-最近の気になる動き93の2-≪続報:女川原発1・2「硫化水素」問題≫

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-最近の気になる動き93の2-≪続報:女川原発1・2「硫化水素」問題≫

 前稿「気になる動き93 ≪速報≫」記載のとおり、筆者は当初、7.12労災事故の硫化水素ガスの流出入経路として気体(放射性)廃棄物処理に係る「換気空調系」を疑いましたが、建屋毎に独立な系統になっていたことからその可能性は低いと思い直し、新たに液体(放射性)廃棄物処理に係る「排水配管」(液体も気体も多少の固形物も流通可能)について調べてみました。
そこで改めて『2号機設置変更許可申請書』を見直してみると、1・2号機間で「ランドリドレン処理系を共用」との記載があり(おそらく経済性確保のため)、これが唯一の共用(放射能レベルが高い機器ドレン・床ドレンなどは、さすがに号機別に設置)でした。それに基づけば、2号機制御建屋(更衣室・洗濯室等)からのランドリドレン「排水配管」が、1号機廃棄物処理建屋「地下1階」のタンクに自然流下するよう2号機建設時に敷設され、1号機廃炉が決まってもそのまま維持されているため、7.12に廃液貯蔵タンク内の硫化水素発生を抑えるために「空気注入による攪拌作業(曝気)」を行なった際、タンク上部の気相部に蓄積および液相部に溶け込んでいた硫化水素が、液相部に注入された大量の空気(曝気・バブリング)により押し出され、排水配管を逆流し、2号機制御建屋のランドリドレン用排水口から流出したと推察できることから、この「共用」こそが『根本原因(元凶)』だと筆者は確信しました。

 その後、その“答え合わせ”資料が、8.12東北電力情報「2021年7月分定期報告」別紙・添付-4の「硫化水素発生経路(推定)イメージ図」【次頁の図2】として公表され、硫化水素が、1号機廃棄物処理建屋「地下2階(?)」の①洗濯廃液貯留タンク(沈降分離槽)から、②同タンク(ドレンタンク)を経由し、2号機制御建屋2階女性用更衣室の手洗い槽・排水マスに通じる「排水配管」から流出し、最終的に1階入退域エリアにまで流下したことが示され、ほぼ筆者の推測どおりでした。
同報告は、A「現在、詳細な原因調査を行っているところであり、引き続き、労働基準監督署の指導を踏まえながら、原因に応じた対策をしっかりと検討し、再発防止に努めてまいります」、B「なお、本事象の発生以降、当該タンクの空気注入による攪拌作業を中止するとともに、当該タンクが設置されているエリアへの立入制限や作業員への注意喚起などの安全措置を講じております」、C「また、当該タンク周辺や体調不良者が発生したエリアにおいては、硫化水素濃度を毎日測定しており、測定の結果、濃度が1ppm 以上検出された場合は、速やかに当該場所から作業員を退避させるとともに、建屋内への入域制限を行うこととしております」と述べる一方、本文では「発電所の安全性に影響を与える事象ではありません」と繰り返し、図でも1・2号機を結ぶ『毒ガス経路』(図の吹き出し:筆者加筆)は特に強調されていません。
 しかしながら、上記Bの具体策として、こっそりと「当該タンクが設置されている1号機廃棄物処理建屋の一部を施錠管理し、立入制限を実施」<事象発生を踏まえた現在(8/12時点)の取り組み>した点は、大いに注目すべきです。なぜなら、今回の事故で硫化水素は、①タンク(換気空調系も設置され、直接のガス流出の可能性は極めて低い)や他の3つのタンクおよび接続配管から直接1号機廃棄物処理建屋には流出しておらず、流出可能性があった(今後もある)のは同様の「排水配管」を有するはずの1号機制御建屋(入退域エリア・更衣室・洗濯室等)だけなので、“労災事故の再発防止”を図るなら1号機制御建屋について硫化水素濃度監視等の(上記Cの2号機制御建屋同様の)安全措置を講じるべきですが、そうではなく「廃棄物処理建屋の一部」に上記諸対策(施錠・立入制限)を実施したのは、『毒ガス経路』を利用した“2号機テロの危険性”を認識して再発防止しようとしたのが真の理由と思われます。ただし、その真の目的が表面化しないよう(規制委・地元自治体・マスコミ等に悟られないよう。ただし、後日規制委に『毒ガス経路』の存在がバレたら、「テロ対策は実施済み」と釈明できるように?)、“さり気なく”上記B対策を講じたものと思われます(そうでないなら、東北電力のテロ対策・核物質防護思想は素人発想以下で、最初から原発を稼働させる資格などありません!)。

(図あり pdfで確認してください)-最近の気になる動き93の2-≪続報:女川原発1・2「硫化水素」問題≫

 一方、今回の事故について、同様に「排水配管」が通じている1号機制御建屋には逆流しなかった理由について、両号機からの配管途中に付いていると思われる排水トラップの水位差や、逆止弁の有無・密閉能力の差、管路の長さ・高低差・屈曲箇所数の違い等々に基づき、東北電力はきちんと解明する必要があります。
 また、上記Aにかかる労災事故の再発防止および過失責任究明の観点から、従前は週1回程度曝気しており、7.12時には空気注入量が従前より多かったため逆流が生じた可能性があるようですが<脱原発東北電力株主の会・篠原弘典さんからの情報>、その原因について、空気注入量や曝気時間を定めたマニュアルがなかったのか、今回は従前の経験者ではなく新人が作業していたのか、作業員はマニュアルを参照しなかったのか(作業の引き継ぎ不十分)、マニュアルを読み違えたのか等の解明が必要です。また、従前の作業時にはタンクからの硫化水素の除去・無害化(単なる希釈?)を担っていたはずの「換気空調系」が今回は作動しなかった(させなかった?)原因についても、作業前に作動させ作動確認するマニュアルがなかったのか、今回はマニュアルを参照しなかったのか、人為ミス・作業担当部署間での打ち合わせ不足などによって作動させ忘れたのか、機器の故障・不具合により作動しなかったのか(にもかかわらず曝気を開始したのか)等についても、明らかにする必要があります。
 加えて、今回は“幸い”にも、大量の注入空気(と2号機制御建屋の空気)により硫化水素は被害者ら吸入時には「致死濃度」以下に希釈されていたと思われますが、排水口から逆流流出した初期(1号機での曝気開始直後、2号機制御建屋への作業員入域前?)の硫化水素は、注入空気による希釈・混合が十分には行なわれず「致死濃度」以上だった可能性もあることから、逆流経路上の各タンクの気相部や配管の容積や通常時の濃度、それら諸元に基づく空気注入(量・時間)に伴う濃度変化についても、労基署の労災調査で明らかにされることを期待します。

 おそらく、今後公表予定の最終報告では、上記A「…労働基準監督署の指導を踏まえながら、原因に応じた対策をしっかりと検討し、再発防止…」とあるように労基署の指導項目を“表向き”の再発防止策として、8.12報告記載(対応済み)の上記Cの2号機制御建屋での硫化水素の測定・結果掲示(入域制限)に加え、今回の空気注入量が従前(の規定値・経験値)よりも多かったため逆流したので今後は従前の注入量を遵守するとか、タンク内の硫化水素の「通常の排出経路」である「換気空調系」の作動し忘れがあったため今後は作業前に作動確認するなど、作業手順・マニュアル改訂・社内組織見直し等に限定した“目くらまし的幕引き”が予想されます。
 しかしながら、前述した今回の事故の『根本原因』に鑑みれば、真の再発防止策=テロ対策は(労基署指導の対象外!)、「ランドリドレン処理系」共用の廃止と、それに伴う2号機ランドリドレン処理系の新設以外になく(それには液体放射性廃棄物処理系全体の設計変更、諸設備の配置見直しが不可欠で、貯蔵タンクや蒸発固化装置(他のドレン系の処理設備を利用?)などの新設スペースの確保等は難題だと思われます)、設置変更許可・工事計画認可などの諸手続きが改めて必要となります。
 加えて、規制委の女川2審査書(2020.2.26)では、硫化水素と関係の深い「原子炉制御室及び緊急時制御室の運転員については、対象発生源の有無に関わらず、有毒ガスに対する防護を求める」ことを定めた『有毒ガス防護に係る影響評価ガイド』(H29.4制定)は、不思議なことに、全13の参照ガイドリスト<p.2-3>に含まれていません。また、東北電力も、前稿で述べたとおり、同ガイド制定後の敷地内外の貯蔵・輸送化学物質についての調査で、(生物学的に施設内で発生する)硫化水素は対象としていません<2018.5.10「女川2・有毒ガス防護について」p.6-8,10-12>。さらに、今回の事故により、設置許可基準規則12条7項「重要安全施設以外の安全施設について、二以上の発電用原子炉施設において共用し、又は相互に接続する場合には、発電用原子炉施設の安全性が損なわれないものであること」にも適合しない状態にあることは明らかです。以上に鑑み、改めて規制委は、同ガイドおよび設置許可基準規則12条7項に基づく適合性の再審査を行うべきです。
 2号機再稼動は、“真夏の逃げ水(蜃気楼)”のように、東北電力が必死に追えば追うほど、遠ざかってゆくようです。
<2021.8.19記 仙台原子力問題研究グループI>