証』で述べた自治体による3度の立入調査の関係文書(開示文書)から明らかになった事実も踏まえ、女川2の有毒ガス防護の実態を最終整理したいと思います<もしかすると問題点は解消された可能性もありますので>。

★「固定源」なしとの詭弁で審査合格!
 東北電力は、女川2の有毒ガス防護審査において【2022.4.8規制委との最終面談資料11「指摘事項に対する回答整理表」】、女川独自(=新知見)の2021.7.12硫化水素流出・労災事故について、「今回策定した再発防止策によって、当該事象は発生しない」から硫化水素発生源の1号機沈降分離槽(当該タンク)は「固定源として取り扱う必要はない」(「固定源」なし⇒「スクリーニング評価」せず⇒「対象発生源」なし⇒「影響評価」せず⇒「検出・警報装置」不要)と主張し<後述>、また、同様事象は「予期せず発生する有毒ガスの体制・手順により対応」すれば十分と弁明。
それに対し規制委は、『毒ガスガイド』の盲点を突いた東北電力の詭弁を鵜呑みにして、審査らしい審査もせず(できず)、2022.6.1に審査合格を与えました。

★硫化水素大量放出『理論』で責任転嫁
 では、「今回策定した再発防止策によって、当該事象は発生しない」のでしょうか。
東北電力は、「今回の硫化水素の流出事象」について、規制委に対し数々の事実・真相を隠し続け、誤った事故原因・メカニズム(非科学的な『東北電力理論』)に基づく的外れの「再発防止対策」を講じたに過ぎず、「当該事象は発生しない」と言い切れるものではありません。また、今回の事象が明らかにした、1・2号機間での廃棄物処理系共用(接続配管)という根本原因・潜在リスクについては一切触れず(設置許可への波及回避)、配管の隔離弁閉止で十分としています。
 ここで、改めて東北電力の事故分析を見ると、推定原因として、「(1)作業管理の観点」から「a.スラッジの長期大量蓄積」、「b.2号機建屋への隔離措置の不備」、「c.立入禁止措置・連絡体制の不備」を挙げ、「(2)設備管理の観点」から「a.硫化水素が大量放出され、換気空調系で排気し切れず」ということを挙げています【同4.8資料3・別紙11(238枚目)】。
 このうち、「(1)a,b」と「(2)a」は、スラッジ中に「大量」の硫化水素が蓄積され、事故時の曝気作業時に「大量」に放出されたという『東北電力理論』に基づく推定ですが、この間筆者が指摘し続けてきたように、コロイド状(高含水率=大量の間隙水)のスラッジ(活性炭+凝集剤)が気体を内部に封じ込められるほど固結し、固結スラッジ中に硫化水素ガスが(溶存以外に)大量に封入・蓄積され、それが曝気作業(固結スラッジの破壊?)で突然大量放出されることなど、物理的・化学的に考えられません。ちなみに、筆者の試算(前号)では、事故時の30分空気注入量434㎥に対し、液相部から気相部への硫化水素移行量・放出量は最大(気相部分圧1atm)でも178㎥(空気注入量の41%)に過ぎません。前号指摘のとおり、真の事故原因は、排気速度700㎥/h(30分排気量350㎥)を上回る空気(434㎥)を注入した“単純な作業ミス・人為ミス”ですが、東北電力は、それを“隠ぺい”するため(さらには“労災事故上の責任回避”も兼ねて?)、硫化水素が予期せず「大量」放出されたため「排気し切れなかった」と“言葉だけ”で弁解し続けるだけで、「大量」放出の検証に必要な「硫化水素濃度データ」などは一切示そうともしません<上記の排気速度・注入速度も東北電力自身は非公表。自治体からの開示資料で初めて判明>。
さらに、もしも硫化水素が「大量」放出されたなら、2号機流出時には致死濃度を遙かに上回る高濃度流出となるものと推察されますが、それは、被災作業員7名とも健康被害のみで死には至らなかった事実とは整合せず、東北電力の「大量」放出『理論』の“おかしさ”は明らかです。東北電力・担当社員が、許容濃度(5ppm)や致死濃度(700ppm)の「ppm(百万分の一)」という単位を正しく理解していれば、事故時にスラッジから放出され注入空気と共に流出した硫化水素は、「空気注入量の数万~数十万分の一=少量」だと正しく判断できたはずです(規制委・労基署も同様)。
加えて東北電力は、「硫化水素」という表現を漫然と(実態を理解せず?)使い続けていますが、正しくは「硫化水素混合空気=硫化水素が注入空気により数万分の一に希釈された混合気」で、「ppm濃度の混合気」の比重は「ほぼ空気に等しい」ので、「100%硫化水素:34.1」と「100%空気:28.8」の「比重差」に基づく安全性の主張③【同別紙11(239枚目)】など、まさに“噴飯もの”です。東北電力の説明通り通常時にタンク気相部が「②常に…換気されている」なら硫化水素濃度はより薄められるはずですが、それがなくても単純に「ppm濃度の硫化水素混合気」が「比重差」により気相部下部に滞留・成層化したり、タンク内に留まって上層階に流出しないなど科学的に言えるはずがなく、③はまさに“蛇足中の蛇足”です(その理屈からすれば、同じく嫌気状態で発生する「メタン:16」は、比重が小さいため上層階に流出して爆発する危険性あり、ということになります)。
一方、東北電力の上記の数々の“おかしな”弁明に疑問を感じない規制委・規制庁(や石巻労基署)の“科学的常識”も極めて怪しいもので、本当に流出事故や労災事故の「再発防止」ができると判断できたのか、疑問です。

★(1)a対策:「スラッジ排出、曝気頻度増」は有効?
 さて、前述のとおり、事故の真の原因は排気速度を上回る空気注入を行なった単純ミスですが、東北電力は、硫化水素の「大量」蓄積・放出という『理論』(推定原因)を提唱した以上、それに対する「対策」を“余分”に講じる必要が生じました【同別紙11(240枚目)】。それらの“余分な対策”で同タンクの「好気化(硫化水素発生ゼロ)」が実現できるなら結構ですが、本当に有効・妥当なのでしょうか。
 まず、「(1)a」対策として、定期的なスラッジ排出(年1回以上)を打ち出し、貯留量(限度76㎥、事故時は74㎥)をタンク全容量100㎥の半分の50㎥以下に維持するとしています。でも、50㎥以下なら硫化水素発生を抑制できるという科学的根拠はどこにも示されていません(場当たり的)。
また、これまでの週一度の空気撹拌作業の「頻度」を‘濃度測定結果に応じて適宜見直す’としていますが、具体的に何をどうしたいのかが全く見えません。嫌気状態が再発・継続する限り硫化水素は発生・蓄積されるのですから、極端に言えば、「常に好気状態を維持する」ことを目標に、少なくとも曝気終了時に「溶存酸素濃度が○ppm以上」とか「酸化還元電位<*>が○mV以上」<*東北電力はこれらの指標を知らないのか、意図的に測定していない?>になるよう長時間・高頻度で曝気する、などと具体的に規定すればいいのです。従前の30分曝気の頻度を、‘週1回では不十分だったから週2~3回に増やす’程度の素人的対策しか打ち出せないのは、曝気の効果を定量的・科学的に把握しようとする意思能力がないからではないでしょうか。
付言すれば、前々号で指摘した「スラッジ移送用ポンプ」と「戻し配管」でスラッジ全体を強制循環・撹拌すれば(週一度でも月一度でも)、スラッジ貯留量に関わらず、固結の防止も好気化も、より一層確実に実現できると思います。
実際に「(1)a」対策で「好気化」され、「2022年3月末の硫化水素濃度0ppm」【2022.5.16東北電力情報別紙】がその後も維持できているなら、2022.4.8最終面談で規制庁に「ゼロデータ」を明示すれば、「同タンクは硫化水素を保管する設備ではない」という姑息な“詭弁”【同別紙11(243枚目)】を弄さずとも‘同タンクは「固定源」でない’のは明らかで、筆者も素直に納得します。でも、それ以降「ゼロデータ」の公表がないのは、硫化水素が未だ発生しているからだと邪推せざるを得ません≪本稿末尾≫。

★(1)b対策:「1号機逆流可能性」の目くらまし
 「(1)b」対策の、1・2号機接続配管の「隔離弁閉止」自体は、今回の事故の再発防止策としては当然です。でも、曝気時の隔離弁不調・故障や通常時の換気空調系停止などが生じれば2号機側へ逆流する可能性があることは明らかで、ランドリドレン処理系の共用廃止・配管撤去こそが根本的な逆流防止策です。
また、硫化水素が「大量」発生した際、「隔離弁閉止」で2号機に流出せず、換気空調系でも排気し切れない場合、一体どうなるのでしょうか。ランドリドレン(洗濯廃液)発生源たる1号機洗濯室(制御建屋2階)に逆流するのではないでしょうか。
東北電力は、2号機側流出に焦点を当てることで、事故当初から1号機洗濯室への逆流可能性を徹底的に“秘匿”していますが(それだけ重大な不都合あり?)、今回の事故を教訓に、1号機洗濯室への逆流防止対策も講じる必要があるはずです。

★(1)c対策:「系外への漏洩・流出なし」は虚偽報告
東北電力は、「(1)c」で作業・連絡体制の不備等を自認し(真偽が深堀り検証されないよう)、再発防止策を講じたから問題なし、としています。ところが、前々号記載のとおり、事故当日、「14:30頃」の2号機側異臭連絡(事故発生)より早い「14:20頃」に、1号機同タンク付近で硫化水素の濃度測定が行なわれていたのです。
実際に濃度測定をするには、作業員の安全確保のための防護具や測定機の用意、入退域・測定手順の作成などが必要なはずで、このことは‘硫化水素漏洩に備えた濃度測定・安全確認’という「酸欠作業に準じた措置」を、事故当日にも“それなりに”講じていたことは明らかで、「(1)c」(不備の自認)は意図的な虚偽報告です。
また、測定の目的は、事故当日の2倍圧の空気注入による同タンク付近での漏洩等の可能性を懸念して“特別に測定”した可能性もありますが、むしろ、過去に漏洩が生じた経験があり、それ以降は曝気時の作業手順・安全確認の一つとして“毎回測定”(上記の機器準備や手順作成も)していた、と考えるのが自然ではないでしょうか。
いずれにしても、前々号指摘のとおり、「14:20頃」の「50ppm・5ppm」という有害濃度の「系外流出」の事実は、東北電力が繰り返す、事故以前(直前も含む)には‘系外への流出なし’との説明【同別紙11(235枚目)】が“虚偽”だったということを証明するもので、測定の目的や経緯、過去の漏洩・流出の有無などを規制委(や労基署)に追及されないよう、測定の事実自体を隠し通しているのだと思います。

★(2)a対策:意味不明な「排気量増加」
「(2)a」対策(排気量増加)は、排気能力を上回る空気を注入した単純ミス(排気量不足)という“真の事故原因”に鑑みれば、当然といえば当然のものと思われます。
でも、よくよく考えると、今後の空気注入も従前の注入圧力でなされるのであれば、特に排気量を増加させなくても、十分に排気し切れるはずです。また、東北電力が、「(1)a」対策で硫化水素発生を低減でき、今後は『理論』の言う「大量」放出は二度と起こらないと主張するなら、排気量増加は不要のはずで、明らかに矛盾しています。
実際には、“真の事故原因”の排気量不足を意識し過ぎて、排気量を増加しさえすれば‘文句は出ないはず’と、単純・短絡的に考えただけではないのでしょうか。
なお、「(1)a」対策のスラッジ好気化のため、今後は(注入頻度だけでなく)注入圧力をも常に増加させるのであれば、それに対応させて排気量を増加させるのは当然のことですが、その場合、「増加」の曖昧性を排除するため、例えば「曝気時の排気速度 ≧ 通常時の排気速度+空気注入速度」とか「曝気時の排気速度 ≧ 空気注入速度×○倍」などと、注入・排気のバランス(注入速度<<排気速度)を考慮した“定量的な規定”を設定すべきで、東北電力の言葉だけの対策では不十分です。

★最後の砦:「予期せぬ有毒ガス対応」は間に合う?
最後に、同様事象は「予期せず発生する有毒ガスの体制・手順により対応」すれば十分なのでしょうか。
東北電力は、「固定源」ではないとして評価対象外とした「沈降分離槽」で、今後も発生・蓄積され、1号機換気空調系・排気筒から高濃度で無処理放出される硫化水素が、2号機中央制御室外気取入れ口にまで到達した場合の危険性を規制委に“感づかれ”、せっかく回避した「濃度評価」等を最初からやり直しさせられる(その場合、最終的に「検出・警報装置の設置が必要」という結論になることは必至で、設置許可・工事計画認可等の手続きが必要となり、費用も時間もかかる)のを避けるため、「固定源」以外からの硫化水素放出と一括りにして、「予期せず発生する有毒ガス防護に係る対応」により安全は確保できると弁明しています【同別紙11(243枚目)】。
放射性物質流入の場合は、2号機中央制御室に設置された放射線モニターですぐに外部からの「予期せぬ」流入が検知され、直ちに外気取入れを遮断することが可能と思われます。一方、「予期せぬ」硫化水素流入に対しては、検出・警報装置は設置されていないため、高濃度硫化水素が外気流入した場合、最悪を想定すれば、運転員の誰かが流入=異臭・眼の痛みに気付く前に室内に万遍なく拡散し、防護具・空気呼吸具(自給式呼吸器)を着用する前に全員が危険量を吸引してしまい、原子炉の操作・運転監視に必要な視覚の喪失(眼の損傷)を含む健康被害(最悪は死亡)に遭うことも考えられるのではないでしょうか。
ちなみに、『ガイド』では‘検出から2分以内の空気呼吸具の使用開始’が「安全余裕を与える」とされていますが、上記のとおり、無処理放出硫化水素の外気流入の場合、装置による「自動検出」は不可能なので、運転員自身の身体異常により「流入を検知」するほかなく、この場合「2分の安全余裕」などないことは明らかです。「身体的流入検知」と同時に、「眼の損傷」や「呼吸障害」が生じても、直ちに息を止めるなどして(息を止める前の深呼吸は最も危険)、東北電力の上記(2)・(3)「手順」に従って、冷静かつ粛々と空気呼吸器(制御室内の各人の作業場所付近に常備?)を装着することなど、実際に可能なのでしょうか。

★同タンクは「固定源として取り扱う必要はない」?
以上いろいろと述べてきましたが、もしかすると東北電力は、「今回策定した再発防止策によって」、2022.3月末以降は同タンクの硫化水素濃度「ゼロ」を達成・維持できており、「固定源として取り扱う必要はない」から、硫化水素検出・警報装置なしで、女川2の再稼動を行なおうとしているのかもしれません。
どなたかお手数ですが、「再発防止対策の確認」のため、スラッジ排出(貯留量)と曝気頻度(時間も)の現状と、特に硫化水素濃度(データ入手が困難なら、「ゼロ」確認で十分)について、何かのついでに、東北電力や宮城県などにご確認いただけないでしょうか。少なくとも「ゼロ」確認ができたなら、一件落着になると思います。
<2023.9.9完 仙台原子力問題研究グループI>